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王立図書館の副館長はみなしごの一角獣に執着される
第6話 おしゃれ番長・テレンス公爵夫人クララの扇について
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「ははは、ラッセルのやつ、宝物庫の隠し天井から落ちてきた古代の盾で頭を打ったのか。あいかわらずおもしろい弟だ」
テレンス公爵夫人クララはそういいながら優雅に腕を広げ、両手の扇をパッとひらいた。
ルークの肩にとまったドラゴンのリリは、驚きのあまり藍色の目をぱちりとひらき、しばらく固まってしまった。
ピッ……(*_*;?
クララの本日の扇は孔雀の羽根を模したものである。緑と青の模様は本物そっくり、いや本物以上に美しい金属光沢をはなっており、緑のドレスにマッチしている。
「おもしろい扇ですね」
どうやらルークもリリとおなじくらい扇に感銘を受けたようだ。本来ならクララの言葉に答えるはずが、こんな返しをしているのだから。
「おお、気づいてもらえてうれしい!」
「もちろんです。リリも気に入っています」
ルークがリリに代わって答えた。ルークはリリの主人で友だちで、同族でもあるから、リリの気持ちをいちばんよく知っている。
「そうかそうか、リリも好きか」
クララは雌にアピールする雄孔雀さながら、舞を踊るように扇をひらひらと動かした。リリの目はまたぐるっと回った。
クララの髪はリリお気に入りの座布団であるラッセルの頭のてっぺんにそっくりの蜂蜜色だが、ラッセルのような短いふわふわ巻き毛ではなくつやつやした巻き髪だから、リリの座布団でないことはあきらかだ。しかし手に握られた扇の先端はふさふさと揺れて、森の梢のようにリリを引き寄せている。
ピッピピ……
(のりたい……)
リリの小さなつぶやきにルークがすばやく「だめだよ」とささやいた。
「テレンス公爵夫人の扇には飛び乗っちゃいけない」
じゃ、ほかの扇ならいいってこと? リリはまた目をぱちくりさせて、首をぐるっと回した。
ここはテレンス公爵邸のサンルームである。テラスの向こうにはテレンス公爵が長年手をかけてきた庭園が広がっている。芝生に置かれたテーブルにはお茶会の用意がされているが、その先には古代の遺跡を思わせる石柱や石壁があった。からみついた蔓薔薇がピンク、黄色、白の花々を咲かせ、馥郁たる香りが風に乗って漂ってくる。
テーブルはいくつもあって、すでにお茶会にふさわしい明るい色あいのドレスを着た夫人や令嬢が座っていた。リリが首をめぐらすと、さざ波のような感嘆の声が(あくまでも上品な範囲で)湧き上がる。年若い令嬢と少数の青年以外はほとんどみなが扇を持っているが、これはお茶会の主催者クララに敬意を表してのことだ。しかしクララの扇ほど美しく独創的なものはない。
ピ……パパピ……(/・ω・)/
(ほかのはいまいち…)
ま、いいか。ほかにもあそべそうなものがあるし。
ルークは今日出かけるとき「ラッセルは行けなくなったけど、きっと楽しいよ」といったのだ。どんなあそびができるのかな。
リリの藍色の目は期待でくるくるまわった。テーブルを囲むご婦人方が自分に興味津々だということには(ルークと同様)まったく気づいていない。
リリは蜜色あたまもここにいればよかったのに、と思った。ほんとうは一緒にくるはずだったのに、用事ができてダメになったのだ。蜜色あたまがいたら、リリはそのふわふわ毛にぽすんと座って、いったりきたりできたのに。
何日かまえ、リリはルークと一緒にすごく広いお庭へ行った。草のボールを打ち返したり、噴水で水を飛ばしたりして、すごく楽しかったのだ。疲れてうとうとしていたらいつのまにか蜜色あたまがいて、今度は三人で、うすぐらくて空気のこもった石壁の中に入った。
ルークと蜜色あたまはここに用事があったみたいだけど、リリは風がよどんでいるところがすきじゃない。だから窓辺のひなたでうとうとしていた。そしたら大きな物音がして、蜜色あたまが唸ったのだ。
リリが飛んでいくと、ななめになった天井がパカッとひらいていた。ルークは蜜色あたまに覆いかぶさってあわてていたけど、蜜色あたまはすぐに起き上がって、上から落ちてきたものをにらみつけてまた唸っていた。そしてそのあいだもずっと、手でおでこを押さえていた。
リリは落ちてきたものよりそっちのほうが気になった。でもルークも蜜色あたまも、あとからやってきた他の人間も、そのあとは上から落ちてきた大きな青い金属の盾(と呼ぶのだとルークが教えてくれた)で大騒ぎで、家に帰るのもすっかりおそくなってしまった。
そのころには蜜色あたまのおでこは赤くなって、その真ん中はぷっくりともりあがっていた。つついてみようとしたらルークがすごい剣幕で「リリ! ラッセルのたんこぶをつつかない!」と怒った。
たんこぶって、おもしろい響きなのに。
でもルークも蜜色あたまも、たんこぶよりあそこでみつかったものの方がおもしろいみたいだ。盾にはごにょごにょした線のかたまりと、角のある精霊の絵が描いてあって、それが「だいはっけん」だとルークはいうのだが、リリにはぜんぜんぴんとこなかった。でもそのせいで、蜜色あたまは今日、一緒に来られなくなってしまったのだ。リリはいつものお座布団がちょっとだけ恋しかった。
「それにしてもラッセルはわが弟ながら、めぐりあわせがいいのか悪いのかわからない男だな。宝物庫にあんな隠し場所があったなんて王家の誰も知らなかったのに、ずいぶんあっさり発見してくれるものだ。しかも古代文字と、失われた精霊族の像が刻まれていたって?」
「はい。王領の遺跡と関係しているということで、急な会議が入って来られなくなってしまいました」
「どうせ乗り気じゃなかったんだ。しかし……みつかった盾はそんなに重要なものだったのか?」
「ええ。古代文字で書かれていたのは、古代帝国の滅亡と同時にこの世から消えていたと思われていた一角獣の情報でした。どうやら盾が作られたときにはまだ、精霊族の都の奥に一角獣の生息地があったようです」
「それはすごいな。ではまた調査隊を送るのか?」
「きっとそうなるでしょう。ドラゴン以外の精霊族のゆくえについて、もっと詳しいことがわかるかもしれません」
「それじゃラッセルが忙しいのも仕方ないな」
クララとルークはまだ話を続けていたが、リリはあちこち見て回りたかった。パタパタッと宙に舞い上がると、ルークが「カップをひっくり返しちゃいけないよ」と釘を刺す。そうしたらクララがにっこりして「おお、リリ。リリのために特別なテーブルを用意したぞ」という。
ピ?
(とくべつ?)
「そうだとも! さあ、こちらへ」
リリはクララとルークのあいだをパタパタ羽ばたいていたが、芝生の真ん中に置かれた白いテーブルを見たとたん、ピキャ!と一声鳴いてそっちへ飛んでいった。そこにはリリがはじめて見るものがあったのだ。はじめてだけど、それがリリのためにあることはすぐにわかった。
「さあリリ、わが夫、テレンス公爵が今日のために用意した。これは――止まり木ブランコだ! 素晴らしいだろう!」
ピピピッピピ―!
(こんなのはじめて!)
止まり木に鉤爪でつかまってぶらんぶらんすると、羽ばたかなくても飛んでいるみたいにふわんふわんと体が動いてぐるっと回り、元に戻る。
「気に入ったか?」
ピピピ!
ごきげんなリリがあそんでいるあいだにルークもテーブルについた。それは主賓のテーブルで、インテリアとファッションにおけるクララの好敵手・デルガン伯爵夫人や、ルークには到底及ばないが一般的水準からいえば見目麗しい青年などが同席している。デルガン伯爵夫人はクララが広めた扇の流行にあらがい、きらびやかな薄い肩掛けを羽織っていたが、ルークが近くにいるとまったく目立たないことに気づいて内心悔しがっていた。
「お茶をいただいたら庭園を案内しよう。気づいたかな? 改装したサンルームは古代帝国の意匠がモチーフになっている。夫が庭園を古代遺跡風に改造したから、それにあわせたのだ」
「古代帝国風は近頃の流行ですね」と見目麗しい青年がいった。「わたしもつい最近、お客様のご要望で古代帝国をイメージした香りを調合したところです」
「ああ、ルーク」
クララが青年を紹介した。
「彼はメルヴィル。近ごろ大人気の調香師だ」
「はじめまして。ルーク・セクストンと申します」
ふつうにあいさつしたルークを青年は熱っぽい目でみつめた。
「はじめまして! お噂はかねがねお聞きしていました。お会いできて光栄です。ああ、本物は……予想以上だ……」
最後の方は小さな声だったが、クララは聞き逃さなかった。
「メルヴィル、ルークとリリはいつも予想を超えてくるのだ」
「いえ、それはテレンス公爵夫人もかわりません。わたしがいったのは、ただ……」
メルヴィルは照れくさそうに頬を染めた。
「実は第七王子殿下とルーク様もいらっしゃると聞いて、伝説の夜会にご出席された時のイメージで香水を調合してみたのです。しかしご本人にお会いした今は自分の才能の限界を感じています」
「いやいや、それは素晴らしい」
クララは青年を励ますように微笑んだ。
「ぜひ見せてほしいものだ」
「じつはここに……」
メルヴィルは服の内側から指の先ほどの小さな香水瓶を取り出した。
「持参しております。私の仕事をお見知りおきくださればと」
「ルーク、ぜひ試してやってくれ。メルヴィルはとても才能がある」
クララの口添えもあって、ルークはメルヴィルから香水瓶を受け取った。メルヴィルが「伝説の夜会」と呼んだのは、昨年王宮で開催され、ルークが生まれて初めてラッセルとダンスを踊った夜会のことである。むろんルークは自分のせいで、その夜会に「伝説の」という形容がついたとは知らない。
宝石のようにカットされた香水瓶は午後の日差しを受けてきらきらと輝いた。テーブルの上でパタパタッと翼の音が響いた。興味をひかれたリリが、飛びかかってもいいのかダメなのかと思案していたのだ。
「リリ」
ルークの声にリリは首をひっこめた。クララは「リリには香水の刺激は強すぎるだろうな」と笑った。
「ルーク様、よければお茶のあとで試してみていただけませんか。お好みがちがえば再調合いたします」
「ありがとうございます」
ルークはアクセサリーや香水にまるで縁のない生活を送ってきたが、きらきら光る香水瓶はなかなかよいものだと思った。この点に関して、ルークの判断基準はリリとあまり変わらないのである。
テレンス公爵夫人クララはそういいながら優雅に腕を広げ、両手の扇をパッとひらいた。
ルークの肩にとまったドラゴンのリリは、驚きのあまり藍色の目をぱちりとひらき、しばらく固まってしまった。
ピッ……(*_*;?
クララの本日の扇は孔雀の羽根を模したものである。緑と青の模様は本物そっくり、いや本物以上に美しい金属光沢をはなっており、緑のドレスにマッチしている。
「おもしろい扇ですね」
どうやらルークもリリとおなじくらい扇に感銘を受けたようだ。本来ならクララの言葉に答えるはずが、こんな返しをしているのだから。
「おお、気づいてもらえてうれしい!」
「もちろんです。リリも気に入っています」
ルークがリリに代わって答えた。ルークはリリの主人で友だちで、同族でもあるから、リリの気持ちをいちばんよく知っている。
「そうかそうか、リリも好きか」
クララは雌にアピールする雄孔雀さながら、舞を踊るように扇をひらひらと動かした。リリの目はまたぐるっと回った。
クララの髪はリリお気に入りの座布団であるラッセルの頭のてっぺんにそっくりの蜂蜜色だが、ラッセルのような短いふわふわ巻き毛ではなくつやつやした巻き髪だから、リリの座布団でないことはあきらかだ。しかし手に握られた扇の先端はふさふさと揺れて、森の梢のようにリリを引き寄せている。
ピッピピ……
(のりたい……)
リリの小さなつぶやきにルークがすばやく「だめだよ」とささやいた。
「テレンス公爵夫人の扇には飛び乗っちゃいけない」
じゃ、ほかの扇ならいいってこと? リリはまた目をぱちくりさせて、首をぐるっと回した。
ここはテレンス公爵邸のサンルームである。テラスの向こうにはテレンス公爵が長年手をかけてきた庭園が広がっている。芝生に置かれたテーブルにはお茶会の用意がされているが、その先には古代の遺跡を思わせる石柱や石壁があった。からみついた蔓薔薇がピンク、黄色、白の花々を咲かせ、馥郁たる香りが風に乗って漂ってくる。
テーブルはいくつもあって、すでにお茶会にふさわしい明るい色あいのドレスを着た夫人や令嬢が座っていた。リリが首をめぐらすと、さざ波のような感嘆の声が(あくまでも上品な範囲で)湧き上がる。年若い令嬢と少数の青年以外はほとんどみなが扇を持っているが、これはお茶会の主催者クララに敬意を表してのことだ。しかしクララの扇ほど美しく独創的なものはない。
ピ……パパピ……(/・ω・)/
(ほかのはいまいち…)
ま、いいか。ほかにもあそべそうなものがあるし。
ルークは今日出かけるとき「ラッセルは行けなくなったけど、きっと楽しいよ」といったのだ。どんなあそびができるのかな。
リリの藍色の目は期待でくるくるまわった。テーブルを囲むご婦人方が自分に興味津々だということには(ルークと同様)まったく気づいていない。
リリは蜜色あたまもここにいればよかったのに、と思った。ほんとうは一緒にくるはずだったのに、用事ができてダメになったのだ。蜜色あたまがいたら、リリはそのふわふわ毛にぽすんと座って、いったりきたりできたのに。
何日かまえ、リリはルークと一緒にすごく広いお庭へ行った。草のボールを打ち返したり、噴水で水を飛ばしたりして、すごく楽しかったのだ。疲れてうとうとしていたらいつのまにか蜜色あたまがいて、今度は三人で、うすぐらくて空気のこもった石壁の中に入った。
ルークと蜜色あたまはここに用事があったみたいだけど、リリは風がよどんでいるところがすきじゃない。だから窓辺のひなたでうとうとしていた。そしたら大きな物音がして、蜜色あたまが唸ったのだ。
リリが飛んでいくと、ななめになった天井がパカッとひらいていた。ルークは蜜色あたまに覆いかぶさってあわてていたけど、蜜色あたまはすぐに起き上がって、上から落ちてきたものをにらみつけてまた唸っていた。そしてそのあいだもずっと、手でおでこを押さえていた。
リリは落ちてきたものよりそっちのほうが気になった。でもルークも蜜色あたまも、あとからやってきた他の人間も、そのあとは上から落ちてきた大きな青い金属の盾(と呼ぶのだとルークが教えてくれた)で大騒ぎで、家に帰るのもすっかりおそくなってしまった。
そのころには蜜色あたまのおでこは赤くなって、その真ん中はぷっくりともりあがっていた。つついてみようとしたらルークがすごい剣幕で「リリ! ラッセルのたんこぶをつつかない!」と怒った。
たんこぶって、おもしろい響きなのに。
でもルークも蜜色あたまも、たんこぶよりあそこでみつかったものの方がおもしろいみたいだ。盾にはごにょごにょした線のかたまりと、角のある精霊の絵が描いてあって、それが「だいはっけん」だとルークはいうのだが、リリにはぜんぜんぴんとこなかった。でもそのせいで、蜜色あたまは今日、一緒に来られなくなってしまったのだ。リリはいつものお座布団がちょっとだけ恋しかった。
「それにしてもラッセルはわが弟ながら、めぐりあわせがいいのか悪いのかわからない男だな。宝物庫にあんな隠し場所があったなんて王家の誰も知らなかったのに、ずいぶんあっさり発見してくれるものだ。しかも古代文字と、失われた精霊族の像が刻まれていたって?」
「はい。王領の遺跡と関係しているということで、急な会議が入って来られなくなってしまいました」
「どうせ乗り気じゃなかったんだ。しかし……みつかった盾はそんなに重要なものだったのか?」
「ええ。古代文字で書かれていたのは、古代帝国の滅亡と同時にこの世から消えていたと思われていた一角獣の情報でした。どうやら盾が作られたときにはまだ、精霊族の都の奥に一角獣の生息地があったようです」
「それはすごいな。ではまた調査隊を送るのか?」
「きっとそうなるでしょう。ドラゴン以外の精霊族のゆくえについて、もっと詳しいことがわかるかもしれません」
「それじゃラッセルが忙しいのも仕方ないな」
クララとルークはまだ話を続けていたが、リリはあちこち見て回りたかった。パタパタッと宙に舞い上がると、ルークが「カップをひっくり返しちゃいけないよ」と釘を刺す。そうしたらクララがにっこりして「おお、リリ。リリのために特別なテーブルを用意したぞ」という。
ピ?
(とくべつ?)
「そうだとも! さあ、こちらへ」
リリはクララとルークのあいだをパタパタ羽ばたいていたが、芝生の真ん中に置かれた白いテーブルを見たとたん、ピキャ!と一声鳴いてそっちへ飛んでいった。そこにはリリがはじめて見るものがあったのだ。はじめてだけど、それがリリのためにあることはすぐにわかった。
「さあリリ、わが夫、テレンス公爵が今日のために用意した。これは――止まり木ブランコだ! 素晴らしいだろう!」
ピピピッピピ―!
(こんなのはじめて!)
止まり木に鉤爪でつかまってぶらんぶらんすると、羽ばたかなくても飛んでいるみたいにふわんふわんと体が動いてぐるっと回り、元に戻る。
「気に入ったか?」
ピピピ!
ごきげんなリリがあそんでいるあいだにルークもテーブルについた。それは主賓のテーブルで、インテリアとファッションにおけるクララの好敵手・デルガン伯爵夫人や、ルークには到底及ばないが一般的水準からいえば見目麗しい青年などが同席している。デルガン伯爵夫人はクララが広めた扇の流行にあらがい、きらびやかな薄い肩掛けを羽織っていたが、ルークが近くにいるとまったく目立たないことに気づいて内心悔しがっていた。
「お茶をいただいたら庭園を案内しよう。気づいたかな? 改装したサンルームは古代帝国の意匠がモチーフになっている。夫が庭園を古代遺跡風に改造したから、それにあわせたのだ」
「古代帝国風は近頃の流行ですね」と見目麗しい青年がいった。「わたしもつい最近、お客様のご要望で古代帝国をイメージした香りを調合したところです」
「ああ、ルーク」
クララが青年を紹介した。
「彼はメルヴィル。近ごろ大人気の調香師だ」
「はじめまして。ルーク・セクストンと申します」
ふつうにあいさつしたルークを青年は熱っぽい目でみつめた。
「はじめまして! お噂はかねがねお聞きしていました。お会いできて光栄です。ああ、本物は……予想以上だ……」
最後の方は小さな声だったが、クララは聞き逃さなかった。
「メルヴィル、ルークとリリはいつも予想を超えてくるのだ」
「いえ、それはテレンス公爵夫人もかわりません。わたしがいったのは、ただ……」
メルヴィルは照れくさそうに頬を染めた。
「実は第七王子殿下とルーク様もいらっしゃると聞いて、伝説の夜会にご出席された時のイメージで香水を調合してみたのです。しかしご本人にお会いした今は自分の才能の限界を感じています」
「いやいや、それは素晴らしい」
クララは青年を励ますように微笑んだ。
「ぜひ見せてほしいものだ」
「じつはここに……」
メルヴィルは服の内側から指の先ほどの小さな香水瓶を取り出した。
「持参しております。私の仕事をお見知りおきくださればと」
「ルーク、ぜひ試してやってくれ。メルヴィルはとても才能がある」
クララの口添えもあって、ルークはメルヴィルから香水瓶を受け取った。メルヴィルが「伝説の夜会」と呼んだのは、昨年王宮で開催され、ルークが生まれて初めてラッセルとダンスを踊った夜会のことである。むろんルークは自分のせいで、その夜会に「伝説の」という形容がついたとは知らない。
宝石のようにカットされた香水瓶は午後の日差しを受けてきらきらと輝いた。テーブルの上でパタパタッと翼の音が響いた。興味をひかれたリリが、飛びかかってもいいのかダメなのかと思案していたのだ。
「リリ」
ルークの声にリリは首をひっこめた。クララは「リリには香水の刺激は強すぎるだろうな」と笑った。
「ルーク様、よければお茶のあとで試してみていただけませんか。お好みがちがえば再調合いたします」
「ありがとうございます」
ルークはアクセサリーや香水にまるで縁のない生活を送ってきたが、きらきら光る香水瓶はなかなかよいものだと思った。この点に関して、ルークの判断基準はリリとあまり変わらないのである。
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