【完結】自分のことを覚えていなかった幼馴染をそれでも一途に愛し続ける

ゴールデンフィッシュメダル

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スーザンは初めて一人で感謝祭を過ごした。
一人で、と言っても別荘のメイドなどは居る。全くの一人というわけではない。

それでも何となく寂しい気持ちになった。

またサミュエルに会うことになるのだろうかと思うと鬱々とした気分になってしまう。
それでも冬でも日当たりのいいこの土地のおかげでそこまで落ち込まずに済んだかもしれない。

崖の上から海を眺めていると、ふとこのまま落ちてしまえば楽になれるのではと魔が刺すことがある。

その度に兄であるスティーブンが急に消えた時に味わった絶望を思い出し、あの時に自分は絶対に何があっても自殺だけはしないと心に誓ったことを思い出すのだった。





スーザンが元気を取り戻したのはキャサリンたちがキースに戻ってきて再びハロー家の別荘を訪ねてくれた時だった。

キャサリンの幼い息子フィリップと娘イザベラを見ていると元気が出る。いつか自分も自分の子供を腕に抱くことができるだろうかと途方もないことを考えてしまう。

私とサミュエルとの間に何もないのに子供など授かるはずもない。

だからこそこういう時に子供を可愛がってやらなくてはと思った。
フィリップは海賊シリーズが気に入ったらしく、模擬剣を振り回しては海賊ごっこに精を出すようになっていた。幼い頃にサミュエルやダニエルと過ごした日々が頭をかすめ懐かしい思いが心をいっぱいにした。

クリスマス前の教会のバザーにこれまでサミュエルを思って刺繍してきた作品たちをすべて寄付した。
中には立派なタペストリーもあったが、少しずつ昔のサミュエルとは決別しなくてはいけないと思うようになっていた。

サミュエルが自分を見てくれなかったと思う一方で自分も過去に囚われて今のサミュエルを見ていなかったのではないかと思ったからだ。

もし、次にサミュエルとやり直すチャンスがあるなら、今のサミュエルとちゃんと向き合おうと心に決めたのだった。

クリスマスも一人で過ごす予定だったがジョンソン家からクリスマスディナーに招待された。一人で過ごさずに済むと思うとそれだけでありがたかった。
せっかくのお呼ばれなのでミスター・ジョンソンにはカフスを、キャサリンにはスカーフをフィリップには海賊シリーズの続刊を、イザベラにはドールハウスをプレゼントとして用意した。

しかし、クリスマス前日、キースの別荘にサミュエルが一人でやってきた。

もう、何度もこの気持ちを諦めようと心に決めたのに彼の姿を目に入れただけで、そんな決心など風に吹かれるたんぽぽの綿毛のようにあっけなくどこかに飛んでいってしまった。

サミュエルを愛おしいと思う気持ちが胸いっぱいに広がった。その次にスーザンの心に広がったのは自分の心はなんと弱いのだろうということに対する悔しさだった。

もしかするとサミュエルからの最後通告かもしれないと覚悟した。

日当たりの良いサンルームで話をすることになった。

「お久しぶりですわね、サミュエル様。それで心は決まりまして?」

紅茶のカップを持つ手が心なしか震えてしまう。それでも何もなかったように紅茶を口に運んだ。当然味など全然しなかった。

「君ともう一度やり直すようにと父に言われてね」

「そうですか」

「サマンサとは別れた」

サミュエルがどんな顔をしているのかスーザンは直視出来なかった。いろいろな思いが胸の中で渦巻いていて

「そうですか」

と答えるのが精一杯だった。

「彼女は俺が思っているような女じゃなかった。恋は盲目というが俺はどうやら盲目になっていたようだ」

「それで、彼女と別れたからやり直したいと?」

「恥ずかしい話だがこの歳になって父に叱られたよ。これまで俺が君のことをずっとないがしろにしてきたことを。ちゃんと夫婦として君と向き合ってそれでも嫌いだと思うなら別れればいいと」

その台詞を聞いて、スーザンは確信した。サミュエルが何も変わっていないと。この期に及んで再構築は親に言われたからなのか。

「そうですか。でも私の気持ちはすでにあなたに伝えているはずです。あなたは何も変わっていらっしゃらない」

そう言ってスーザンは紅茶のカップをソーサーに置きこの場から立ち去ろうとした。
しかし、サミュエルがスーザンの腕を掴んでそれを引き留めた。

「待ってくれ。まだ話は終わっていない」

サミュエルから腕を掴まれるなど幼い頃以来だった。サミュエルに掴まれているところに全神経が集中してドクンドクンと揺れているような気がした。スーザンは何も言えなかった。

「今日、俺が一番伝えなくてはいけないことはスーザン、きみに対する謝罪だ」

この言葉だけでスーザンはもうサミュエルのことを許してしまっていた。やはりスーザンの意思などたんぽぽの綿毛並みだった。スーザンときちんと名前を呼ばれたのは初めてかもしれない。

「君がどれだけ俺のことを気遣ってくれていたのか、どれだけ商会に貢献してくれていたのか父やゲーブルから聞いた。君の活躍を父すら知っていたのに俺は自分の事ばかりで君の事に全然気付かなかった。ゲーブルには離縁するなら俺を勘当して君を正式に後継者にした方がいいんじゃないかとまで言われたよ。それなのに俺はずっと君のことを天気の話くらいしか出来ない派手好きの女性だと思っていた。天気の話しかしなかったのは俺の方なのに。少しでもちゃんと話をしていればきみの聡明さにはすぐに気付くはずだとみんなに言われたよ。俺はしょうもない自分の思い込みで君ときちんと向き合おうとしなかった。本当に申し訳ない。もし良ければ俺と1からやり直してくれないだろうか」

スーザンはこの日はじめてサミュエルの顔を見た。その眼には真実の色が浮かんでいた。

「あの、わたくしもサミュエル様にも話したいことがありますわ」

サミュエルが一瞬ぎくりとした。

「以前、わたくしがずっとあなたをお慕いしていたと申しましたけれど、本当にそうだったか今は確信が持てませんの。少なくともデビュタントであなたにお会いした、あの日以来、あなたはとてもひどい態度でしたもの。そういう意味ではわたくしもあなたとちゃんと向き合ってこなかったんだと思いますわ。前にも言った通り、わたくしの初恋はあなたでしたの。それは事実ですわ。でも幼い日の思い出に惑わされて真実のあなたを見ていなかったのも事実です。わたくしはあなたにあれ以上嫌われるのが怖くて本気であなたとぶつかろうとしていなかった。この2年半の間、わたくしはあなたの前でずっと本当のわたくしを見せないようにしていましたわ。キースの土地に来て一ヶ月半でわたくし、やっと初恋に終止符を打ちましたの。わたくし、初恋のサミュエル様と今目の前に居るサミュエル様は別の人だとそう思うことに決めましたの。だって今のサミュエル様についてわたくしは何も存じ上げないんですもの。ですから、1からのやり直し、望むところですわ。まずはお互いの自己紹介からはじめたいですわね」

そう言ってニッコリ微笑んだ。

「あぁ、スーザンありがとう。確かに、お互い何も知らない。まずは、夕飯をご一緒しても良いだろうか」

「もちろんですわ。暖かいシチューを用意させますわね」

そうして、サミュエルとスーザンはまるで初めて出会ったかのようにお互いの自己紹介から始めた。

敵意のないサミュエルの瞳は久しぶりでスーザンはそれだけでサミュエルに再び惚れてしまいそうだった。サミュエルとの会話は楽しかった。サミュエルもそう思ってくれていればよいのにと思った。

次の日、ジョンソン家へのお呼ばれはサミュエルも一緒に行くことになった。
キャサリンには「あぁ、良かったわ。仲直りしたのね」と言われた。
みんなにプレゼントを渡し、喜ばれた。特に海賊シリーズを贈られたフィリップの喜びようは大変な騒ぎだった。

サミュエルは海賊シリーズを懐かしそうに見て、剣で海賊ごっこにも付き合ってあげていた。フィリップに海賊風の剣の持ち方や構え方など細かく根気強く指導していて、サミュエルは良い父親になりそうだなと思った。

クリスマス休暇が終わりに近付いた頃、教会の牧師様がハロー家に訪ねてきた。

バザーの収益の話と寄付を求めるお願いだった。バザーで売れ残ったものは出所がわかるもののみ返却しているという。
ほとんど同じ図案ばかりだったスーザンの刺繍も半分ほど戻ってきた。それは、シープシャーの夕日の図案だったり海賊船の図案だったりである。

いくばくかの寄付をして牧師様に帰ってもらった後、サミュエルが訪ねてきた。

「ねぇ、スーザン、どうして同じ図案ばかり刺しているの?」

「・・・それは昔のあなたを思って、出会った場所であるシープシャーの夕日や海賊ごっこのことを考えてさしていたからですわ。でもこういうものがあるから初恋を忘れられないんだ、と思い切ってバザーに出しましたのよ」

「じゃあ1枚くれないか?」

「えぇ!?でも」

「俺を思って刺してくれたんだろう?」

そういうと一枚取り上げて刺繍をまじまじとみつめた。

「スーザンは刺繍も上手なんだな」

そう言って部屋に戻って行った。


クリスマス休暇が明けると2人で王都のタウンハウスに戻った。

マーサはとても喜んだ。

「奥様、あぁ、マーサは嬉しゅうございます。奥様はもうここには戻って来られないかもしれないと思っておりました。戻ってこられたとしてもまた塞ぎ込んでしまわれるのではないかと。それなのにこんなにお元気で戻られるなんて夢を見ているのでしょうか?また、以前のようにビシバシ指示を出してくださいましね」

 そう言ったマーサの眼には涙が浮かんでいた。
スーザンとサミュエルが一緒に食事を取るということも屋敷の使用人たちを驚かせた。
新たに一から二人の関係を築いていくつもりだと使用人たちには伝えおいた。

私が戻ったことはミスターゲーブルにも歓迎された。
ただし、これまでサミュエルの朝食時に実施していたミスターゲーブルとのミーティング時間が短くなったためミスターゲーブル的には不満だったらしい。
王都のタウンハウスに戻って3日ほど経った時に、もっと時間をくれという打診があった。いろいろと話し合った結果、スーザンも週3日ほど商会に出向き、きちんとした形で執務をとりおこなうことになった。

サミュエルとは様々なことを話した。悪い雰囲気ではないとわ思うが、なかなか恋人同士のような雰囲気にはならなかった。

元々、スーザンが嫌いだからどんな扱いをしてもいいだろうという理由だけでスーザンと結婚した人である。

再び向き合ってもスーザンのことを好きになれないのかもしれないし結婚や恋愛にあまり興味を持てないタイプなのかもしれない。

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