新宿アイル

一ノ宮ガユウ

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東京トラム

東京トラム(8)

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 はっちょうぼり駅でハルたちは電車を降りた。

 南側の桜川公園方面改札を抜け、階段を上ってA3出口から地上に出る。

 地図アプリで周辺を表示する。
 画面の中では、東西に横断するJR京葉線、ゆうらくちょう線と、南北に縦断する線、都営浅草線とで、500メートル四方のひしゃげた格子が形づくられていた。

 上の辺が鍛冶かじばし通りの地下を走るJR京葉線。
 下の辺がつくだ大橋から銀座へ続く通りの地下を走るゆうらくちょう線。
 左の辺が昭和通りの地下を走る都営浅草線。
 右の辺が新大橋通りの地下を走る線。


 右上の角が現在地のはっちょうぼり駅。
 右下がゆうらくちょう線のしんとみちょう駅。
 左上が都営浅草線のたからちょう駅。
 左下の角に駅はない。

 ところで、改札口の名前にもなっている公園ははっちょうぼり駅の南東。

 すみ川から西へ、公園を含む700メートルほどは周囲と区割が異なっていて、西の端にはポンプ場。

 その目の前の通りを北へたどれば鍛冶かじばし通りとの交差点。

 ——これが桜川と桜橋の痕跡でないはずがない。

 鍛冶かじばし通りの1つ南の、河岸沿いだった道を歩いていく。
 周辺は商店や出版社が多いオフィス街で、休日の夜、ビルに明かりもなく街は静かだった。

 通りを抜けたところが桜橋ポンプ場の目の前。
 ハルはすでに輝きを帯びている携帯おおぬさを差し上げた。

 透明に輝く立体が回転しながら、ゆっくりと浮かび上がってくる。

 正方形6枚からなるせいめんたい——せいろくめんたい、あるいは立方体。


 立方体は粒子状に弾け、白いメモリーカードをハルの手のひらに残した。
 ❖ ❖ ❖ ❖ ❖

 9つの〈追憶のカケラ〉。

【8つ目▶せいろくめんたい:白いメモリーカードの3枚目】

 橋の名前を残したのは桜橋停留場、現在の桜橋交差点。


 桜橋停留場は、目黒駅前から古川に沿って、古川橋からそばぞの橋まで進み、都庁前、鍛冶かじ橋、京橋を経由、えいたい橋までを結ぶ5系統が東西に、9系統と36系統が南北に通って交差していた。

【路面電車の停留場に名前を残した橋 ➤ 桜橋】

 桜橋は桜川に架かっていた。


 桜川は江戸期からの運河で、以前ははっちょうぼりと呼ばれていた。
 戦後すぐの埋め立ては免れたものの、1960年代から80年代にかけ、西側から段階的に埋め立てられた。

 桜橋の前後から水辺が消えたのは1966年、橋の構造物が撤去されたのは1967年のこと。

 オーラはその痕跡を見たのだろうか。
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