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秘花77
秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
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「何故、俺が丞相の娘に逢わねばならない?」
また王の顔が強ばった。その烈しいまなざしに、早くも賢の心は折れそうになる。
「殿下、僕は持って回った物言いは苦手だから、はっきりと言うよ。高麗の民のためにも、一日も早く王子を儲けて欲しい、廷臣たちも心配している」
「そなたは俺を馬鹿にしているのか!」
ふいに怒鳴られ、賢は身を竦ませた。
「馬鹿になんかしてない。ただ、僕は高麗のゆく末を思って―」
「高麗のゆく末を心から願うなら、そなた自身が俺の寝所に来れば済む話だ」
切り捨てるように断じられ、賢は瞳を潤ませた。
「僕は口下手で、上手く言うことができないみたいだ。僕はどうしても皆の期待には添えないから、せめて殿下が側室を持つ気になるように話そうと思って来たのに」
賢は立ち上がった。
「仕事中に申し訳なかった。これで失礼する」
賢はまた一礼し、執務室を出ようと王に背を向けた。その時、〝待て〟と背後から手を掴まれた。
「何故、そこまで俺を拒む?」
「―僕は男だから」
「いつまで馬鹿みたいに同じ言い訳を繰り返すつもりだ? そなたの身体を診察した侍医も女として身体は成熟していると言っている」
「そんな話は聞きたくない」
賢は王の手を振り払おうとした。だが、その手は絡みついたように離れない。
「放してくれ」
「放さないと言ったら?」
それはあまりに突然のことで、賢は咄嗟に何が起きたのかさえ判らなかった。掴まれた手を手繰り寄せられるようにして、賢の身体は引き寄せられ王の腕の中に囲われた。
「殿下!」
咎めるように言うと、〝黙れ〟と即座に唇を塞がれた。
「―!」
口付けは執拗に何度も続いた。離れたかと思うと、また口づけられる。舌先で唇をつつかれても、賢は固く唇を引き結んで開こうとはしなかった。
と、そろりと王の手が伸び、賢の胸に触れた。遠慮ない手がこの頃、とみに豊かさを増した乳房を包み込み、ゆっくりと揉みしだく。
「いやっ」
叫んだ拍子に舌がすべり込んでくる。肉厚の舌が我が物顔に侵入して口内を動き回り、逃げ惑う舌を絡め強く吸い上げられた。
―どうして、乾がこんなことを?
側室の話を出したから、懲らしめのために、強引に口付けたのかもしれない。
その間にも王の手はますます無遠慮に乳房を弄り回してくる。ゆっくりと揉み込んだり、時には先端をギュッと押し込んだりされ、賢の心は悲鳴を上げた。
口付けが解かれるや、賢は泣きながら叫んだ。
「いやだ! 殿下、止めて。僕が余計なことを言ったのなら謝るから、許して」
執務室の扉を開けて逃れようとした賢を王が背後から抱きしめる。
「これから俺の寝所に行こう」
「そこで何をするの?」
軽々と抱き上げられ、賢は怯え切った瞳で王を見上げた。
「今みたいなことだ。そなたもきっと気に入る」
賢の眼が恐怖と嫌悪に見開かれた。
「さっきみたいに身体を触られたり弄られたりするのはいやだ。僕は触られたくないし、そんなことしたくない」
「いやでもするぞ」
「どうして? 僕は玩具じゃない。降ろして、降ろしてよ」
烈しく抗う賢の泣き声が聞こえたのか、見かねたらしい内官長が顔を覗かせた。
「失礼致します。殿下、王妃殿から崔尚宮が王妃さまをお迎えにきておりますが」
王はムッとした顔になり、賢を見た。賢は両手で顔を覆って泣いている。
「賢、そなたは王妃だ。そなたの身体も準備が整ったからにはいずれ床入りはしなければならない。いつまでも聞き分けのない子どものような言い逃れは許さないぞ」
それでも王は壊れ物を扱うように、そっと賢を降ろした。開いた扉から賢は脱兎のごとく飛び出し、廊下で待ち受けていた崔尚宮の腕に飛び込んだ。
賢は崔尚宮の腕の中で泣きじゃくった。
「王妃さま。せめて私をお連れ下さればよろしかったのに、突然、お姿が見えなくなったので、ご心配致しましたよ」
「ごめん、殿下に側室の話をすると崔尚宮に言ったら、きっと止められると思ったんだ」
また王の顔が強ばった。その烈しいまなざしに、早くも賢の心は折れそうになる。
「殿下、僕は持って回った物言いは苦手だから、はっきりと言うよ。高麗の民のためにも、一日も早く王子を儲けて欲しい、廷臣たちも心配している」
「そなたは俺を馬鹿にしているのか!」
ふいに怒鳴られ、賢は身を竦ませた。
「馬鹿になんかしてない。ただ、僕は高麗のゆく末を思って―」
「高麗のゆく末を心から願うなら、そなた自身が俺の寝所に来れば済む話だ」
切り捨てるように断じられ、賢は瞳を潤ませた。
「僕は口下手で、上手く言うことができないみたいだ。僕はどうしても皆の期待には添えないから、せめて殿下が側室を持つ気になるように話そうと思って来たのに」
賢は立ち上がった。
「仕事中に申し訳なかった。これで失礼する」
賢はまた一礼し、執務室を出ようと王に背を向けた。その時、〝待て〟と背後から手を掴まれた。
「何故、そこまで俺を拒む?」
「―僕は男だから」
「いつまで馬鹿みたいに同じ言い訳を繰り返すつもりだ? そなたの身体を診察した侍医も女として身体は成熟していると言っている」
「そんな話は聞きたくない」
賢は王の手を振り払おうとした。だが、その手は絡みついたように離れない。
「放してくれ」
「放さないと言ったら?」
それはあまりに突然のことで、賢は咄嗟に何が起きたのかさえ判らなかった。掴まれた手を手繰り寄せられるようにして、賢の身体は引き寄せられ王の腕の中に囲われた。
「殿下!」
咎めるように言うと、〝黙れ〟と即座に唇を塞がれた。
「―!」
口付けは執拗に何度も続いた。離れたかと思うと、また口づけられる。舌先で唇をつつかれても、賢は固く唇を引き結んで開こうとはしなかった。
と、そろりと王の手が伸び、賢の胸に触れた。遠慮ない手がこの頃、とみに豊かさを増した乳房を包み込み、ゆっくりと揉みしだく。
「いやっ」
叫んだ拍子に舌がすべり込んでくる。肉厚の舌が我が物顔に侵入して口内を動き回り、逃げ惑う舌を絡め強く吸い上げられた。
―どうして、乾がこんなことを?
側室の話を出したから、懲らしめのために、強引に口付けたのかもしれない。
その間にも王の手はますます無遠慮に乳房を弄り回してくる。ゆっくりと揉み込んだり、時には先端をギュッと押し込んだりされ、賢の心は悲鳴を上げた。
口付けが解かれるや、賢は泣きながら叫んだ。
「いやだ! 殿下、止めて。僕が余計なことを言ったのなら謝るから、許して」
執務室の扉を開けて逃れようとした賢を王が背後から抱きしめる。
「これから俺の寝所に行こう」
「そこで何をするの?」
軽々と抱き上げられ、賢は怯え切った瞳で王を見上げた。
「今みたいなことだ。そなたもきっと気に入る」
賢の眼が恐怖と嫌悪に見開かれた。
「さっきみたいに身体を触られたり弄られたりするのはいやだ。僕は触られたくないし、そんなことしたくない」
「いやでもするぞ」
「どうして? 僕は玩具じゃない。降ろして、降ろしてよ」
烈しく抗う賢の泣き声が聞こえたのか、見かねたらしい内官長が顔を覗かせた。
「失礼致します。殿下、王妃殿から崔尚宮が王妃さまをお迎えにきておりますが」
王はムッとした顔になり、賢を見た。賢は両手で顔を覆って泣いている。
「賢、そなたは王妃だ。そなたの身体も準備が整ったからにはいずれ床入りはしなければならない。いつまでも聞き分けのない子どものような言い逃れは許さないぞ」
それでも王は壊れ物を扱うように、そっと賢を降ろした。開いた扉から賢は脱兎のごとく飛び出し、廊下で待ち受けていた崔尚宮の腕に飛び込んだ。
賢は崔尚宮の腕の中で泣きじゃくった。
「王妃さま。せめて私をお連れ下さればよろしかったのに、突然、お姿が見えなくなったので、ご心配致しましたよ」
「ごめん、殿下に側室の話をすると崔尚宮に言ったら、きっと止められると思ったんだ」
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