新宿アイル

一ノ宮ガユウ

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新宿アイル

新宿アイル(18)

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 もしそのとき、遥か上空にいて、東京の地下を透かして見ることができていたのなら、真夜中の街に重なり、いびつな円環がえん色に鈍く脈打つのを目の当たりにしていたはずだ。


 その円環の東端でルビー色の光がひらめく。
 光は何かに行く手をはばまれ、激しくスパークする。
 障壁は厚く、そして何度も復活する。

 だが、やがてあふれた光は両側へ一気に進みはじめた。
 少しも速度を緩めることなく、瞬く間にその形を創り上げていく。


 ——大江戸線新宿駅構内。

 リグナとデッサは、お互いに背中を合わせるような形で何とか膝を突いて起き上がった。
 2人とも満身創痍で体のあちこちから火花が飛び散り、瞳に力はない。

「もう終わりか! まあいい、もう飽きたし、ひと思いに破壊してやる!」
「つまらない任務だった……」

 ノランは嘲笑する。
 ユツァは、ぶつぶつとつぶやき、首を回す。

 2人は同時に突っ込んきた。

 リグナとデッサは、すでに抵抗することもしない。
 ただ、当然のことながら——リグナもデッサも諦めていたわけではない。

 それはミチルも同じで、いつの間にか、リグナとデッサはもちろんのこと、ユツァとノランの動きを完全に掌握できて、かつトンネルの向こうまで見渡せる位置に移動していた。

(ここだ……っ!!)

 リグナとデッサの瞳に輝きが戻る!
 2人はまったく同じ瞬間に相手の攻撃をかすめながら跳び退いた。

「な……っ!!」
「おい……っ!!」

 激突したノランとユツァはバリバリと電撃に包まれ、線路の上に落下する。

 そこを——空中で身を翻したリグナとデッサが高速で突き抜ける。
 細いチューブ状のトンネルの先へ。

 短い直線区間が急な左カーブへ変わる直前に、赤紫色の光を帯びた輪が浮かんでいた。

「あったっ!!」

 ミチルが叫ぶ。
 リグナとデッサは同時に跳躍し、その光の輪に脚を伸ばす。


 ——大江戸線新宿西口駅構内。

 ボーデの大群の中をモジャコとコルヴェナは走り抜ける。
 ホームの先、曲線がきつくなる手前に赤紫色の光を帯びた輪が浮かんでいた。

「あれでござる!!」

 ジシェが叫ぶ。
 モジャコとコルヴェナは、迷わずその光の輪に脚を振り降ろした。

 光の輪が消滅する。
 次の瞬間、背後から追ってきたルビー色の閃光が、その残像に激突した。

「わっ!!」
「むぎゃ!!」

 身を伏せたすぐ上を、バリバリと火花が駆ける。

 残影の中央を、空間を引き裂きながらルビー色の光は貫通する。

 そして見えないもうひとつに向かって、しかし、稲光がそうであるように道を誤りながらジグザグに突き進んでいく。 


 ——上空から見下ろしたルビー色のいびつな円環は、西の端で激しくスパークしながら結ばれようとしていた。

 そこへ、円環の南北で突然に現れたペリドットの光が、急速にその輝きを強め、滑らかに流れるように進みはじめた。


 そのきらめきを、さらに強めながら加速していく。
 円環を越え、蛇行しながらもさらに内側へ——導かれるがままに。

 そして2つの光は、円環ロンドを貫く一条の線を描いた。

 ふと、曖昧に別のかたちがそこへ重なり、そして——ふっと消えた。
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