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セグレンデの二つ耳
同窓会のお知らせ
しおりを挟む圭が給湯室で2人分のお茶を淹れて戻ると、ルクフェネはデスクに座って画面上の情報を確認していた。
「どうぞ。セーグフレードにもあるの、緑茶?」
「ありがと」
ルクフェネは湯飲みを受け取って両手に持ち、ゆっくりと香気を吸い込んだ。
「いい香り。うん、あるけど、こんなに美味しくない。シモウサがお茶の名産地でよかった。静岡茶、宇治茶と並ぶ銘茶なんでしょ、さしま茶って」
「……」
【さしま茶】
猿島地域が誇る緑茶ブランド——なのだが、知名度がとても低い。
肥沃な土壌と冬の寒さが濃厚な味と香りを云々かんぬん。
産地は境町、坂東市、常総市、八千代町、および古河市。
なお、「静岡茶」「宇治茶」と並ぶ銘茶は「さやま(狭山)茶」であって「さしま茶」ではない。
圭は苦笑いするしかない……。
「カルナは、さっそく交易品にしようって、はりきってる。——あ、カルナっていうのは、ここシモウサの総督なんだけど」
「きのうの夜、お話させてもらったよ」
「あれ、そうなんだ……」
「気さくな人だよね」
「気さくっていうか……」
ルクフェネはふと言葉を濁す。
気兼ねなく呼び捨てにしていることや話しぶりからすれば、どうやらルクフェネとカルナは旧知の間柄のようだが、それ以上の何かがあるのだろうか?
そうだ——と、ルクフェネはデスクの上にあった包みに視線を向けた。
「制服が届いてたよ」
「ほんと!? 着替えてくるね!」
圭は喜んで受け取り、部屋の外へ。
見送って湯飲みをデスクに置くと、ルクフェネは手首の通信機を確かめた。
メールの着信を知らせるマークが点滅していた。
タイトルは『同窓会のお知らせ』。
送信者は士官学校の同期生の1人だ。
(……)
そのまま削除しようとして考える。
もう一度、削除ボタンを押そうとしてまた迷う。
3回目で、ルクフェネはようやくメールを開いた。
内容はごくシンプルで、時候の挨拶のあと、同窓会の日時・場所、そして回答方法とその期限が記載されているだけだったけれども、最後にひとことだけ添えられていた。
「みんな、ルクフェネに会えるの、楽しみにしてるからねっ!」
(……)
「——フェネ? どうしたの、ルクフェネ?」
はっとして視線を向ければ、制服に身を包んだ圭がデスクの向こうに立っていた。
何度も話しかけられていたのに聞こえなかったようだ。
「あ、ごめん……。なんでもない」
「それならいいんだけど……」
だいじょうぶ? ——と付け加えようとして圭はやめた。
「どう、似合う?」
「うん、さまになっている」
ルクフェネは笑みを浮かべて、それから自分の表情がこわばっていたことに気がついた。
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