奏楽と貴方に翻弄されて

乃愛

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第八話 『おやすみ』

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「一体誰なの・・・」いつものように頭を抱えていると、着信音が鳴った。恐る恐る携帯を覗く。
「ひっ、樋野さんっ!」双葉は即座に携帯を持ち直し電話に出た。
「樋野さん!!」「半年ぶりに電話を掛けても相変わらずの声のデカさだな・・」
「うぅ・・怖かった・・。」「怖かった?俺がか?」
「最近よく悪戯電話みたいのが掛かってきて・・電話に出るのが怖かったんです」
「内容は?」双葉は内容を細かく説明した。
「今度また掛かってきたら録音しておいてくれ。時間が出来たらまた連絡する。会えることになった時に持ってきてくれ。」
「分かりました・・今日は突然何で・・」「最近仕事が忙しくてレッスン見てやれてなかったし、今日はオフで今仕事が終わったんだ。」
「忙しかったんですか・・?よかった・・」
「なんだ、俺が忙しいとよかったことでもあるのか。」
「・・・私、てっきり私が告白したから音信不通になったのかと思って落ち込んでたんです、今日声が聞けてとっても安心しました・・・」
良輔は電話越しに聞こえる程の溜息をついた。
「何故俺がお前に告白されて避けるような真似をしないといけない?もしお前に告白されて不快なら即不快だと伝える。あと・・声を聞いたくらいで安心するならいつでもお前から掛けてこい。何かあったら絶対俺に掛けることだ。」
良輔は最後に電話番号を伝えて電話を切った。照れたのか小さな声で『おやすみ』と呟いたのが可愛くて双葉は吹き出しそうだった。
「はぁ、あんな可愛いのに彼女いないって・・罪だよねぇ・・」
その日はいつも以上にぐっすり眠ることができた双葉だった。

翌日 毎日のように来る悪戯電話に怯えながらも録音したボイスレコーダーと甘さ控えめを売りにした羊羹を差し入れに事務所へ向かった。
「おっ!久しぶり~双葉ちゃん!」「ご無沙汰してます、藤野さん。あの、樋野さんはいらっしゃいますか?」
「藤野さんなんて堅いこと言わずにさぁ、遙でいいよ遙で!樋野さんかぁ今会議じゃない?今日も樋野さんに呼ばれて来たの?」
「いえ、何も言わず来ちゃって。会議中なら出直します。」
「いいよいいよぉ、俺と喋ろ?」「あの、それは・・」
「遙、何してるの。」凛とした佇まいの女性が遙を呼んだ。
「お~っ、理沙子。この子、前に話した歌手志望の彼女~」
「はっ!?ちょっと藤野さん彼女ってなんですか!」いいからいいから、と宥められて黙り込む双葉。
「・・・ふぅん、初めまして。藤山理沙子です、女優をしてるの。」
「あっ、初めまして!三谷双葉ですっ」手を差し出され握手を交わすと若干痛みを感じた。
「ごめんなさいね、遙は遊び癖の強い子で。一応私の彼氏、なんだけど前スキャンダルで報じられちゃって少し距離を取ってるの。」
「彼氏さんっ!?あ、すいません!」「くれぐれも私と遙の関係は内密に。それから邪魔もしないでいただけると嬉しいわ。」
「邪魔だなんてとんでもない!お似合いだと思いますっ!」
「おいおい、余計な事口滑らせんなよ理沙子ー。スキャンダルなんてただの合成だし俺本命いるって前も言ったろ。」
「ふっ、あらそう。じゃあ私は失礼しますね、忙しいから。」理沙子が立ち去ろうとした時、偶然にも会議室の扉が開き良輔が姿を見せた。
「お前っ!何で!」「すみません!少しお話したかったので・・」
「あ~ら、良輔とも知り合いだったのねぇ。」「良輔?」
「そう。良輔は私の元彼よ、ねぇ?」双葉は良輔の顔を見たがわざとらしく目を逸らされる。
「だって誰も好きになった事ないって・・」「あら、私仕事に遅れちゃうからこれで。じゃあね、良輔」良輔は一言も会話をせずに黙っていた。
理沙子が立ち去った社内には張り詰めた重い空気だけが残った。
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