【完結】自分のことを覚えていなかった幼馴染をそれでも一途に愛し続ける

ゴールデンフィッシュメダル

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1月になるとサミュエルの誕生日がある。
スーザンは別れの前の誕生日以来13年ぶりにプレゼントを渡せることが嬉しかった。

サミュエルには最近流行りの絹で作られたネクタイと万年筆をプレゼントした。
サミュエルも気に入ってくれたようだった。

スーザンはこれまで用意してきた12年分のプレゼントをどうするべきだろうか、とふと思った。

12年分の誕生日プレゼントはそれなりに場所を取るのでスーザンの個人クローゼットの奥に大切に保管してある。
本人にあげるか、もう無かったものとして捨てるかバザーに出したり知人のご子息にあげたりするか。

過去を忘れてサミュエルと新たに未来を紡いでいくのであればスーザンの手元からは手放すべきだと思った。


二人が夫婦関係をやり直すと決めたクリスマスから一ヶ月が過ぎた。サミュエルとは会話をするようになったもののやはり恋愛的な部分は何の進展もなかった。それでもスーザンは以前大旦那様が言ってたように時間が経てばサミュエルが自分のことを好きになってくれるのではないかと考えていた。スーザンはサマンサなのだから。

その頃、キースのキャサリンたちから手紙が届いた。最近字を習い出したフィリップからのあどけない手紙も同封されていて子供は可愛いなと思った。

いつかサミュエルとのあいだに子供が出来たら可愛いだろうなと考えるとワクワクした。


ある朝、スーザンはいつもより早く目が覚めた。空を見ると太陽がやっと空に色をさし始めたばかりの時間帯だった。
とても寒い日で室内にも冷気が充満していたがスーザンはこういう冬の寒さが好きだった。

暖炉に火をくべたあと、薄い夜着のまま少しベランダに出た。ハロー家の王都のタウンハウスは川に面していて二階部分のみぐるりとベランダがついている。スーザンの部屋もベランダに面した部屋だった。
スーザンはベランダから川の向こうの空が徐々に夜から朝の色へと変わっていくのを見ていた。
すると、隣のベランダのドアも開き、サミュエルが出てきた。
サミュエルはどこか疲れた様子だった。

「まぁ、サミュエル様、どうなさったのですか?ちゃんと眠れまして?なんだか疲れていらっしゃるみたい」

スーザンはサミュエルをじっと見つめた。

「寝れなかっただけだ」

サミュエルはスーザンの隣に立った。サミュエルはスーザンの視線などお構いなしで空を見つめた。

「まぁ、それは大変。何か悩み事がおありになるのですか?わたくしでよければ相談に乗りますわ」

「いいや、それより君はどうした?こんな薄着で」

サミュエルが目線だけでスーザンを見た。

「もう、暖炉に火を入れてありますから部屋に帰れば暖かいですわ。わたくし、こういう指すような朝の冬の寒さが好きですの」

そう言いながらスーザンはサミュエルから視線を外し再び空を見た。昔、スーザンがサマンサだった頃、同じような会話をしたことがある。

「寒いのが好きなんて変わってるな」

そう言ってサミュエルは部屋に戻っていった。
あの時もサミュエルは同じセリフを口に出していた。スーザンはそのときのサミュエルのことを思い出していた。

初恋は忘れてサミュエルとの関係を一から作り直すなんて無理だと思った。
だって、サミュエルはどこまで行ってもサミュエルで、ふとした瞬間にこうやって昔のサミュエルが顔を出すのだから。

その日の夜から雪が降り始めた。

王都で雪が降ることは珍しい。翌朝目覚めた時は一面銀世界だった。

「今日はもう仕事にならないな」
朝食を食べながらサミュエルが言った。

「この雪では馬車も走れませんものね」

そう言いながらスーザンは外の雪を見た。
シープシャーは夏の避暑地なだけのことはあり、冬は普通に雪が降る。スーザンはシープシャーの屋敷の庭でサミュエルやダニエルと雪だるまを作ったりソリ滑りをしたり雪玉をぶつけ合ったことを思い出した。
あの時はサミュエルとの関係がこんな風になるなんて思いもしなかった。
でもサミュエルとそり滑りをしていたとき、彼の背中が大きくて、彼の背中にしがみつくのが好きだった。あの時は自覚していなかったけれど、もうあの頃には彼のことが好きだったのだと思った。

スーザンがそんな風に昔のことに思いを馳せているとサミュエルが話しかけてきた。

「今日は今後のことについて話し合わないか?」

サミュエルの瞳がとても真剣でどきっとした。

「えぇ、もちろん」

スーザンにはイエス以外の選択肢は無かった。

朝食を食べ終え、人払いをした後、サミュエルがおもむろに口を開いた。

「クリスマスイブに、一からやり直すと決めたが、俺には結婚生活は無理だとわかった。」

このところとても良い雰囲気だったのでサミュエルのこの発言はスーザンにとって青天の霹靂だった。

「理由を聞いてもよろしくて?わたくし、何が足りなかったでしょうか?」

スーザンは動揺していて、サミュエルの方をまともに見れなかった。

「この1ヶ月一緒に過ごして君が素晴らしい女性だと言うことは分かった。これは君の問題というより俺の問題なんだ」

スーザンは涙を堪えるのに必死だった。唇を噛みテーブルを睨むことでなんとか涙が目から溢れないように頑張った。

「俺にはずっと好きな人がいる。バカだと思うかもしれないが8歳の頃からずっと好きなんだ。住み込みの家庭教師の妹でサマンサ・オースティンという俺よりひとつ年下の女の子だった。俺たちは兄妹のように育った。いつしか俺は彼女にひかれ、好きになり、彼女も俺のことを好きだと言ってくれてとても幸せだった。俺は彼女のことを好き過ぎるあまり家庭教師の兄との仲を疑ってしまっていた。後から冷静に考えると、家庭教師のサンダースは相引きの手助けをしてくれたり、俺と彼女の仲を応援してくれていて、そんなことあるわけないとわかるのに、俺は若くて愚かで彼女のことを好き過ぎたんだ。俺は彼女に心無いことを言った。彼女は傷付いただろう。でも彼女から言い訳を聞く気にもなれず、俺は彼女を避け通した。そして、俺のグリフィス校への入学が決まり家庭教師が必要なくなると、仲違いしたまま彼女は屋敷から出ていってしまった。それ以来彼女とはあっていない。俺はずっと後悔しているんだ。そして、彼女が俺の心に住んでる以上は他の人を好きになることも、他の人と結婚することも無理だと思っている」

サミュエルの声からサマンサへの愛しさがにじみ出ていた。

スーザンはずっとそれほどまでに好きでいてくれたのかという嬉しさと、過去の自分に勝てなかった哀れさで心がいっぱいになった。

「13年も。でもその女性がどんな風に成長してらっしゃるかわからないではありませんか。それでもあなたはその彼女のことを好きだとおっしゃるのですか?」

スーザンの声は震えていた。

「あぁ、それでも好きなんだ」

真実を言うなら今だ。このチャンスを逃したらもう一生、真実を口にする機会はなくなるだろう。
スーザンは涙が溢れる目でサミュエルを見た。そして震える声で言った。

「私がサマンサ・オースティンです。ですから私との婚姻を継続してください」

「そんな残酷な嘘はつかないでくれ」

スーザンに驚きと絶望が押し寄せた。信じないなんて!

「どうして、信じてくださらないのです?というか、どうして分からないのです?名前が違うからですか?年齢も髪色も何もかも違っているかですか?そばかすがなくなったから?ねぇ、どうして?」

スーザンはいつのまにか泣いて縋っていた。

「君を見ているとサマンサと君との違いばかりが目について辛いんだ」

「でも、本当にわたくしがサマンサなのです。昔のサマンサのことで何でも聞いてください。わたくし、答えられますから。二人の秘密のことでもなんでも」

「君が父と通じてることは知っているさ。おおかた、父からの入れ知恵だろう?」

「違います。大旦那様もわたくしがサマンサだとご存知です。嘘だとお思いなら大旦那様にお尋ねください」

「君が俺を好きなことは知ってる。父が君を買っていることも。でも残念ながら俺は君を愛せない」

「サミュエル様は私が嘘をついているとお思いなのね。私、嘘などついていません。どうか信じてください。あの夏のサーカスの日、湖のほとりで好きだと言ってくれたサマンサは私です」

「それを知っているからと言って君がサマンサという証明にはならないさ。あの日、我々一行は大所帯だった。誰かに見られて父の耳に入っていたとしてもおかしくはない」

「冷静にお考えになって。そんなことあるはずないってわかるでしょう?」

「そんな目で見て俺を誘惑するな」

「誘惑など・・・しておりません」

「とにかく、俺は君とは結婚生活を続けていけない。離縁しよう」

「そんな・・・」

「話は以上だ」

そう言うとサミュエルは部屋から出て行った。スーザンは暗くなるまでずっと部屋で魂が抜けたように呆けていた。
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