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新宿アイル
新宿アイル(17)
しおりを挟むノランが大きく振りかぶったところで、リグナはようやくその懐に入った。
相手の力をも利用し、投げ飛ばす。
ノランはトンネルの壁面に激突する。
ただ、まるでダメージはないようで、すぐに、ヒャヒャッ、と笑って向かってくる。
「ぬるいな!! まだまだぬるい!」
攻撃はますます熾烈。
体をかすめただけの打撃でリグナは吹っ飛ばされた。
どうにか柱にぶつかる前にバランスを取り戻し、たたみかけるノランの攻撃を躱す。
デッサのほうはユツァに引けを取らない。
真正面から頭突きを喰らわせ、相手を振り飛ばす。
地面に叩きつけられたユツァは、むくりと起き上がって、凝りをほぐすように首を回した。
「面倒だが……仕方ない……」
ユツァは高速でデッサに迫った。
それを、軽く重心を移動しただけでデッサはいなした。
ユツァはすぐに体勢を立て直し、向かってくる。
ダメージはまるでない。
けれどもミチルは驚いた。
(すごい)
出来損ないのルドゥフレーデにできて、ガルバルデにできないことなどあるはずがない。
——文字どおりに解釈すれば、ただ傲慢なだけの言葉だ。
けれども、裏を返せば、リグナのやり方を認め、倣ってやろうということであり、そして有言実行するのだから伊達ではない。
(僕も2人の役に立てるように——)
何ができるのか、何が最良の結果をもたらすのか——?
ミチルはとにかく考える。
リグナは、反撃することもかなわず、ひたすらノランの攻撃に耐えていた。
「ひひ、弱いヤツをいたぶるのはこの上なく愉快だ!!」
ノランは嫌らしく笑う——が。
手数のわりにリグナが受けるダメージはまるで小さく、クリティカルヒットする攻撃などとっくに無くなっていることに、ノランは気づいていなかった。
デッサの通信機を通じて、ミチルの耳にも残り時間が聞こえていた——。
秋葉神社、西の鳥居の前で瑪瑙はバイクを停めた。
ハルはヘルメットを手渡す。
「ありがと」
「やん♡ 『ありがと』なんて、お姉さん、嬉しい♥」
「はは……」
苦笑い。
秋葉神社の西方は2車線道路に面していて、正面は大きなマンション、両側も商店のビルに挟まれていた。
ただ、明かりが消えてしまえば高い建物も夜の色で、鳥居は、ずっと昔からそうであったように静かにたたずんでいた。
ハルは社務所の鍵を開け、中へ入った。
拝殿の明かりを灯せば、真っ暗だった境内に柔らかな光が落ちる。
「素敵なところ。きっとずっと大切にされてきたのね♥」
おっしゃるとおりですが、最後の「♥」はなくてもいいです。
ハルは別の鍵を持ち出し、拝殿の前で深く頭を下げた。
扉を開けて中に入る。
奥の本殿へ進めば、祭壇の前に小さな鈴が置かれていた。
(小さいころ、舞子おばちゃんに手のひらに乗せてもらったとき、見た目よりすごく重くてびっくりした)
鈴を手に取る。
不思議な温もりを伝える重さが、ころん——と音を響かせた。
「あ」
鈴の音に呼応し、巾着から光が溢れ出す。
〝ソニテ〟とは、古いロートの言葉で〝鈴〟のこと。
ハルは鈴をもとに戻して外へ出た。
携帯大幣を取り出せば、まばゆく輝いていた。
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