新宿アイル

東京トラム

東京トラム(2)

「この５つと三みノの輪わ橋、面おも影かげ橋以外で『橋』で終わる名前の停留場は？」
「こんな感じかな——」

　地図の上で50近くの点が赤く表示された。

　ハルの考えが正しければ、その中の３か所に、残りの〈追憶のカケラ〉が眠っていることになる。

「1967年」

　ミチルはつぶやいた。

「この路線図のままに電車が走っていた最後の年。時代の流れについていけずにすっかり邪魔ものになって、都電はそのあとの５年間で、いまの荒川線を残して一気に消えてしまったから」

　無くなっていこうとする路面電車、その停留場の名前には残っていたけれど、そのときにはもう無くなっていた橋——。

　ハルは心に思い描こうとして——やめた。
　50年前というのは、想像するにはあまりにも遠過ぎる。

（でも……）

　オーラは確かにそこへ想いを預けたのだと、ハルは強く信じられるようになっていた。

「——まず、それぞれの停留場のまわりをいまの地図で見て、名前の一致する橋の存在が確認できたら、50年前もあったとみなして候補から落としてく。例外はあるかもしれないけど、キリがないから考えない」

　荒川や隅すみ田だ川に架かるような大きな橋なら、地図から名前はすぐわかる。
　該当するのは、まず荒川の次の１つ。

・葛か西さい橋

　そして、隅すみ田だ川に架かる次の８つ。
　下流側から、

・勝かち鬨どき橋
・永えい代たい橋
・新大橋
・厩うまや橋
・駒こま形がた橋
・吾あ妻づま橋
・言こと問とい橋
・千せん住じゅ大橋

　これに「神かみ谷や橋」を加える。

　ここからは手分けして、馴染みのある場所を足がかりに作業を進めていく。
　橋の名前がわからなければ、近くの交差点の名前や周辺の地名から特定する。

　神田川は、井いの頭かしら公園の井の頭池を源に、東へ杉並区と中野区を流れ、高田馬場駅の北で山手線の内側に入り、御お茶ちゃノの水みずの谷を貫通したあと両国付近で隅すみ田だ川に合流する。
　上流からたどっていくと、次の７つを確認できる。

・面おも影かげ橋
・江戸川橋
・石切橋
・小石川橋
・水道橋
・万まん世せい橋
・浅草橋

　これに、飯田橋駅付近で合流する外そと濠ぼりの「飯田橋」を加える。

　その神田川から小石川橋付近で分流し、南東に流れるが日本橋川。
　上流から次の４つが架かっている。

・一ツ橋
・神田橋
・新常磐橋
・日本橋

　どれも上空を首都高速都心環状線が覆っている。

　もっとも多くの橋を確認できるのが渋谷川。
　渋谷川は、渋谷駅付近でいくつかの支流を集めて東へ流れ、浜松町付近で東京湾に注ぐ。
　下流は古川と呼ばれる。

　河口からたどっていくと、まず次の９つ。

・金かな杉すぎ橋
・芝そば園ぞの橋
・赤羽橋
・中ノ橋
・一ノ橋
・二ノ橋
・三ノ橋
・古川橋
・四ノ橋

　ここまでは、首都高速都心環状線と２号目黒線が上にかぶさっているため、地図上で水面を確認するのは難しい。

　首都高速が離れたあと、さらに上流に次の３つ。

・天てん現げん寺じ橋
・渋谷橋
・並木橋

　隅すみ田だ川と旧中川に挟はさまれた江こう東とう区から墨すみ田だ区にかけてのデルタ地帯には、江戸の頃に開削された運河が縦横に走っている。

　北きた十じっ間けん川は、おおむね西北西から東南東の方向に東京スカイツリーをかすめて流れ、隅すみ田だ川と旧中川をつなぐ。
　ここには、次の２つがある。

・十じっ間けん橋
・福ふく神じん橋

　小お名な木ぎ川は、その南をほぼ東西に流れ、同じく隅すみ田だ川と旧中川を結ぶ。
　小お名な木ぎ川には、隅すみ田だ川から分かれてすぐのところに「高たか橋ばし」がある。

　大おお横よこ川は、東の横よこ十じっ間けん川とともに北きた十じっ間けん川と小お名な木ぎ川を南北につなぐ。
　大おお横よこ川には、次の２つがある。

・業なり平ひら橋
・江こう東とう橋

　業なり平ひら橋は東京スカイツリーのすぐ下に架かる。
　そもそも、東武伊い勢せ崎さき線の「とうきょうスカイツリー駅」のもとの名前は「業なり平ひら橋駅」。

　この２つの橋を含む大おお横よこ川の北半分は、親水公園として整備され、運河としての役割はすでにない。

　北きた十じっ間けん川と小お名な木ぎ川の間には、竪たて川も東西に流れる。
　全線に渡って、上空は首都高速７号小松川線であり、また東半分は親水公園となって役割は終えている。

　最後に、川ではなく山手線を跨またぐ「駒こま込ごめ橋」は、ＪＲ駒込駅のホーム西側をかすめる本郷通りに現存する。

　見つからなかったのは、鍛冶かじ橋、合羽かっぱ橋、京橋、呉服橋、桜橋、霜しも降ふり橋、新橋、数す寄き屋や橋、泪なみだ橋、有ゆう楽らく橋の10か所。