6 / 19
第2章
4
しおりを挟む
学部棟を出て学食に向かっている間、アキラくんといろんな話ができた。
元々性欲が異常に強く、見られることで性的興奮を覚える変態だということ。この前、私の地元にいたのはやっぱり配信のためで、女装をしているのは身バレ防止と単にウケが良かったから。
「じゃあ、アキラくんは別に男の人が好きなわけではない?」
「うん、見られたいだけ。好きなのは女の子だけど、見てくれる対象は男でも女でもどっちでもいい。でもこういう性癖って、友達には言えないでしょ。だから同じような立場の変態な人達に見てもらってたわけだけど、まさかコハルちゃんにバレるなんて」
「あ、ごめん、あそこ地元なの」
「……もう行けないな」
「え、またそういうことするつもりだったの?」
「ううん、もうしないよ。アカウントも消す。だってこれからはコハルちゃんが見てくれるんでしょ?」
「う、うん」
「やっぱりコハルちゃんも変態だね」
からかうわけではなく、同志に会えて嬉しいみたいなニュアンスでアキラくんが笑った。
正確には、私は見たり見られたりが好きなんじゃなくて、アキラくんが好きだから見たいし触りたいだけなんだけど……。
そう訂正したかったけど、アキラくんの嬉しそうな顔を見たら、恥ずかしさが込み上げてきて言えなかった。
学食に着くと、ほとんどの席が埋まって賑やかというよりもうるさかった。
入り口付近では、大学生活をめちゃくちゃに楽しんでいそうな5人の男女グループが、長テーブルをくっつけ合ってバカ騒ぎしていた。あぁ、私の苦手なタイプだ……。そう思っていたらスーツ姿の一際目立つ背の高いホストみたいな黒髪の男の人と目が合った。「おー」と知り合いでもないのに片手を上げられる。
「起きてたか、アキラ」
イスから立ち上がり近寄って来た男の人が、私たちの前に立つ。目の前に来られるとその背の高さに圧倒される。身長いくつあるんだ……。私とアキラくんの頭一つ分くらい余裕で違う。
「今日は寝坊しなかった」と怯える様子もなく、ホストみたいな男の人と会話を続けるアキラくんを見て、ようやくこの二人が知り合いなのだと理解する。
ふわふわした天使のようなアキラくんが、この巨神兵ホストと友達なのが微妙に信じられない。顔面偏差値は、まぁそこそこといったところか。私の好みではないが、世間的にはモテるんだろうなとは思う。足元を見る。天然ででかいんだ……。うわぁ。
「そっちは?」
視線を向けられて、背筋が伸びる。
「コハルちゃん。同じ学部の一年生」
アキラくんが紹介してくれて、慌ててフルネームを名乗った。
巨神兵は別学部の三年で、アキラくんの部活の先輩なのかと思いきや、高校の同級生だったという。
「……え、三年なのに高校の同級生……?」
「あ、俺、二回ダブってるから、コハルちゃんの歳上だよ」
年齢の計算が合わなくて思わず声に出すと、隣のアキラくんがあっけらかんとした声で答えた。
「えぇ!?」
「あはは、こいつまじで朝起きれないし、苦手な講義の内容も全然覚えないからさ、次もまた留年しないように勉強教えてやって。よろしくね」
「コハルちゃん、よろしくねー」
軽い調子で話続けて、アキラくんとその友達は騒がしい集団の中に帰っていった。
私は真希ちゃんを探すふりをしながら、さっき聞いた情報の処理をしていた。アキラくんの可愛さから勝手に同い年かと思っていて、なんなら歳下のように「かわいい、かわいい」って思ってて、でも歳上で……、生意気だと思われてたらどうしよう。
あのチャラついた集団の中で私のことを話してたらどうしよう。大学に入って部活もないし、体育会系みたいな年功序列の悪習からやっと逃れられたと思ったのに。
「どこまで行くんだ、お嬢」
声と同時に腕を引っ張られる。真希ちゃんだった。
アキラくん達のグループからほんの数席後ろに離れただけの位置に座っていたらしい。三人掛けの長テーブルの端っこに一人分のカレーが乗っていた。その隣の席にリュックを下ろす。
「ごめんね、遅くなって」
「うん。先に食べてた。アキラくんとなんかあったか? ……どした、それ」
真希ちゃんの視線の先には、私が握りしめていたずぶ濡れのハンカチがあった。咄嗟に顔の前まで持ってくる。アキラくんの匂いはもうしなかった。石鹸と、自分がいつも使っている柔軟剤の香りだけ。少し、残念。
「あ、えーっと……、鼻血出ちゃって」
「アキラくんの前で?」
「う、うん」
「興奮したんか。ピュアな少女漫画みたいだなー」
ケラケラと笑いながら、真希ちゃんは途中まで食べていたカレーを頬張り始めた。
……ピュアな少女漫画では好きな男の子のオナニーは見ないし、付き合ってもないのに触ったりしないんじゃないかな……。そう思ったけど唯一の友達が減りそうなので言わないでおいた。
元々性欲が異常に強く、見られることで性的興奮を覚える変態だということ。この前、私の地元にいたのはやっぱり配信のためで、女装をしているのは身バレ防止と単にウケが良かったから。
「じゃあ、アキラくんは別に男の人が好きなわけではない?」
「うん、見られたいだけ。好きなのは女の子だけど、見てくれる対象は男でも女でもどっちでもいい。でもこういう性癖って、友達には言えないでしょ。だから同じような立場の変態な人達に見てもらってたわけだけど、まさかコハルちゃんにバレるなんて」
「あ、ごめん、あそこ地元なの」
「……もう行けないな」
「え、またそういうことするつもりだったの?」
「ううん、もうしないよ。アカウントも消す。だってこれからはコハルちゃんが見てくれるんでしょ?」
「う、うん」
「やっぱりコハルちゃんも変態だね」
からかうわけではなく、同志に会えて嬉しいみたいなニュアンスでアキラくんが笑った。
正確には、私は見たり見られたりが好きなんじゃなくて、アキラくんが好きだから見たいし触りたいだけなんだけど……。
そう訂正したかったけど、アキラくんの嬉しそうな顔を見たら、恥ずかしさが込み上げてきて言えなかった。
学食に着くと、ほとんどの席が埋まって賑やかというよりもうるさかった。
入り口付近では、大学生活をめちゃくちゃに楽しんでいそうな5人の男女グループが、長テーブルをくっつけ合ってバカ騒ぎしていた。あぁ、私の苦手なタイプだ……。そう思っていたらスーツ姿の一際目立つ背の高いホストみたいな黒髪の男の人と目が合った。「おー」と知り合いでもないのに片手を上げられる。
「起きてたか、アキラ」
イスから立ち上がり近寄って来た男の人が、私たちの前に立つ。目の前に来られるとその背の高さに圧倒される。身長いくつあるんだ……。私とアキラくんの頭一つ分くらい余裕で違う。
「今日は寝坊しなかった」と怯える様子もなく、ホストみたいな男の人と会話を続けるアキラくんを見て、ようやくこの二人が知り合いなのだと理解する。
ふわふわした天使のようなアキラくんが、この巨神兵ホストと友達なのが微妙に信じられない。顔面偏差値は、まぁそこそこといったところか。私の好みではないが、世間的にはモテるんだろうなとは思う。足元を見る。天然ででかいんだ……。うわぁ。
「そっちは?」
視線を向けられて、背筋が伸びる。
「コハルちゃん。同じ学部の一年生」
アキラくんが紹介してくれて、慌ててフルネームを名乗った。
巨神兵は別学部の三年で、アキラくんの部活の先輩なのかと思いきや、高校の同級生だったという。
「……え、三年なのに高校の同級生……?」
「あ、俺、二回ダブってるから、コハルちゃんの歳上だよ」
年齢の計算が合わなくて思わず声に出すと、隣のアキラくんがあっけらかんとした声で答えた。
「えぇ!?」
「あはは、こいつまじで朝起きれないし、苦手な講義の内容も全然覚えないからさ、次もまた留年しないように勉強教えてやって。よろしくね」
「コハルちゃん、よろしくねー」
軽い調子で話続けて、アキラくんとその友達は騒がしい集団の中に帰っていった。
私は真希ちゃんを探すふりをしながら、さっき聞いた情報の処理をしていた。アキラくんの可愛さから勝手に同い年かと思っていて、なんなら歳下のように「かわいい、かわいい」って思ってて、でも歳上で……、生意気だと思われてたらどうしよう。
あのチャラついた集団の中で私のことを話してたらどうしよう。大学に入って部活もないし、体育会系みたいな年功序列の悪習からやっと逃れられたと思ったのに。
「どこまで行くんだ、お嬢」
声と同時に腕を引っ張られる。真希ちゃんだった。
アキラくん達のグループからほんの数席後ろに離れただけの位置に座っていたらしい。三人掛けの長テーブルの端っこに一人分のカレーが乗っていた。その隣の席にリュックを下ろす。
「ごめんね、遅くなって」
「うん。先に食べてた。アキラくんとなんかあったか? ……どした、それ」
真希ちゃんの視線の先には、私が握りしめていたずぶ濡れのハンカチがあった。咄嗟に顔の前まで持ってくる。アキラくんの匂いはもうしなかった。石鹸と、自分がいつも使っている柔軟剤の香りだけ。少し、残念。
「あ、えーっと……、鼻血出ちゃって」
「アキラくんの前で?」
「う、うん」
「興奮したんか。ピュアな少女漫画みたいだなー」
ケラケラと笑いながら、真希ちゃんは途中まで食べていたカレーを頬張り始めた。
……ピュアな少女漫画では好きな男の子のオナニーは見ないし、付き合ってもないのに触ったりしないんじゃないかな……。そう思ったけど唯一の友達が減りそうなので言わないでおいた。
20
あなたにおすすめの小説
不埒な社長と熱い一夜を過ごしたら、溺愛沼に堕とされました
加地アヤメ
恋愛
カフェの新規開発を担当する三十歳の真白。仕事は充実しているし、今更恋愛をするのもいろいろと面倒くさい。気付けばすっかり、おひとり様生活を満喫していた。そんなある日、仕事相手のイケメン社長・八子と脳が溶けるような濃密な一夜を経験してしまう。色恋に長けていそうな極上のモテ男とのあり得ない事態に、きっとワンナイトの遊びだろうとサクッと脳内消去するはずが……真摯な告白と容赦ないアプローチで大人の恋に強制参加!? 「俺が本気だってこと、まだ分からない?」不埒で一途なイケメン社長と、恋愛脳退化中の残念OLの蕩けるまじラブ!
男嫌いな王女と、帰ってきた筆頭魔術師様の『執着的指導』 ~魔道具は大人の玩具じゃありません~
花虎
恋愛
魔術大国カリューノスの現国王の末っ子である第一王女エレノアは、その見た目から妖精姫と呼ばれ、可愛がられていた。
だが、10歳の頃男の家庭教師に誘拐されかけたことをきっかけに大人の男嫌いとなってしまう。そんなエレノアの遊び相手として送り込まれた美少女がいた。……けれどその正体は、兄王子の親友だった。
エレノアは彼を気に入り、嫌がるのもかまわずいたずらまがいにちょっかいをかけていた。けれど、いつの間にか彼はエレノアの前から去り、エレノアも誘拐の恐ろしい記憶を封印すると共に少年を忘れていく。
そんなエレノアの前に、可愛がっていた男の子が八年越しに大人になって再び現れた。
「やっと、あなたに復讐できる」
歪んだ復讐心と執着で魔道具を使ってエレノアに快楽責めを仕掛けてくる美形の宮廷魔術師リアン。
彼の真意は一体どこにあるのか……わからないままエレノアは彼に惹かれていく。
過去の出来事で男嫌いとなり引きこもりになってしまった王女(18)×王女に執着するヤンデレ天才宮廷魔術師(21)のラブコメです。
※ムーンライトノベルにも掲載しております。
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
独占欲全開の肉食ドクターに溺愛されて極甘懐妊しました
せいとも
恋愛
旧題:ドクターと救急救命士は天敵⁈~最悪の出会いは最高の出逢い~
救急救命士として働く雫石月は、勤務明けに乗っていたバスで事故に遭う。
どうやら、バスの運転手が体調不良になったようだ。
乗客にAEDを探してきてもらうように頼み、救助活動をしているとボサボサ頭のマスク姿の男がAEDを持ってバスに乗り込んできた。
受け取ろうとすると邪魔だと言われる。
そして、月のことを『チビ団子』と呼んだのだ。
医療従事者と思われるボサボサマスク男は運転手の処置をして、月が文句を言う間もなく、救急車に同乗して去ってしまった。
最悪の出会いをし、二度と会いたくない相手の正体は⁇
作品はフィクションです。
本来の仕事内容とは異なる描写があると思います。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
泡風呂を楽しんでいただけなのに、空中から落ちてきた異世界騎士が「離れられないし目も瞑りたくない」とガン見してきた時の私の対応。
待鳥園子
恋愛
半年に一度仕事を頑張ったご褒美に一人で高級ラグジョアリーホテルの泡風呂を楽しんでたら、いきなり異世界騎士が落ちてきてあれこれ言い訳しつつ泡に隠れた体をジロジロ見てくる話。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる