15 / 19
⑮
しおりを挟む
フレデリックはそんなモニカを一瞥すると、興味を無くしたとばかりにセシリアに向き直った。
「さ、行こうか。」
何事も無かったかのようにセシリアの手を取って歩き出した。セシリアはちらりと横目でモニカの様子を確認してみたが、彼女は自分の身に起こっている事が信じられない様子で、押さえ付けられたまま呆然としている。
緩やかに流れていた筈の音楽も止み、静まり返ったホールにはフレデリックの革靴とセシリアの華奢なヒールが鳴らす規則正しい音がやけに大きく響く。
真っ直ぐに国王の待つ主催者席まで向かうと、フレデリックが口を開く。
「陛下。彼女が先日結婚しました私の妻です。」
「初めまして。ご紹介に預かりました、この度サヴィン辺境伯家に嫁ぎました、セシリアと申します。お目通り叶いまして光栄に存じます。」
フレデリックの言葉を受け、完璧なカーテシーを披露した後、セシリアが口上を述べる。
セシリアとフレデリックが結婚したのは去年の社交シーズンが終わった後だった。結婚後は領地にて過ごし、今日のパーティーから始まる社交シーズンに向けて王都に出て来た。
一般的によっぽどの事が無い限り、貴族の中でも子爵以下の身分の者は国王と直接話す事は許されない。例外は、何か勲章を授かる程度の重大な功績を残した場合くらいだ。
その為、国王とセシリアが言葉を交わすのはこれが初めての事であった。
しかし、フレデリックは入場後すぐに彼らと話していた。それも親しげに。
つまり、フレデリックの事を知らなかったとしてもモニカが彼の身分に気が付く事の出来るチャンスはあったのだ。少なくとも、自分より上であろうという程度は。
会場中の視線が集まる中、緊張に負けじと毅然とした様子でいるも、やはり少しは震えてしまうセシリアの手をフレデリックのそれがそっと包み込む。
セシリアは途端に安心したように小さく息をついた。
そんな二人の様子を間近で見ていた国王はその微笑ましい光景に自然と口元が綻ぶのを抑えることが出来なかった。
「さ、行こうか。」
何事も無かったかのようにセシリアの手を取って歩き出した。セシリアはちらりと横目でモニカの様子を確認してみたが、彼女は自分の身に起こっている事が信じられない様子で、押さえ付けられたまま呆然としている。
緩やかに流れていた筈の音楽も止み、静まり返ったホールにはフレデリックの革靴とセシリアの華奢なヒールが鳴らす規則正しい音がやけに大きく響く。
真っ直ぐに国王の待つ主催者席まで向かうと、フレデリックが口を開く。
「陛下。彼女が先日結婚しました私の妻です。」
「初めまして。ご紹介に預かりました、この度サヴィン辺境伯家に嫁ぎました、セシリアと申します。お目通り叶いまして光栄に存じます。」
フレデリックの言葉を受け、完璧なカーテシーを披露した後、セシリアが口上を述べる。
セシリアとフレデリックが結婚したのは去年の社交シーズンが終わった後だった。結婚後は領地にて過ごし、今日のパーティーから始まる社交シーズンに向けて王都に出て来た。
一般的によっぽどの事が無い限り、貴族の中でも子爵以下の身分の者は国王と直接話す事は許されない。例外は、何か勲章を授かる程度の重大な功績を残した場合くらいだ。
その為、国王とセシリアが言葉を交わすのはこれが初めての事であった。
しかし、フレデリックは入場後すぐに彼らと話していた。それも親しげに。
つまり、フレデリックの事を知らなかったとしてもモニカが彼の身分に気が付く事の出来るチャンスはあったのだ。少なくとも、自分より上であろうという程度は。
会場中の視線が集まる中、緊張に負けじと毅然とした様子でいるも、やはり少しは震えてしまうセシリアの手をフレデリックのそれがそっと包み込む。
セシリアは途端に安心したように小さく息をついた。
そんな二人の様子を間近で見ていた国王はその微笑ましい光景に自然と口元が綻ぶのを抑えることが出来なかった。
283
あなたにおすすめの小説
私の夫は妹の元婚約者
彼方
恋愛
私の夫ミラーは、かつて妹マリッサの婚約者だった。
そんなミラーとの日々は穏やかで、幸せなもののはずだった。
けれどマリッサは、どこか意味ありげな態度で私に言葉を投げかけてくる。
「ミラーさんには、もっと活発な女性の方が合うんじゃない?」
挑発ともとれるその言動に、心がざわつく。けれど私も負けていられない。
最近、彼女が婚約者以外の男性と一緒にいたことをそっと伝えると、マリッサは少しだけ表情を揺らした。
それでもお互い、最後には笑顔を見せ合った。
まるで何もなかったかのように。
【完結】「妹が欲しがるのだから与えるべきだ」と貴方は言うけれど……
小笠原 ゆか
恋愛
私の婚約者、アシュフォード侯爵家のエヴァンジェリンは、後妻の産んだ義妹ダルシニアを虐げている――そんな噂があった。次期王子妃として、ひいては次期王妃となるに相応しい振る舞いをするよう毎日叱責するが、エヴァンジェリンは聞き入れない。最後の手段として『婚約解消』を仄めかしても動じることなく彼女は私の下を去っていった。
この作品は『小説家になろう』でも公開中です。
濡れ衣を着せてきた公爵令嬢は私の婚約者が欲しかったみたいですが、その人は婚約者ではありません……
もるだ
恋愛
パトリシア公爵令嬢はみんなから慕われる人気者。その裏の顔はとんでもないものだった。ブランシュの評価を落とすために周りを巻き込み、ついには流血騒ぎに……。そんなパトリシアの目的はブランシュの婚約者だった。だが、パトリシアが想いを寄せている男はブランシュの婚約者ではなく、同姓同名の別人で──。
妹が公爵夫人になりたいようなので、譲ることにします。
夢草 蝶
恋愛
シスターナが帰宅すると、婚約者と妹のキスシーンに遭遇した。
どうやら、妹はシスターナが公爵夫人になることが気に入らないらしい。
すると、シスターナは快く妹に婚約者の座を譲ると言って──
本編とおまけの二話構成の予定です。
婚約者の私には何も買ってはくれないのに妹に好きな物を買い与えるのは酷すぎます。婚約破棄になって清々しているので付き纏わないで
珠宮さくら
恋愛
ゼフィリーヌは、婚約者とその妹に辟易していた。どこに出掛けるにも妹が着いて来ては兄に物を強請るのだ。なのにわがままを言って、婚約者に好きな物を買わせていると思われてしまっていて……。
※全5話。
【完結】私から全てを奪った妹は、地獄を見るようです。
凛 伊緒
恋愛
「サリーエ。すまないが、君との婚約を破棄させてもらう!」
リデイトリア公爵家が開催した、パーティー。
その最中、私の婚約者ガイディアス・リデイトリア様が他の貴族の方々の前でそう宣言した。
当然、注目は私達に向く。
ガイディアス様の隣には、私の実の妹がいた──
「私はシファナと共にありたい。」
「分かりました……どうぞお幸せに。私は先に帰らせていただきますわ。…失礼致します。」
(私からどれだけ奪えば、気が済むのだろう……。)
妹に宝石類を、服を、婚約者を……全てを奪われたサリーエ。
しかし彼女は、妹を最後まで責めなかった。
そんな地獄のような日々を送ってきたサリーエは、とある人との出会いにより、運命が大きく変わっていく。
それとは逆に、妹は──
※全11話構成です。
※作者がシステムに不慣れな時に書いたものなので、ネタバレの嫌な方はコメント欄を見ないようにしていただければと思います……。
甘やかされすぎた妹には興味ないそうです
もるだ
恋愛
義理の妹スザンネは甘やかされて育ったせいで自分の思い通りにするためなら手段を選ばない。スザンネの婚約者を招いた食事会で、アーリアが大事にしている形見のネックレスをつけているスザンネを見つけた。我慢ならなくて問い詰めるもスザンネは知らない振りをするだけ。だが、婚約者は何か知っているようで──。
【完結】妹が欲しがるならなんでもあげて令嬢生活を満喫します。それが婚約者の王子でもいいですよ。だって…
西東友一
恋愛
私の妹は昔から私の物をなんでも欲しがった。
最初は私もムカつきました。
でも、この頃私は、なんでもあげるんです。
だって・・・ね
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる