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お花茶屋マンデーモーニング
お花茶屋マンデーモーニング(1)
しおりを挟む8. お花茶屋マンデーモーニング
ようやく眠りゆく街と藍色に変わりゆく東の空を、ロカはコクーンタワーの頂点から眺めていた。
手首に装着した小型コンソールからハルの声が聞こえる。
「なんとか間に合ったみたい」
松が谷の秋葉神社の境内で、ハルはスマホに表示される情報を追っていた。
パルノーと高嶺は駒込の妙義神社で、モジャコとコルヴェナ、そしてミチルとリグナ、デッサも新宿駅で通信に耳を傾ける。
ロカによる熾烈なまでの妨害で円環の形成は遅れ、モジャコとコルヴェナ、ミチルとリグナ、デッサは、寸前でアイルの発生装置を消滅させることに成功した。
円環の光は、その残像をたどり、なおも見えないもうひとつに向かって、しかし、稲光がそうであるように道を誤りながらジグザグに突き進む。
ソニテに呼応し〈ロートの追憶〉が目覚め、パルノーが構成した伝送路に光が結ばれたのは、まさにそのときだった。
「なんとか、なんとか間に合ったの」
ハルはもう一度、繰り返す。
「でも、それは円環の完成とほとんど同時。だから、選べるのは、たったひとつのコマンドだけだった」
それは、星の舟に旅立ちを命ずるものだけ。
しかも——どこへ向かうのかわからない。
「オーラさんが立てた仮説のとおり、確かに、〈ロートの追憶〉は古代の、イクリューエル・ヴォラント・クアトエーシュ転移が可能な星間宇宙船だった。有機的な性質をもった——おそらく意志さえもった。
どこへ行くのかもわからない、旅立ちのコマンド。
テヴェのひとたちにとって、それが望ましいことなのかどうかはわからなかったけど、わたしはそれを選んだ。
目覚めた星の舟はいま、再び遠い星の海を旅している。
どこなのかはわからない。
いつかまた出会うかもしれないし、二度と見つけられないかもしれない」
ありがとう——と、パルノーはマイク越しに頭を下げた。
「テヴェは、そこになにが眠るのかを忘れても神域を守りつづけました。
そして、守るべきものがいつのまにかこの星にあることを知っても、眠りを妨げないように結界を施しましたが、取り戻そうとはしませんでした。
かつて僕たちの祖先を運んでくれた星の舟が、誰にも束縛されずにまた旅をはじめたのであれば、それはテヴェの民も望むことです」
深夜の秋葉神社。
境内は、拝殿から漏れる明かりで温かい。
白状すれば、奪われるくらいなら——という感情があったことは、ハルは否定しない。
黎明期のイクリューエル転移を具現化した、太古の星の舟。しかも有機的な性質をもっていて、なおかつ意志と呼べるものさえもったもの。
ルジェの民が予想したように絶対的な力が与えられるものだ。
奪い返せばいい——どこでもないどこかに失うくらいなら。
(だけど、ロートの民を運んで星の海を渡った舟は、やっぱり星の海にたゆたうほうが幸せなはず。自分自身の存在がこの空間から失われていくなかで、やっぱりオーラさんも同じように感じていたと思う)
そう信じたい。
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