美貌の王立図書館の副館長は健康のためにドラゴンを飼うことにした

おにぎり1000米

文字の大きさ
22 / 34
王立図書館の副館長はみなしごの一角獣に執着される

第6話 ⁠おしゃれ番長・テレンス公爵夫人クララの扇について

しおりを挟む
「ははは、ラッセルのやつ、宝物庫の隠し天井から落ちてきた古代の盾で頭を打ったのか。あいかわらずおもしろい弟だ」
 テレンス公爵夫人クララはそういいながら優雅に腕を広げ、両手の扇をパッとひらいた。
 ルークの肩にとまったドラゴンのリリは、驚きのあまり藍色の目をぱちりとひらき、しばらく固まってしまった。

 ピッ……(*_*;?

 クララの本日の扇は孔雀の羽根を模したものである。緑と青の模様は本物そっくり、いや本物以上に美しい金属光沢をはなっており、緑のドレスにマッチしている。
「おもしろい扇ですね」
 どうやらルークもリリとおなじくらい扇に感銘を受けたようだ。本来ならクララの言葉に答えるはずが、こんな返しをしているのだから。

「おお、気づいてもらえてうれしい!」
「もちろんです。リリも気に入っています」
 ルークがリリに代わって答えた。ルークはリリの主人で友だちで、同族でもあるから、リリの気持ちをいちばんよく知っている。
「そうかそうか、リリも好きか」

 クララは雌にアピールする雄孔雀さながら、舞を踊るように扇をひらひらと動かした。リリの目はまたぐるっと回った。
 クララの髪はリリお気に入りの座布団であるラッセルの頭のてっぺんにそっくりの蜂蜜色だが、ラッセルのような短いふわふわ巻き毛ではなくつやつやした巻き髪だから、リリの座布団でないことはあきらかだ。しかし手に握られた扇の先端はふさふさと揺れて、森の梢のようにリリを引き寄せている。

 ピッピピ……
(のりたい……)

 リリの小さなつぶやきにルークがすばやく「だめだよ」とささやいた。
「テレンス公爵夫人の扇には飛び乗っちゃいけない」
 じゃ、ほかの扇ならいいってこと? リリはまた目をぱちくりさせて、首をぐるっと回した。

 ここはテレンス公爵邸のサンルームである。テラスの向こうにはテレンス公爵が長年手をかけてきた庭園が広がっている。芝生に置かれたテーブルにはお茶会の用意がされているが、その先には古代の遺跡を思わせる石柱や石壁があった。からみついた蔓薔薇がピンク、黄色、白の花々を咲かせ、馥郁たる香りが風に乗って漂ってくる。

 テーブルはいくつもあって、すでにお茶会にふさわしい明るい色あいのドレスを着た夫人や令嬢が座っていた。リリが首をめぐらすと、さざ波のような感嘆の声が(あくまでも上品な範囲で)湧き上がる。年若い令嬢と少数の青年以外はほとんどみなが扇を持っているが、これはお茶会の主催者クララに敬意を表してのことだ。しかしクララの扇ほど美しく独創的なものはない。

 ピ……パパピ……(/・ω・)/
(ほかのはいまいち…)

 ま、いいか。ほかにもあそべそうなものがあるし。
 ルークは今日出かけるとき「ラッセルは行けなくなったけど、きっと楽しいよ」といったのだ。どんなあそびができるのかな。

 リリの藍色の目は期待でくるくるまわった。テーブルを囲むご婦人方が自分に興味津々だということには(ルークと同様)まったく気づいていない。

 リリは蜜色あたまもここにいればよかったのに、と思った。ほんとうは一緒にくるはずだったのに、用事ができてダメになったのだ。蜜色あたまがいたら、リリはそのふわふわ毛にぽすんと座って、いったりきたりできたのに。

 何日かまえ、リリはルークと一緒にすごく広いお庭へ行った。草のボールを打ち返したり、噴水で水を飛ばしたりして、すごく楽しかったのだ。疲れてうとうとしていたらいつのまにか蜜色あたまがいて、今度は三人で、うすぐらくて空気のこもった石壁の中に入った。

 ルークと蜜色あたまはここに用事があったみたいだけど、リリは風がよどんでいるところがすきじゃない。だから窓辺のひなたでうとうとしていた。そしたら大きな物音がして、蜜色あたまが唸ったのだ。

 リリが飛んでいくと、ななめになった天井がパカッとひらいていた。ルークは蜜色あたまに覆いかぶさってあわてていたけど、蜜色あたまはすぐに起き上がって、上から落ちてきたものをにらみつけてまた唸っていた。そしてそのあいだもずっと、手でおでこを押さえていた。

 リリは落ちてきたものよりそっちのほうが気になった。でもルークも蜜色あたまも、あとからやってきた他の人間も、そのあとは上から落ちてきた大きな青い金属の盾(と呼ぶのだとルークが教えてくれた)で大騒ぎで、家に帰るのもすっかりおそくなってしまった。
 そのころには蜜色あたまのおでこは赤くなって、その真ん中はぷっくりともりあがっていた。つついてみようとしたらルークがすごい剣幕で「リリ! ラッセルのたんこぶをつつかない!」と怒った。

 たんこぶって、おもしろい響きなのに。

 でもルークも蜜色あたまも、たんこぶよりあそこでみつかったものの方がおもしろいみたいだ。盾にはごにょごにょした線のかたまりと、角のある精霊の絵が描いてあって、それが「だいはっけん」だとルークはいうのだが、リリにはぜんぜんぴんとこなかった。でもそのせいで、蜜色あたまは今日、一緒に来られなくなってしまったのだ。リリはいつものお座布団がちょっとだけ恋しかった。

「それにしてもラッセルはわが弟ながら、めぐりあわせがいいのか悪いのかわからない男だな。宝物庫にあんな隠し場所があったなんて王家の誰も知らなかったのに、ずいぶんあっさり発見してくれるものだ。しかも古代文字と、失われた精霊族の像が刻まれていたって?」
「はい。王領の遺跡と関係しているということで、急な会議が入って来られなくなってしまいました」
「どうせ乗り気じゃなかったんだ。しかし……みつかった盾はそんなに重要なものだったのか?」
「ええ。古代文字で書かれていたのは、古代帝国の滅亡と同時にこの世から消えていたと思われていた一角獣の情報でした。どうやら盾が作られたときにはまだ、精霊族の都の奥に一角獣の生息地があったようです」
「それはすごいな。ではまた調査隊を送るのか?」
「きっとそうなるでしょう。ドラゴン以外の精霊族のゆくえについて、もっと詳しいことがわかるかもしれません」
「それじゃラッセルが忙しいのも仕方ないな」

 クララとルークはまだ話を続けていたが、リリはあちこち見て回りたかった。パタパタッと宙に舞い上がると、ルークが「カップをひっくり返しちゃいけないよ」と釘を刺す。そうしたらクララがにっこりして「おお、リリ。リリのために特別なテーブルを用意したぞ」という。
 ピ?
(とくべつ?)
「そうだとも! さあ、こちらへ」

 リリはクララとルークのあいだをパタパタ羽ばたいていたが、芝生の真ん中に置かれた白いテーブルを見たとたん、ピキャ!と一声鳴いてそっちへ飛んでいった。そこにはリリがはじめて見るものがあったのだ。はじめてだけど、それがリリのためにあることはすぐにわかった。

「さあリリ、わが夫、テレンス公爵が今日のために用意した。これは――止まり木ブランコだ! 素晴らしいだろう!」
 ピピピッピピ―!
(こんなのはじめて!)
 止まり木に鉤爪でつかまってぶらんぶらんすると、羽ばたかなくても飛んでいるみたいにふわんふわんと体が動いてぐるっと回り、元に戻る。
「気に入ったか?」
 ピピピ!

 ごきげんなリリがあそんでいるあいだにルークもテーブルについた。それは主賓のテーブルで、インテリアとファッションにおけるクララの好敵手・デルガン伯爵夫人や、ルークには到底及ばないが一般的水準からいえば見目麗しい青年などが同席している。デルガン伯爵夫人はクララが広めた扇の流行にあらがい、きらびやかな薄い肩掛けを羽織っていたが、ルークが近くにいるとまったく目立たないことに気づいて内心悔しがっていた。

「お茶をいただいたら庭園を案内しよう。気づいたかな? 改装したサンルームは古代帝国の意匠がモチーフになっている。夫が庭園を古代遺跡風に改造したから、それにあわせたのだ」
「古代帝国風は近頃の流行ですね」と見目麗しい青年がいった。「わたしもつい最近、お客様のご要望で古代帝国をイメージした香りを調合したところです」
「ああ、ルーク」
 クララが青年を紹介した。
「彼はメルヴィル。近ごろ大人気の調香師だ」
「はじめまして。ルーク・セクストンと申します」

 ふつうにあいさつしたルークを青年は熱っぽい目でみつめた。
「はじめまして! お噂はかねがねお聞きしていました。お会いできて光栄です。ああ、本物は……予想以上だ……」

 最後の方は小さな声だったが、クララは聞き逃さなかった。
「メルヴィル、ルークとリリはいつも予想を超えてくるのだ」
「いえ、それはテレンス公爵夫人もかわりません。わたしがいったのは、ただ……」
 メルヴィルは照れくさそうに頬を染めた。

「実は第七王子殿下とルーク様もいらっしゃると聞いて、伝説の夜会にご出席された時のイメージで香水を調合してみたのです。しかしご本人にお会いした今は自分の才能の限界を感じています」
「いやいや、それは素晴らしい」
 クララは青年を励ますように微笑んだ。
「ぜひ見せてほしいものだ」
「じつはここに……」

 メルヴィルは服の内側から指の先ほどの小さな香水瓶を取り出した。
「持参しております。私の仕事をお見知りおきくださればと」
「ルーク、ぜひ試してやってくれ。メルヴィルはとても才能がある」

 クララの口添えもあって、ルークはメルヴィルから香水瓶を受け取った。メルヴィルが「伝説の夜会」と呼んだのは、昨年王宮で開催され、ルークが生まれて初めてラッセルとダンスを踊った夜会のことである。むろんルークは自分のせいで、その夜会に「伝説の」という形容がついたとは知らない。

 宝石のようにカットされた香水瓶は午後の日差しを受けてきらきらと輝いた。テーブルの上でパタパタッと翼の音が響いた。興味をひかれたリリが、飛びかかってもいいのかダメなのかと思案していたのだ。

「リリ」
 ルークの声にリリは首をひっこめた。クララは「リリには香水の刺激は強すぎるだろうな」と笑った。
「ルーク様、よければお茶のあとで試してみていただけませんか。お好みがちがえば再調合いたします」
「ありがとうございます」

 ルークはアクセサリーや香水にまるで縁のない生活を送ってきたが、きらきら光る香水瓶はなかなかよいものだと思った。この点に関して、ルークの判断基準はリリとあまり変わらないのである。



しおりを挟む
感想 37

あなたにおすすめの小説

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放

大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。 嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。 だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。 嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。 混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。 琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う―― 「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」 知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。 耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。

夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。

古森真朝
ファンタジー
 「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。  俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」  新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは―― ※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。

【本編完結】処刑台の元婚約者は無実でした~聖女に騙された元王太子が幸せになるまで~

TOY
BL
【本編完結・後日譚更新中】 公開処刑のその日、王太子メルドは元婚約者で“稀代の悪女”とされたレイチェルの最期を見届けようとしていた。 しかし「最後のお別れの挨拶」で現婚約者候補の“聖女”アリアの裏の顔を、偶然にも暴いてしまい……!? 王位継承権、婚約、信頼、すべてを失った王子のもとに残ったのは、幼馴染であり護衛騎士のケイ。 これは、聖女に騙され全てを失った王子と、その護衛騎士のちょっとズレた恋の物語。 ※別で投稿している作品、 『物語によくいる「ざまぁされる王子」に転生したら』の全年齢版です。 設定と後半の展開が少し変わっています。 ※後日譚を追加しました。 後日譚① レイチェル視点→メルド視点 後日譚② 王弟→王→ケイ視点 後日譚③ メルド視点

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。