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面影橋メモリーズ
面影橋メモリーズ(6)
しおりを挟む荒川線の電車は夕暮れの下町を、こまめに停留場へ寄りながらのんびりと走っていく。
町屋駅前停留場を過ぎれば、あとは停まるごとに車内は空いていくばかりだ。
日比谷線の三ノ輪駅に乗り換えられるとしても、三ノ輪橋停留場はやはり終点なのだ。
(今年も——ううん、今年はもっと、盛り上がるといいな——)
モジャコは笑みを浮かべて、顔の前に垂れ下がったジシェの尻尾を引っ張った。
ハルの肩も優しく揺する。
「もう終点に着くぞ」
「ほえ……」
ぽーっとした目でハルは車内を見渡した。
「ものすごくよく寝たかも……」
降車ホームで降りて、ハルたちはちょっとしたアーチをくぐった。
停留場は家々が密集した中にあった。
左手は商店街のアーケードの入口、右手はその延長のような町筋、そして、正面は古めかしいビルの中を、狭い路地が通り抜けていた。
ハルは地図アプリを起動した。
おおむね南北方向の日光街道と、東西方向、高架の常磐線が交差するところを中心に据えれば、左上の領域にあるのが荒川線の三ノ輪橋停留場で、そこを含む上半分が荒川区南千住、下半分が台東区三ノ輪。
ただ、区境は常磐線よりも少し南にあって、ちょうど日光街道と交差するあたりを頂点に、複雑に入り組みながら、山なりに両側へ裾を広げていた。
地図の左下の領域では左から下へ明治通りが斜めに横切り、日光街道と交わるところにあるのが、日比谷線の三ノ輪駅。
日光街道に出て、ハルは携帯大幣をかざした。
正確な場所はわからないから、反応の強さを確かめていくしかない。
「どうだ?」
「いかかでござる?」
モジャコと、その頭の上からジシェも覗き込む。
リグナはぼんやり正面の景色を見ていた。
ほんじゃらけー。
「まだ弱いかも」
ハルは答える。
日光街道は交通量が多く、片側2車線の道路をひっきりなしに車が行き交っていた。
信号が変わるのを待って横断歩道を東側へ渡り、光の強さを確認しながら、狭い歩道を南へ。
昼間は仄めく程度であっても、すでに夕闇に包まれた町にあって、携帯大幣の放つ光はかなり明るい。
そして常磐線の高架下を抜け、少し行ったところでまぶしいほどになった。
ちょうど荒川区と台東区の区境に当たる地点だけれども、狭い通りが日光街道と交わる何てこともない場所だ。
信号はあるものの、歩行者専用のもので、そもそも、ハルたちのいる側は歩道の柵が続いているから車は出られない。
ただ、そこには「三の輪橋」と記された標柱があって、かつてそこに川が流れ、橋が架かっていたことをささやかに教えてくれていた。
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