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第4章
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金曜日になっても真希ちゃんの熱は下がらないし、アキラくんから連絡が来ることもなかった。
一人で家を出るときに必ず目に入る、アパートの駐車場に停まっている兄の車に当たりそうになる。
他に友達を作ったほうがいい? サークルとか部活に入ればよかったのかな。だけど人付き合い自体、苦手だし。無理して入っても疲れるだけだろうし。
アキラくんともせっかく付き合えたのに、いつ連絡をとっていいかわからない。アキラくんは朝が弱いから「おはよう」のタイミングがわからない。「おやすみ」も然り。
経験も共通の趣味もないから、アキラくんの楽しめる話題を差し出すこともできない。
足取りが重いまま教室に入る。地味に一番目立たない、一番前の端っこに座ってルーズリーフと一緒にスマホを取り出す。
とりあえず一限目が始まる前に「おはよう」だけは送ってみた。あとはもう、講義に集中しよう。
八時五十分、講義が始まる。長々と続く講師の話を聞きながら、テキストを見るふりしてこっそりスマホを開く。既読すらつかない。まぁ、さっき送ったばかりだしね。
九時十分、新着メッセージの通知が来た。だけど開いたらただのDMだった。アキラくんからの既読はまだつかない。
九時三十分。気づいたらアキラくんの既読がついた。
九時三十三分。音沙汰なし。……あれ?
それからいくら待ってもアキラくんからの返信はなかった。明らかに挙動不審だったのか、気づいたら先生が結構な至近距離で話していた。視線がぶつかって睨まれる。……やばい。
慌ててスマホを机の下に引っ込めて、ノートに向き合う。だけど集中することはできなくて、そのまま一限目が終わってしまった。
この前と同じこと、やっちゃった……。
高校時代は教室でイチャイチャしたり、メッセージを送りあったりしてるカップルを「授業に集中しろよ」なんて白い目で見ていたくせに、自分も同じことをしている。
二限目は同じ失態を繰り返さないために、いっそスマホの電源を切ってしまおうか。
「……ひゃぁっ」
移動しながらスマホの画面を見ていたら、メッセージの通知ではなくて着信画面が出てきた。小さく叫んだから、すれ違う何人かの学生が何事かとチラチラこちらを見ている。恥ずかしい。
「はいっ」
『コハルちゃん? おはよう~。ごめんね、気づいたら二度寝してた』
ふにゃふにゃのアキラくんの声。寝起きだと、こんな感じなんだ。布団にくるまっている姿を想像して目頭が熱くなる。
「お、おはよ。全然、大丈夫だよ。起こしちゃってごめんね」
『ううん。コハルちゃんは次も授業あるの?』
「うん、今、移動中」
『教室、どこ?』
アキラくんに聞かれて次の教室の場所を教えると、一番後ろの端っこに座るように言われた。
「もしかして来るの? アキラくんこの授業、とってたっけ」
『とってないけど、コハルちゃんに会いに行こうかな』
さらりと言われて、胸が詰まる。
心のどこかで、お情けで付き合ってもらっていると思っていた部分があって、アキラくんから「好きだ」と言われたのも、私の体であれこれした罪滅ぼしの為なのかと卑屈になっていた。
なんだ……、もっと早く連絡取ってもよかったんだ。
アキラくんに言われた通り、教室の一番後ろの左側に座る。他学部からも聞きに来るくらい人気の講義だから、三百人規模の大きな教室はすぐに人で埋まっていく。他の人に申し訳ないと思いつつ、隣の席に自分のバッグを置いてアキラくんの席を確保する。
講義が始まって三十分後、ふと左隣が暗くなった。
「っ」
アキラくんだ。
叫び出しそうになっている私と目があって、「しー」と人差し指を唇に当てている。
「おはよ」
口パクで挨拶をされて、こくこくとうなずく。アキラくんは口元に手を当てて笑いを堪えている。
いつも後ろ姿だけで、隣に座って講義を受けるなんてことは今までなかったから、すごく新鮮だ。心なしかアキラくんの甘い匂いが近くで感じる気がする。幸せすぎて心臓がうるさいし、緊張で左側を向けない。
アキラくんに気づかれない程度に横目で見ると、配られたレジュメをペラペラとめくっている。
「あ、これ、一昨年受けたやつだ」
「……そうなの?」
「面白かったから覚えてる」
読んでいるのは、教授が行ったフィールドワークの記事だ。南アフリカの原住民との生活を通して、どんな気づきを得たか、何を学んだかというような内容だった。
私は正直、空きコマを埋めるためと自由単位を取るために受けている講義だったから、面白いとは思えなくて、どちらかというと退屈していた。アキラくんじゃないけど、サボって単位を落としてもいいかなと思うくらい。
どこか重要なのかさっぱりわからないまま、ただ長々と続く教授の話に耳を傾けていたら、つん、と左の二の腕を突かれた。
「?」
振り向くと、机に片ひじを乗せて突っ伏しているアキラくんが、こちらを見ていた。
「……なぁに?」
小さく話しかける私を無視して、真顔のまま、またつんつんしてくる。なんだろう。
指が、つぅと下に降りていって、今度は私の太ももに触れた。思わず身じろぎすると、アキラくんの目尻が下がった。そのまま指先で太ももをすりすりと撫でられる。
アキラくんにしてみたらただ暇つぶしでじゃれているだけかもしれないけど、私からしたらもう、この前の部屋での記憶しか出てこない。
一人で家を出るときに必ず目に入る、アパートの駐車場に停まっている兄の車に当たりそうになる。
他に友達を作ったほうがいい? サークルとか部活に入ればよかったのかな。だけど人付き合い自体、苦手だし。無理して入っても疲れるだけだろうし。
アキラくんともせっかく付き合えたのに、いつ連絡をとっていいかわからない。アキラくんは朝が弱いから「おはよう」のタイミングがわからない。「おやすみ」も然り。
経験も共通の趣味もないから、アキラくんの楽しめる話題を差し出すこともできない。
足取りが重いまま教室に入る。地味に一番目立たない、一番前の端っこに座ってルーズリーフと一緒にスマホを取り出す。
とりあえず一限目が始まる前に「おはよう」だけは送ってみた。あとはもう、講義に集中しよう。
八時五十分、講義が始まる。長々と続く講師の話を聞きながら、テキストを見るふりしてこっそりスマホを開く。既読すらつかない。まぁ、さっき送ったばかりだしね。
九時十分、新着メッセージの通知が来た。だけど開いたらただのDMだった。アキラくんからの既読はまだつかない。
九時三十分。気づいたらアキラくんの既読がついた。
九時三十三分。音沙汰なし。……あれ?
それからいくら待ってもアキラくんからの返信はなかった。明らかに挙動不審だったのか、気づいたら先生が結構な至近距離で話していた。視線がぶつかって睨まれる。……やばい。
慌ててスマホを机の下に引っ込めて、ノートに向き合う。だけど集中することはできなくて、そのまま一限目が終わってしまった。
この前と同じこと、やっちゃった……。
高校時代は教室でイチャイチャしたり、メッセージを送りあったりしてるカップルを「授業に集中しろよ」なんて白い目で見ていたくせに、自分も同じことをしている。
二限目は同じ失態を繰り返さないために、いっそスマホの電源を切ってしまおうか。
「……ひゃぁっ」
移動しながらスマホの画面を見ていたら、メッセージの通知ではなくて着信画面が出てきた。小さく叫んだから、すれ違う何人かの学生が何事かとチラチラこちらを見ている。恥ずかしい。
「はいっ」
『コハルちゃん? おはよう~。ごめんね、気づいたら二度寝してた』
ふにゃふにゃのアキラくんの声。寝起きだと、こんな感じなんだ。布団にくるまっている姿を想像して目頭が熱くなる。
「お、おはよ。全然、大丈夫だよ。起こしちゃってごめんね」
『ううん。コハルちゃんは次も授業あるの?』
「うん、今、移動中」
『教室、どこ?』
アキラくんに聞かれて次の教室の場所を教えると、一番後ろの端っこに座るように言われた。
「もしかして来るの? アキラくんこの授業、とってたっけ」
『とってないけど、コハルちゃんに会いに行こうかな』
さらりと言われて、胸が詰まる。
心のどこかで、お情けで付き合ってもらっていると思っていた部分があって、アキラくんから「好きだ」と言われたのも、私の体であれこれした罪滅ぼしの為なのかと卑屈になっていた。
なんだ……、もっと早く連絡取ってもよかったんだ。
アキラくんに言われた通り、教室の一番後ろの左側に座る。他学部からも聞きに来るくらい人気の講義だから、三百人規模の大きな教室はすぐに人で埋まっていく。他の人に申し訳ないと思いつつ、隣の席に自分のバッグを置いてアキラくんの席を確保する。
講義が始まって三十分後、ふと左隣が暗くなった。
「っ」
アキラくんだ。
叫び出しそうになっている私と目があって、「しー」と人差し指を唇に当てている。
「おはよ」
口パクで挨拶をされて、こくこくとうなずく。アキラくんは口元に手を当てて笑いを堪えている。
いつも後ろ姿だけで、隣に座って講義を受けるなんてことは今までなかったから、すごく新鮮だ。心なしかアキラくんの甘い匂いが近くで感じる気がする。幸せすぎて心臓がうるさいし、緊張で左側を向けない。
アキラくんに気づかれない程度に横目で見ると、配られたレジュメをペラペラとめくっている。
「あ、これ、一昨年受けたやつだ」
「……そうなの?」
「面白かったから覚えてる」
読んでいるのは、教授が行ったフィールドワークの記事だ。南アフリカの原住民との生活を通して、どんな気づきを得たか、何を学んだかというような内容だった。
私は正直、空きコマを埋めるためと自由単位を取るために受けている講義だったから、面白いとは思えなくて、どちらかというと退屈していた。アキラくんじゃないけど、サボって単位を落としてもいいかなと思うくらい。
どこか重要なのかさっぱりわからないまま、ただ長々と続く教授の話に耳を傾けていたら、つん、と左の二の腕を突かれた。
「?」
振り向くと、机に片ひじを乗せて突っ伏しているアキラくんが、こちらを見ていた。
「……なぁに?」
小さく話しかける私を無視して、真顔のまま、またつんつんしてくる。なんだろう。
指が、つぅと下に降りていって、今度は私の太ももに触れた。思わず身じろぎすると、アキラくんの目尻が下がった。そのまま指先で太ももをすりすりと撫でられる。
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