美貌の王立図書館の副館長は健康のためにドラゴンを飼うことにした

おにぎり1000米

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王立図書館の副館長はみなしごの一角獣に執着される

第11話 ドラゴンには不思議が絶えない

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 リリがけんめいに交通整理したにもかかわらず、温室のドラゴンたちの興奮はいっこうに静まらない。ラッセルはルークと顔を見合わせたが、ついにあきらめていった。

「どうやら、一度これを外したほうがよさそうだ」
「そうですね」
 ピップ…
(それがいいよ…)

 リリも呆れたようにさえずって、ルークの手首に飛びうつった。ドラゴンたちの注意が一瞬それたその隙に、ラッセルはいそいでループタイをはずしてポケットにつっこんだ。

 ふたたびドラゴンたちがラッセルに注意を向けても、彼らを惹きつけたものは消えてしまっている。不満そうに目をくるくる回したり、未練がましくラッセルをつつこうとしたドラゴンもいたが、そのときにはもうリリがラッセルの頭の上に陣取って「めっ!」とやって――つまり、他のドラゴンを牽制していた。

「落ちついたようですね」とルークがいって、ラッセルの腕にそっと手をかけた。
「帰ってから、またつけてみてもらっていいですか?」
「ああ」
 ラッセルはそう答えたものの、ルークとリリがこのループタイを気に入り、さらに温室にいるドラゴンたちまで興奮させた理由については、やはり不思議に、というより不審に思った。あとでじっくり観察したほうがいいだろう。

 とにかく今のところはここが人目のない温室で幸いだった。そして、ここなら部外者に聞かせたくないことも話してかまわないと、ラッセルは思いついた。
「ルーク、昨日までの調査なんだが……」
「よい発見はありましたか?」
「そうだな、いい知らせと微妙な知らせがあるんだ」
「微妙な……?」

 ルークはきょとんとした顔つきになったが、その微細な表情の変化はラッセルの胸の奥に甘酸っぱい衝撃をあたえた。どうも最近こんなことが多いな、とラッセルは思った。
 ルークの美貌はどんな人間も惹きつける魔法のような力があり、ラッセルも最初の一瞥からそこに魅了されはしたのだが、一緒に暮らしはじめてからは、ルークが何かに気をひかれたり考えこんだり物思いにふけったりするときの些細な変化にいちいちドキドキするのだ。さらにこのドキドキには厄介な中毒性があり、ほんの数日離れていただけでも、恋しくてたまらなくなるのである。

「それでは、いい知らせから教えてください」
「宝物庫の盾に描かれた道しるべは正しかった。古代遺跡の地下の、精霊族の都の奥に隠された扉がみつかった。いつの時代かわからないが、いちど石壁で塞がれたあとが自然の崩落でさらに埋もれてしまっていたようだ。何より重要なのは、盾に描かれた古代文字を解読する手がかりもみつかったことだな」

 ルークの顔がパッと明るくなり、ラッセルの目にはまばゆいほどの輝きを帯びた。
「それはすばらしい!」
「もちろん調査隊は大喜びだ。あの盾や新たにみつかった扉の向こうには、昔はたくさんいたというドラゴン以外の精霊族について、色々な情報がありそうだ」
「ああ……」

 ルークは遠くを見るような目になった。
「古代帝国時代には、ドラゴンだけでなく、ユニコーンやフェニックス、ノームやピクシーも、よく見られたといいますが……なるほど、これはいい知らせです。で、もうひとつは?」
「それだが……」

 ラッセルがどう話すべきか少々ためらった。実はこれを「微妙な知らせ」といったのは、ルークとリリに関わってくることだったからだ。
「王領の森のドラゴンに妙なことが起きているらしい」

 三日月湖を囲む王領の森には野生のドラゴンが棲んでいる。精霊族の一種であるドラゴンは、存在の芯においては通常の生き物とぜんぜんちがうものだが、一応はふつうの鷹や鴉、あるいは蜥蜴と同じように生きている(ように見える)。「人の姿をしたドラゴン」であるルークが、ふつうの人間と同じように生きているように。
 ルークは眸に怪訝な色をうかべ、まばたきした。

「森のドラゴンに? 何が?」
「今回の調査のあと、王領の管理人にいわれたんだ。真夜中に、まるで何かに追い立てられているように群れをなして上空を飛び回ったり、ときには避難するように人家の軒にぶら下がっていることがあるらしい。傷を負った熊や狼でもいるのかと調べたが、原因がわからないという」
「それは気になりますね。まさか、また盗賊団が森に潜んでいるとか?」
「管理人もそれを疑ったが、警備隊は何も発見できなかった。古代遺跡もその地下の精霊族の都も、いまは警備隊が見回っているから、新手の盗賊団がたくらんだところで簡単に入りこめるとは思えない」

 アルドレイク王国は、今となっては伝説の靄につつまれている古代帝国からいち早く独立して興った国である。そのきっかけは、王国の始祖が三日月湖周辺の森の地下深くにある、精霊族の都に迷いこんだことにはじまるといわれる。始祖王は精霊族一種であるドラゴンと契約を交わし、彼らの助けを借りてこの国を作った。
 しかし長い年月が経つうちに精霊族はだんだんとその数を減らし、いまその姿を見ることができるのはドラゴンだけだ。精霊族の減少は、かつて地下にあった彼らの都のありかがわからなくなってから顕著になったと伝えられていた。

 ところがつい半年前に、とある新事実が判明したのだ。立ち入り禁止の王領の森に侵入した盗賊団が精霊族の都を発見し、精霊族の力の源である泉を利用して、王宮の宝物庫から盗んだドラゴンの卵を孵化させていたのである。彼らは孵化させたドラゴンをサブスク商品にするだけでなく、最終的には王国を乗っ取るという計画をたてていた。もちろん現在、その盗賊団は一掃されている。

 ルークはうなずいた。
「森のドラゴンは温室のドラゴンとはちがう行動をするとはいえ、長年森を見ている管理人がおかしいというのなら、たぶん何かがある」
「ああ。それで……夏至を挟んだ三日間、今度は森の調査に行くことになった。ルークとリリも加わって、森のドラゴンと話してみてほしいんだ」
「夏至? だったらすぐではありませんか」
「休日だからちょうどいい」

 アルドレイク王国で、夏至は古来から精霊族のための日とされてきた。冬至とちがい大きな祭りは行われないが、この日を挟んだ三日間は官庁や大学、図書館は休みとなる。
 休日になっている理由は、精霊族が何を要求してもすぐこたえられるようにとか、逆に羽目をはずした精霊族に悪戯されないためともいわれている。夏至の前日、アルドレイク王国の家庭では、窓辺に砂糖水を入れた小さなグラスと、ピンクや水色に色付けした小さな飴玉を供える。商店のウィンドウにも飴玉や色とりどりのリボンが飾られるが、すべて三日目に片付けなければならない。

 ルークはうなずきつつも、美しい眉をすこし寄せた。
「日程はともかく、私はリリが何をいっているのかはわかりますが、他のドラゴンのことはおぼろげにしかわかりません」
「リリに通訳してもらえばいいさ」
「ええ。でも森のドラゴンについては、ちょっと不思議に思っていることがあるんです」
「なんだ?」
「最初に精霊族の都へ行ったときから、私とリリには変なことが起きたでしょう? リリはさえずるようになったし、泉の水を浴びたあとは体の大きさを変えたこともある」

 精霊族の都へ入りこんだ盗賊団を一網打尽にしたときは、ルークとリリも大活躍をした。ただしその途中でどちらも精霊族の泉に飛びこんでしまう、ということがあった。その泉はふつうの人間や生き物にとっては単なる水でしかなかったが、ドラゴンをはじめとした精霊族には特殊な作用を及ぼす。
「私は暗闇を見通せるようになったし、泉の水が宝石になったり、あなたも知っているように、他にも時々変なことが……」

 そういいながら、ルークの頬にはかすかな赤みがさした。その「変なこと」のうちには、ラッセルとベッドにいるときにだけ起きるものもあったからだが、ラッセルはきょとんとしただけだった。

「何が変なんだ? もとより精霊族はなんらかの異能をもつといわれている。ルークもリリも泉がきっかけで新しい力に目覚めたんだ。で、森のドラゴンがなんだって?」
「森のドラゴンも私たちと同じ時にあの泉の水を浴びました。でも、彼らはけっしてリリのようにさえずらなかった」
「……そういえばそうだな」
 ラッセルはすこし考えこんだ。

「もしかしたら、リリのさえずりはドラゴンの鳴き声とはすこしちがうのかもしれないな」
「ちがう、とは?」
「俺たちだって、叫ぶのと話すのはちがうだろう?」
「つまりリリは話す能力に覚醒したが、森のドラゴンはちがった、と?」
「それにひょっとしたら、ドラゴンの異能にはひとつとして同じものはないのかもしれない。俺の先祖が娶ったドラゴンは湿布を金の薄片に変えたというし」
「そう考えれば筋は通りますが……」
 ルークはそういったものの、いまひとつ納得いかない様子である。

「とにかく、次はルークとリリも俺と一緒に調査に来てほしい」
 今回のように何日もルークなしですごすのは嫌だという本音を隠しながらラッセルがそういうと、ルークはあっさりうなずいた。
「もちろん行きます。リリと一緒なら森のドラゴンにも簡単に会えるでしょうし、三日月湖も森もひさしぶりで、楽しみです」
「ルークと一緒なら俺も楽しみだ」

 今度のラッセルの声には本音が丸出しになっていた。そしてリリは、ぶあつい葉の影で他のドラゴンと遊んでいるあいだも、ふたりの会話をすべて聞いていた。

 遠いところにあるあの森へ、おでかけができるんだ!
 きれいな水と風の通る大きな森。そこへ行くのはリリもとても楽しみだったし、お気に入りのお座布団である蜜色あたまがいっしょなのも、まったく問題はない。

 ピッ……
(でも……?)

 いったいこの、奇妙な予感はなんだろう?
 リリは小さくさえずったが、声は葉擦れの音にまぎれて消えてしまった。それでもちいさな体のうちに、そわそわと落ちつかない気持ちがわきあがってくるのは止まらない。

 なんだか、変なことが起きそうな気がする…?

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