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7. 王太子との食事
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夕食を共にすると言っても同じ空間に居るだけだろうとカテリーナは思っていた。
第二宮殿の食堂は濃い紺色で壁が塗られていてただでさえ辛気臭いのに、更に辛気臭くなるのだと思うと気が重い。
カテリーナは王妃に倣い、野菜と肉の入ったスープと黒パンを常食としている。贅沢をする際もそれに果物がつく程度である。
一方、アレクサンドルはその手の料理を嫌っていた。カテリーナはアレクサンドルの気持ちもよくわかる。望めばもっと豪華な食事だって可能なのに親のエゴで質素な食事を食べさせられれば恨みの一つも生まれるだろう。
なので、アレクサンドルは普通に王族として相応しい料理を食べるものだと思っていた。
しかし、夕食の場に行ってみると用意されていたのはカテリーナが普段食べているのと同じような食事が二人分。
しかも、長いテーブルの席をわざわざ隣同士になるようにしてあった。
その上、カテリーナが食堂に行くとアレクサンドルは既に着席していた。こんなことは初めてである。
これまでどんな茶会でも夜会でも先に到着するのはカテリーナでアレクサンドルが来るのを待たされるのが常だった。
待って待って待ってやっと来てもアレクサンドルはカテリーナに話しかけることなく時間だけが過ぎるのだ。
勿論、初めの頃はカテリーナがアレクサンドルに話しかけたが、話しても無視されるのでカテリーナがアレクサンドルと話す事を諦めたのが15の頃だ。
それ以降、カテリーナとアレクサンドルが会話することはほとんどなかった。
面食らいながらもカテリーナはアレクサンドルに公式の礼をとった。これは目下の者が目上の者に対して取る当然の行為である。これまでは礼をしても無視されるのが当たり前だったのでアレクサンドルからの声掛けを待たずに直るのが普通になっていた。
しかし、カテリーナが礼をするとアレクサンドルが話しかけてきた。
「カテリーナは私の妃であるのだから、そのような礼は取らなくても良い」
カテリーナは目を見開いた。アレクサンドルがカテリーナを「カテリーナ」と呼ぶのはいつぶりだろうか。もしかすると初めてかもしれない。
それから着席を促され、アレクサンドルに勧められるままにカテリーナは席についた。
「おっほん。えっと、カテリーナはクラスーヌイに来てどのように過ごして・・・いた?」
アレクサンドルの口から出るセリフには迷いがあるようだった。カテリーナには興味がないけれど頑張って話しているような雰囲気がする。
公爵に責められて心を入れ替えたのだろうか。それともそれが発端となって王に何かを言われたのかもしれない。例えばこのようなことが続けば王位継承について再考しなければならないとか。確かにアレクサンドルは王太子とは言えまだ王になったわけではない。
その事に今さら気づいたのかもしれない。
カテリーナは慰問のことや視察のことを答えた。
「王都に比べ貧富の差があるように感じましたので何かしたいと考えております」
「具体的にはどのようなこと?」
何度か会話を続けていくうちに徐々にアレクサンドルの言葉が砕けたものになってきた。これまでアレクサンドルからはほとんど怒気を含んだ声しか聞いたことがなかったが普通に話してくれる声は意外にもアリフレートと似ているな、と思った。
カテリーナとアレクサンドルがここまで長い会話のラリーをするのは初めてである。
もちろん砕けた口調がカテリーナに向けられるのも初めてである。
アレクサンドルとカテリーナはこれまで常に丁寧な言葉で会話をしてきた。カテリーナが婚約者になりたての頃は王族は常に丁寧な言葉遣いで会話するように育てられてきたのだろうと考えていたため、特に違和感はなかった。
しかし、学園に入り側近や学友たちには砕けた口調で話しているのを聞いて、自分は彼から距離を取られているのだと気付いた。
二人の数少ない会話が丁寧な口調でされることはカテリーナにとってアレクサンドルとの距離を再認識させられ、いつも少しだけむなしい思いが心を通り過ぎたものだった。
しかし、いざアレクサンドルがカテリーナに砕けた口調で話したときに真っ先に考えたのは「あ、アリフレートに声が似ているな」という事だった。
今回のアレクサンドルがの一連の行動は、彼がカテリーナに歩み寄ろうという意思があるのだということのあらわれだろう。
王太子妃として喜ぶべきことなのに、それほど嬉しくないことと他の男性の事を考えてしまうということへの自責の念が重くカテリーナの心にのしかかったのだった。
第二宮殿の食堂は濃い紺色で壁が塗られていてただでさえ辛気臭いのに、更に辛気臭くなるのだと思うと気が重い。
カテリーナは王妃に倣い、野菜と肉の入ったスープと黒パンを常食としている。贅沢をする際もそれに果物がつく程度である。
一方、アレクサンドルはその手の料理を嫌っていた。カテリーナはアレクサンドルの気持ちもよくわかる。望めばもっと豪華な食事だって可能なのに親のエゴで質素な食事を食べさせられれば恨みの一つも生まれるだろう。
なので、アレクサンドルは普通に王族として相応しい料理を食べるものだと思っていた。
しかし、夕食の場に行ってみると用意されていたのはカテリーナが普段食べているのと同じような食事が二人分。
しかも、長いテーブルの席をわざわざ隣同士になるようにしてあった。
その上、カテリーナが食堂に行くとアレクサンドルは既に着席していた。こんなことは初めてである。
これまでどんな茶会でも夜会でも先に到着するのはカテリーナでアレクサンドルが来るのを待たされるのが常だった。
待って待って待ってやっと来てもアレクサンドルはカテリーナに話しかけることなく時間だけが過ぎるのだ。
勿論、初めの頃はカテリーナがアレクサンドルに話しかけたが、話しても無視されるのでカテリーナがアレクサンドルと話す事を諦めたのが15の頃だ。
それ以降、カテリーナとアレクサンドルが会話することはほとんどなかった。
面食らいながらもカテリーナはアレクサンドルに公式の礼をとった。これは目下の者が目上の者に対して取る当然の行為である。これまでは礼をしても無視されるのが当たり前だったのでアレクサンドルからの声掛けを待たずに直るのが普通になっていた。
しかし、カテリーナが礼をするとアレクサンドルが話しかけてきた。
「カテリーナは私の妃であるのだから、そのような礼は取らなくても良い」
カテリーナは目を見開いた。アレクサンドルがカテリーナを「カテリーナ」と呼ぶのはいつぶりだろうか。もしかすると初めてかもしれない。
それから着席を促され、アレクサンドルに勧められるままにカテリーナは席についた。
「おっほん。えっと、カテリーナはクラスーヌイに来てどのように過ごして・・・いた?」
アレクサンドルの口から出るセリフには迷いがあるようだった。カテリーナには興味がないけれど頑張って話しているような雰囲気がする。
公爵に責められて心を入れ替えたのだろうか。それともそれが発端となって王に何かを言われたのかもしれない。例えばこのようなことが続けば王位継承について再考しなければならないとか。確かにアレクサンドルは王太子とは言えまだ王になったわけではない。
その事に今さら気づいたのかもしれない。
カテリーナは慰問のことや視察のことを答えた。
「王都に比べ貧富の差があるように感じましたので何かしたいと考えております」
「具体的にはどのようなこと?」
何度か会話を続けていくうちに徐々にアレクサンドルの言葉が砕けたものになってきた。これまでアレクサンドルからはほとんど怒気を含んだ声しか聞いたことがなかったが普通に話してくれる声は意外にもアリフレートと似ているな、と思った。
カテリーナとアレクサンドルがここまで長い会話のラリーをするのは初めてである。
もちろん砕けた口調がカテリーナに向けられるのも初めてである。
アレクサンドルとカテリーナはこれまで常に丁寧な言葉で会話をしてきた。カテリーナが婚約者になりたての頃は王族は常に丁寧な言葉遣いで会話するように育てられてきたのだろうと考えていたため、特に違和感はなかった。
しかし、学園に入り側近や学友たちには砕けた口調で話しているのを聞いて、自分は彼から距離を取られているのだと気付いた。
二人の数少ない会話が丁寧な口調でされることはカテリーナにとってアレクサンドルとの距離を再認識させられ、いつも少しだけむなしい思いが心を通り過ぎたものだった。
しかし、いざアレクサンドルがカテリーナに砕けた口調で話したときに真っ先に考えたのは「あ、アリフレートに声が似ているな」という事だった。
今回のアレクサンドルがの一連の行動は、彼がカテリーナに歩み寄ろうという意思があるのだということのあらわれだろう。
王太子妃として喜ぶべきことなのに、それほど嬉しくないことと他の男性の事を考えてしまうということへの自責の念が重くカテリーナの心にのしかかったのだった。
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