美貌の王立図書館の副館長は健康のためにドラゴンを飼うことにした

おにぎり1000米

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王立図書館の副館長はみなしごの一角獣に執着される

第12話 ルーク・セクストンの生まれ故郷について

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 夏至の前日、ルークはラッセルと共に王領の森へ向かった。夜明けの薄暗がりのなか、馬車で出発したのである。
 ドラゴンのリリはルークの膝で丸まってうとうとしている。朝早く出発するからちゃんと休みなさい、とさんざんいいきかせたのに、いつまでも眠ろうとしなかったせいだ。

 昨夜はルークが「だめだよ!」と何度も叱ると、一度はしょんぼり羽根をたたんでみせたものの、目を離したとたんに荷造りを手伝ってくれていた執事の背中に隠れてしまった。ルークは仕事の邪魔をして申し訳ないと思ったが、リリときたら、執事の肩に頭をすりすりして遊んでくれとねだりはじめたのだ。

 なんてかわいいリリちゃん攻撃(≧▽≦)――に執事はあっけなく陥落した。

「リリ様はどうかお任せください」
 丁重にそう告げられてルークは内心イラっとしたが、執事の機嫌はそこねたくなかったから、そのままラッセルと共にベッドに入ったのだった。リリがいつ眠ったのかは知らずじまいである。夜明け前に目を覚ました時には、リリは専用のクッションの上ですやすや眠っていた。抱きあげると一度は目を覚ましたものの、馬車に乗ったとたんまたうとうとしはじめた。

 まあ、これでよかったのかもしれない。リリが起きていたらきっと、ラッセルの頭の上に飛び乗ろうとしただろうし、そうなったらルークはラッセルと肩をくっつけて、心安らぐひとときを過ごすこともできなかっただろうから。

「森のドラゴンに異変があっても、森そのものには何も異常はないのですか?」
「俺にはわからなかったし、管理人もそういってる。……ああ、ひとつだけある。遺跡に配置している警備隊員のひとりが亡霊を見たといってる」
「亡霊?」
「夜番をしていたらランプが急に暗くなって、森を白い影が横切ったというんだ。ただし夜番はいつも二人一組で、その場にいた同僚は何も見なかったといっている。人間にとって夜の森、とくに遺跡のあたりは不安を誘うものだ。気のせいじゃないかとは思うが……」

 実をいうと森が不安を誘うという感覚はルークにはぴんとこなかった。それに「亡霊が出る」と聞いても、おそろしいとも思わなかった。
 理由は自分でもわからなかったが、昔からルークは他の人たちが恐れる暗闇や幽霊の話(王立大学や図書館にもその手の怪談のひとつやふたつはあるものだ)を聞いても、怖いとは思わなかったのである。だが今のラッセルの話を聞いて、ふと思いついたことはあった。

 ひょっとしたらこれも、自分の出生のせいだろうか?

 三日月湖をかこむ森はルークの生まれ故郷でもあった。ラッセルや王家のごく少数の人々しか知らないが、父親のセクストン教授はこの地で自分を――ドラゴンの卵から生まれ、人の赤子の姿へ変わったルークを授かったのである。

 精霊族であるドラゴンの卵は一見したところ美しい宝石だ。有精の卵は宝玉よりも硬く、孵化するのは生み出した者がこの世を去ったあとのことだし、さらに特殊な条件も必要になる。精霊族の都に湧き出す泉の水に浸るか、他の生き物の「誕生の瞬間」のエネルギーに刺激されるかしなければ、卵はけっして孵らない。
 そして他の生き物の誕生と共に孵化したドラゴンは、すぐ近くに生まれたばかりの生き物が留まっていると、やがてその生き物に姿を変えてしまうのだ。

 ルークが生まれた時、まさにそれが起きたのだが、セクストン教授はルークを本当の息子として育て、墓の中まで出生の秘密を持って行った。しかし三日月湖の周辺にはまだ当時のことを覚えている老人がいて、ルークはつい半年前にそのことを知ったのだった。

「ルーク?」
 ラッセルに呼ばれて、ルークはハッと物思いからさめた。
「私なら暗がりも見通せます。リリと一緒に夜の森へ行けば、何かわかるかもしれない」
「俺も一緒に行くぞ」
 ラッセルはルークの肩に腕をまわした。馬車は薄暗い王都を抜け出し、鮮やかな緑の茂る森へ走り続けた。



 立ち寄った村で軽い食事をした以外はまったく休むことなく、馬車は三日月湖へたどりついた。風光明媚なこのあたりは古くから人気の保養地だ。一般人の立ち入りが禁止されている森や遺跡からすこし離れると宿や貸別荘のならぶ村があり、湖の岸辺を見下ろすなだらかな丘陵には王家や貴族のコテージが建っている。

 ルークたちの馬車はテレンス公爵のコテージの前に止まった。というのも、精霊族の都が発見されたのちに結成された調査隊の現地拠点はここに置かれていたからである。出迎えたのはかつて王家のコテージで働いていたアランで、現在はテレンス公爵の召使となっている。召使といっても、最初はラッセルが森で悪さをしないよう、見張り役として雇われた少年だった。それがいつのまにか友人になり、いまも身分に関係なく軽口を叩きあう仲が続いているのだ。

「ラッセル様、お早いお戻りですね」
 アランはラッセルが馬車から下りると開口一番そういった。
「なんだそれは、皮肉か?」
「この前王都に戻ったときは二度と来ないぞといってたじゃないですか」
「もののはずみだ。疲れていたんだ」
 ラッセルは馬車の方を見やった。
「王立図書館の副館長だ。ルーク、彼はアラン。遺跡調査の手配でいろいろ世話になっている」

 アランは身分こそ召使いだが、実際のところ、調査隊を陰日向から支える重要な人物だった。ルークが肩にリリをとまらせてラッセルの斜めうしろに立つと、アランはぽかんと口をあけ、ついでサッと背筋を伸ばした。
「ルーク・セクストン様! アランと申します、お目にかかれて光栄至極です!」
 ルークは例によってきょとんとした――アランが美貌に興奮しているということをまったくわかっていないのである。ついで小さな微笑みをうかべると「ルーク・セクストンです。お世話になります」といった。
「はい、喜んでお世話させていただきます!」

 ラッセルはアランの耳をひっぱりたくなったが、リリがルークの肩から舞い上がったのでタイミングを逃した。ルークはちらっとリリをみやって、また微笑みをうかべた。
「あのドラゴンはリリです」
 ラッセルは今度こそ手を伸ばし、ルークとリリに見惚れているアランの耳をつねった。
「アラン、管理人を呼んでくれ。ルークに調査の状況を説明したら、さっそく森へ行くつもりだ」


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