無垢な令嬢は月の輝く夜に甘く乱される~駆け落ちから始まった結婚の結末は私にもわかりませんでした。

めぐみ

文字の大きさ
13 / 56
幻の村

無垢な令嬢は月の輝く夜に甘く乱される~駆け落ちから始まった結婚の結末は私にもわかりませんでした。

しおりを挟む

  幻の村

 トンジュの姿が樹々の向こうに消えたのを見届けてから、サヨンは天幕の周囲をゆっくりと歩いてみた。
 なるほど、彼の言葉には頷かされた。樹齢すら定かではない巨木が身を寄せ合うように立っていて、しかもそれがどこまでも際限なく続いているのだ。その中にサヨンが紛れ込んでしまったら、この辺りの地理をよく知っているというトンジュでさえ、見つけるのは至難の業だろう。
 まさに森の海である。今、天幕が建っている場所は広場と呼べるほどの規模で、樹は見当たらない。年数を経てはいるが、明らかに人の手によって切り取られた痕跡―切り株が随所に見られた。
 天幕の側に一本だけ梅の樹が立っているのに気づき、サヨンは近寄った。
 早咲きの梅の花だ。白い小さな花は可憐で、こんな見る人とておらぬ山奥でひっそりと咲く花がいじらしく思える。そっと鼻を近づけると、ほのかな香りが鼻腔をくすぐった。
 もし本当にここに暮らすのだとすれば、この花が幾ばくかでも心の慰めになってくれるに違いない。
 広場には確かに樹はないが、トンジュの指摘したように、周囲を鬱蒼とした森に囲まれているため、朝や昼でも一日中薄暗いのだ。
 これで、夜になれば、辺りは真っ暗闇に塗り込められるはずだ。トンジュがいれば身の危険はないかもしれないけれど、こんな誰もいない場所で薄気味の悪い男と二人だけで暮らすと考えだたけで、目眩がするようだった。
 サヨンはうつろな足取りで天幕に戻り、頽れるように座り込んだ。こめかみを手のひらで押さえ、軽く揉む。
 何だか額が熱いように思えた。いや、額だけではなく、身体全体が燃えるように熱い。
 そっと襟元から手を差し入れてみると、服の下は汗びっしょりだ。サヨンは外套を脱ぐと、毛織りの胴着も脱いだ。
 それでもまだ身体の火照りはおさまらない。仕方なくチョゴリの前紐を解き、それも脱いでしまった。勢いで下着も脱ぐ。
 その時、妙だと気づくべきだった。一月の最も寒いこの時季に、上半身だけとはいえ半裸に近い姿になって、寒いと感じない方が不自然だった。どこか身体に変調を来していなければ、こんな状態になるはずがない。
 下着を肩から滑らせた時、何かが地面に落ちる衝撃音が聞こえた。
 サヨンはその物音に驚愕し、顔を上げる。
 と、天幕の前に呆然と佇み、こちらを凝視しているトンジュと眼が合った。
 トンジュの前には無数の薪が転がっていた。先刻響き渡ったのは、トンジュが拾ってきた枯れ枝を落とした音だったのだ。
 サヨンは迂闊にもまだ自分自身の扇情的な姿に気づいていなかった。上半身は胸に布を巻いただけのあれらもない格好なのに、男の眼を意識することも忘れていた。
 小柄で痩せている割に豊かな胸のふくらみが胸に巻いた布を押し上げ、上からは眩しいほどに白いつややかな丸みや谷間が覗いている。
「何をしているのですか?」
 永遠にも思える一瞬が過ぎ去った後、トンジュが茫然とした面持ちで言った。
 その声が微妙に掠れている。
「えっ」
 トンジュが声を発したことによって、サヨンの意識も現実に戻ってきた。
「あ、これは」
 サヨンは改めて自分の格好を知り、赤面した。
「ごめんなさい。あまりに熱かったものだから、服を脱げば治るかと思って」
 サヨンは慌てて側に置いてあった下着を拾おうとした。
「ここが山奥の森の中だから良いようなものを、人の住んでいる場所だったら、俺以外の男の眼に触れさせてしまうことになりますよ?」
 ふいに男の声が間近で聞こえ、サヨンは弾かれたように面を上げた。
「どうして隠そうとするんですか?」
「え、何を言って―」
 サヨンは言いかけて、言葉を失った。
 トンジュの眼が欲望にぎらつき、射貫くように胸のふくらみに注がれている。
 本能的に彼女は両手を交差させて男の不躾な視線から逃れようとした。
 次の瞬間、トンジュが飛びかかってきて、サヨンはその場に荒々しく押し倒された。
「な、何をするの!?」
 サヨンは愕きのあまり、声も出ない。
 トンジュはサヨンの上から覆い被さり、彼女の頭の両脇に手をついた。
「あなたが悪いんですよ。そんな挑発的な姿で俺を誘うから」
「何を言っているのか判らないの」
 サヨンは怯えた眼でトンジュを見上げた。
「トンジュがあの時、帰ってくると知っていたら、服を着ていたわ。そのことで怒っているのなら、謝るから許して」
「怒るどころか、お礼を言いたいくらいです。こんな良いものを早々に見せて貰えるとは思っていなかったんだ」
 トンジュは熱に浮かされたように呟き、そろりと手を伸ばした。
 サヨンは初め、彼が何をしようとしているのか全く理解できていなかった。が、伸びてきた手が乱暴に胸許をまさぐり始めると、悲痛な声を上げた。
「何をするの? 止めて。止めてよ」
 乳房の上の部分は既にはっきりと露出している。ふくよかな胸の蕾がギリギリ見えるか見えないかのきわどさだ。トンジュの大きな手はしきりにそこを撫でていた。
「俺があなたを何のために連れ出したか、まだ判らないんですか?」
 トンジュの瞳が冷たく光った。
 あの眼、蛇のように底光りする眼に見つめられると、サヨンは蛇に睨まれた蛙のように身動きできなくなってしまう。
―怖い。
 サヨンは身を震わせた。
「まさか」
 絶望のあまり気絶しそうになりながらも、サヨンは何とか持ち堪えようとした。
 トンジュがニヤリと口の端を引き上げる。
「今になって、やっと気づきましたか。本当に世間知らずというか、呑気な女ですね。男が何の見返りもなく女を助けたりするものですか。俺はあなたを自分のものにするために、ここまで連れてきたんですよ」
「私は物じゃない。そんなに簡単にあなたの所有物になったりはしないわ」
 あまりの言い草に言い返すと、トンジュは馬鹿にしたような笑みを返してきた。
「そんな強情をいつまで張っていられますかね。言ったでしょう、女を大人しくさせる方法は色々あると」
 トンジュは歌うように言いながら、サヨンの胸に巻いた布に手をかけた。
「止めて、お願いだから、こんなこと止めて。トンジュ!」
 サヨンは必死になって抗った。
 その間にも抵抗空しく、布はするすると音を立てて解かれてゆく。
「いやっ、いやーっ」
 身を起こそうとする度に、乱暴に押し戻され、無情にも両手を持ち上げた形で上から押さえつけられた。
「トンジュ、トンジュ。私、いやなの。こんなことはいやなの。お願い、許して」
 とうとう涙が溢れ、頬をつたった。
 こんな男の前で泣きたくはないのに、一旦溢れ出した涙は止まらない。
 しかし、一度滾った若い血は止まらないらしい。サヨンが泣きながら身をよじり続けても、それは上から物凄い力で封じ込まれた。
 ついに布が完全に解かれ、豊満な乳房が露わになった。雪よりも清らかで眩しい膚が光り輝いている。盛り上がった双つのふくらみの先端には朱鷺色の先端がひっそりと息づいていた。
 トンジュはしばらく恍惚とその眺めに見入っていた。ねっとりしたまなざしが炯々と光る。
「きれいだ。何て美しいんだろう。お嬢さま、こんな良い身体をした女を俺は見たことがありませんよ。きっと抱き心地も最高だろう」
 サヨンは恐怖に震えながらトンジュを見つめた。
「トンジュ、お願いだから―」
 言いかけた唇を唇で塞がれる。
 サヨンはギュッと眼を瞑り、唇を噛みしめた。トンジュが口を開かせようとしているのが判り、何とか開くまいと懸命に食いしばった。
 だが、下唇を軽く食まれた刹那、ほんのわずかに唇を開いてしまった。
 彼はその隙を逃さなかった。すかさず舌が侵入し、ねっとりとした舌がサヨンの口中を這い回った。怯え逃げ惑う舌を執拗に追いつめ、烈しく吸い上げる。
 その合間には手が下に降りてきて、しきりに乳房をまさぐった。
―トンジュはこんなことをするために、私を屋敷から連れ出したの?
 大粒の涙を流しながら、サヨンは哀しく思った。
 自分は騙されたのだ。助けてやると甘い言葉を囁かれ、信じてついてきたのに、この体たらくだ。
 さんざん口の中を蹂躙された後、やっと解放して貰えた。口の中に自分のものか男のものか判らない唾液が混じり合い、吐き気がしそうだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行「婚約破棄ですか? それなら昨日成立しましたよ、ご存知ありませんでしたか?」完結

まほりろ
恋愛
第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行中。 コミカライズ化がスタートしましたらこちらの作品は非公開にします。 「アリシア・フィルタ貴様との婚約を破棄する!」 イエーガー公爵家の令息レイモンド様が言い放った。レイモンド様の腕には男爵家の令嬢ミランダ様がいた。ミランダ様はピンクのふわふわした髪に赤い大きな瞳、小柄な体躯で庇護欲をそそる美少女。 対する私は銀色の髪に紫の瞳、表情が表に出にくく能面姫と呼ばれています。 レイモンド様がミランダ様に惹かれても仕方ありませんね……ですが。 「貴様は俺が心優しく美しいミランダに好意を抱いたことに嫉妬し、ミランダの教科書を破いたり、階段から突き落とすなどの狼藉を……」 「あの、ちょっとよろしいですか?」 「なんだ!」 レイモンド様が眉間にしわを寄せ私を睨む。 「婚約破棄ですか? 婚約破棄なら昨日成立しましたが、ご存知ありませんでしたか?」 私の言葉にレイモンド様とミランダ様は顔を見合わせ絶句した。 全31話、約43,000文字、完結済み。 他サイトにもアップしています。 小説家になろう、日間ランキング異世界恋愛2位!総合2位! pixivウィークリーランキング2位に入った作品です。 アルファポリス、恋愛2位、総合2位、HOTランキング2位に入った作品です。 2021/10/23アルファポリス完結ランキング4位に入ってました。ありがとうございます。 「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

「お前を愛する事はない」を信じたので

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」 お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

幼馴染以上、婚約者未満の王子と侯爵令嬢の関係

紫月 由良
恋愛
第二王子エインの婚約者は、貴族には珍しい赤茶色の髪を持つ侯爵令嬢のディアドラ。だが彼女の冷たい瞳と無口な性格が気に入らず、エインは婚約者の義兄フィオンとともに彼女を疎んじていた。そんな中、ディアドラが学院内で留学してきた男子学生たちと親しくしているという噂が広まる。注意しに行ったエインは彼女の見知らぬ一面に心を乱された。しかし婚約者の異母兄妹たちの思惑が問題を引き起こして……。 顔と頭が良く性格が悪い男の失恋ストーリー。 ※流血シーンがあります。(各話の前書きに注意書き+次話前書きにあらすじがあるので、飛ばし読み可能です)

「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」と言われたので別れたのですが、呪われた上に子供まで出来てて一大事です!?

綾織季蝶
恋愛
「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」そう告げられたのは孤児から魔法省の自然管理科の大臣にまで上り詰めたカナリア・スタインベック。 相手はとある貴族のご令嬢。 確かに公爵の彼とは釣り合うだろう、そう諦めきった心で承諾してしまう。 別れる際に大臣も辞め、実家の誰も寄り付かない禁断の森に身を潜めたが…。 何故か呪われた上に子供まで出来てしまった事が発覚して…!?

嫌われたと思って離れたのに

ラム猫
恋愛
 私は、婚約者のカイルに嫌われたと思った。冷たくそっけなく、近づくたびに避けられる日々。  距離を置くことを選び、留学の準備も進めて心を落ち着かせようとするけれど——。

処理中です...