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新宿アイル
新宿アイル(11)
しおりを挟むパルノーと高嶺は、霜降橋跡から駅のほうへ半分ほど戻り、駒込妙義神社の境内に移動した。
駒込橋から霜降橋へ下る本郷通りの坂を妙義坂といい、その途中にある小路を西へ入った先にあるのが駒込妙義神社。
住宅地の中にある小さな神社で、提灯の柔らかな光が静かに境内を照らしている。
拝礼してから、パルノーは仮想的なディスプレイとキーボードを空中に投影して作業をはじめた。
ロートの追憶への交信。
それには円環に干渉されずに伝送路を確保する必要がある。
ポジヲが選んだのは千代田線の地下トンネルだった。
東京には13の地下鉄路線がある。
東京メトロの銀座線、丸ノ内線、日比谷線、東西線、千代田線、有楽町線、半蔵門線、南北線、副都心線、都営地下鉄の浅草線、三田線、新宿線、大江戸線。
大江戸線は都内を環状に巡り、ほかの12路線はすべてその環の中を通る。
必然的に2か所で交差することになり、交差している以上は乗換駅があるはずだ。
——千代田線にはない。
大江戸線のパープルのラインは、千代田線のグリーンのラインと湯島駅付近、乃木坂駅付近で交差しているのに素通りする。
もっと正確にいうと、千代田線の駅のほぼ真下を大江戸線のトンネルがただ通過する。
つまり、千代田線だけ大江戸線のトンネルと物理的・空間的につながっていない。
パルノーがキーボードにコマンドを打ち込むと、遠く荒川を渡る鉄橋近くに、ペリドットのように鮮やかな翠の光が閃いた。
常磐線やつくばエクスプレスの鉄橋と並んで荒川を渡ってきた千代田線は、ここから地下にある北千住駅へ向かってトンネルに入っていく。
光は9つ角の星形を一筆書きに描いて収束した。
図形はゆっくりと回転をはじめる。
同じように、遠く、代々木公園の南西にも翠色の光が現れた。
北千住からトンネルに入った千代田線は、町屋、千駄木、根津、湯島といった昭和の情緒を残す街に立ち寄り、都心を貫通する。
そして赤坂駅、明治神宮前駅を経由し、代々木公園駅と代々木上原駅の間で地下から顔を見せる。
そこは、新宿から南下した小田急線が急カーブで西へ方向を変える地点。
上下線2組の線路の間に千代田線の2組の線路が現れ、地下から高架の代々木上原駅へ一気に登ってくる場所だ。
ペリドットの輝きは、やはり9つ角の星形を描き、星形は緩慢に回りはじめた。
ひとつは、正九角形の頂点を1つおきに結んでできた、穏やかな星形正九角形。
ひとつは、正九角形の頂点を3つおきに結んでできた、鋭い星形正九角形。
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