【R18】好きな人が変態だったので、脅したら処女バレ(自爆)して逆転→溺愛されました。

志貴野ハル

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第3章

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「…………」

 そのまま渡してしまえばこれで終わりなんだけど、アキラくんのことだからきっと受け取って満足して終わりな気がする。たぶん、見返したりもしないんだろう。

「アキラくん、五限まで暇なんだよね」
「うん」
「ここでノート取っていって。アキラくん、この講義、苦手でしょ。ちゃんと自分の手で書かないと覚えないと思うから」

 うわ、教授みたいなことを言っちゃった。

「えぇ……」

 アキラくんもめんどくさそうに眉を下げている。

「ちなみに来週、小テストがあって、受けるだけで成績に加算されるみたい」
「ふうん……」

 こたつテーブルの上で突っ伏しているアキラくんが目だけをむけてつぶやいた。
 ……いまいち響いてないな。
 なんというか、アキラくんには危機感というものがなくて私とやる気の温度差が結構ある。だからどうやってやる気にさせて勉強させたらいいのかわからない……。
 そういや昔お兄ちゃんが持っていた漫画に、問題が正解するごとになんかエロいご褒美をあげてた描写があったな。あれは恋人同士がしていたことだから、アキラくんにその気がなければ通用しない気もするけど……。

「じゃあ、アキラくん」

 ぐでーという書き文字が似合うくらい、こたつテーブルの上に腕を伸ばして上半身を折り曲げているアキラくんに向かい合う。今から言うことはかなり恥ずかしい。スベったら本当、大事故間違いなし。えぇい、ままよ。

「今までの講義のノート、全部書き写したら、……きっ、気持ちいいことしてあげる」
「……ほう」

 完全に突っ伏して寝る姿勢になったアキラくんが、首だけをこちらに向けた。

「気持ちいいことって、なんでもいいの?」
「なんでも! この前みたいに手でしたりとかいろいろ!」
「よっしゃ、いろんな意味でやる気出た」

 言質をとったと言わんばかりに目が輝き出し、上体がぐんと起き上がった。……可愛い顔をして本当に性欲の塊だ。思春期の中高生くらい、性に対して貪欲だと思う。
 私はといえばゴリラみたいな兄が所蔵していた十八禁の書物や、真希ちゃんとノリで回し読みしていたレディースコミックから得た知識を持ち合わせたくらいだから、アキラくんの期待に応えられるかどうか、不安しかない。この前、やっとホンモノのお触りを卒業したレベルなのに。
 というか、きっとアキラくんは私を処女だと思ってない。初めから、上から目線の強気な態度をとってしまった私に責任はあるけど、経験は皆無で、手はおろか舌など使う高等技術など、何それどのエロ本、何ページの話よってくらい未知なわけで。
 ……早まってしまった。そりゃいつかはアキラくんと結ばれたいけど、ノートを取るだけの交換条件で十八年大事にしてきた処女を渡したくない。願わくばまた手だけで済みますように。そして今回も私優位で終われますように。


 リュックから適当なノートを取り出して、一回目の講義分からノートを取っていくアキラくんの横顔を見つめる。
 めちゃくちゃ真面目な顔をして、めちゃくちゃ集中している。笑うと可愛いし黙っていれば格好いいんだよなぁ。なんでみんなこの尊さに気づかないんだろう。
 毎週、私と一緒に見ている真希ちゃんですら「細い男には興味ねぇ」って言うし。ゴリラよりマシじゃん。
 ずっと見惚れていたら目が合った。きょとんとした顔の後、子供みたいにへにゃっと崩れる。ほら! これだよ、この可愛さ! 人と目が合ったら自然と笑顔を振りまける愛嬌の良さ! うちのゴリラ(兄)なんてオラついてくるからね!

「あ、アキラくんっ、なんか飲む? ココアとか、コーヒーとか」
「お構いなく~」

 いや、全力で構うよ。
 立ち上がってキッチンへ向かう。白くて大きいシンプルなマグカップにココアの粉を入れてお湯を沸かしている間、カウンター越しにアキラくんの背中を眺める。白とピンクが基調の、いかにも女子が住んでますと主張するここにアキラくんがいるなんて、しかもノートを広げて勉強をしているなんて、夢みたいだ。
 邪魔にならないように、湯気のたつマグカップをそっと左手側に置く。また「ありがとう(へにゃ)」で、私の頬も緩みまくる。
 まるで受験勉強を頑張る息子を応援する母親にでもなった気分だ。実際は不真面目で講義を休んでばかりで、ただノートを写しているだけなのに、めちゃくちゃ世話を焼きたくなってくる。


 それからアキラくんはほとんど一言も喋らずに、手を動かしまくった。一度だけトイレを借りに立ったくらいで、ココアもほとんど口をつけず、お昼を過ぎて、ご飯を買いに行こうかそれとも作ろうかと提案しても「大丈夫~」とやんわり断り、ひたすらノートに向き合っている。
 私はというと、彼の邪魔にならないようにベッドのフレームに寄りかかりながら、端正な横顔を気づかれない程度の熱さで見つめていた。
 ……本当は写真におさめたい。動画を撮りたい。そしてモチベーションを高めるために、自分のテスト勉強中に部屋で流したい。
 ペット用カメラでもつけようかな。
 誘う口実が思いつかないから、次はいつ来てくれるかかわからないけど。
 手が届く距離にいるのに、手に入らないから、そういう危険思考が頭をよぎる。


「終わった!」

 この静寂の中、どうにかアキラくんに気づかれないように写真を撮れないか、スマホを持ったまま手元をモゾモゾ動かしていたら、唐突にアキラくんが叫んだ。驚き過ぎて体が跳ねる。

「……え、全部? 本当?」
「終わったよー、ほら」

 手渡されたノートとルーズリーフの紙束を見比べる。綺麗に一語一句コピーされていた。重要だと思って引いたアンダーラインも、教授がつぶやいた話のメモも残さず。
 内容を理解したかどうかは別として、九十分の講義十回分の内容を二時間で書き写すのは大したものだ。よく集中力が切れなかったな。私だったら絶対飽きている。
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