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王立図書館の副館長はみなしごの一角獣に執着される
第14話 ドラゴンのリリがルークに及ぼす影響について
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森の地下深くにある精霊族の都への入り口は遺跡と同じ白い石材で支えられていた。かつてこの中を荒らしていた盗賊団が人目につかないようカモフラージュしていた狭い穴は木枠で補強され、調査隊の出入りがしやすいように広げられている。
部外者が入りこまないようロープが渡されていたものの、翼をもつドラゴンたちは軽やかにその上をすり抜けていった。ラッセルは肩をすくめてロープをはずし、自分用のランタンの明かりを灯す。暗がりを見通せるルークは明かりを待つ必要がないため、先に足を踏み入れている。
「地上に近い通路や階段は、古代遺跡とおなじ方法、おなじ石材で作られている」
ラッセルはランタンの光にぼうっと浮かび上がった壁を眺めながらいった。
「つまりこのあたりは精霊族ではなく人間が作ったわけだ。以前の調査では鉱石の試掘痕らしきものも出てきた。アルドレイク王国の始祖王がドラゴンと出くわしたきっかけは、間違って穴に落ちたということかもしれないな」
「それは……」
ラッセルの前でルークはふと立ち止まり、首をかしげる。
「そんなふうに表現するとかなり間が抜けて聞こえるのですが」
「そうか? そんなものじゃないか?」
天井から落ちてきた古代の盾でたんこぶを作ったラッセルは、もしも始祖王がうっかり落ちた穴の底でドラゴンに出会ったのだとしても、そんなに奇妙だとも間抜けだとも思わなかった。
ふたりはどんどん下へ降りて行った。はじめてここに足を踏み入れた者なら、いったいどこまで降りるのかと不安になったかもしれないが、ここを何度も訪れているラッセルにはもう慣れた道のりであり(第七王子は調査団の名目上のトップなのである)、そしてルークにとっては、この先に待っているのは長いあいだ留守にしていた実家のようなものだった。
「新しくみつかった扉はどこに? 泉のある大洞窟ですか?」
ルークがたずねると、ラッセルは足元に注意をはらいつつも、小さく首を振った。
「いや。盗賊団が作業場に改造していた洞窟があっただろう? その奥に崩落で埋まった穴があった。最初の調査では盗賊団が作業場を広げるために爆破したと思われていたんだが、宝物庫の盾にはその付近を示すしるしが刻まれていた。それで崩れた石をとりのぞいたら、岩壁に見事な彫刻がみつかったんだ。それだけでも発見だったが、調べているあいだに扉がはめこまれているのがわかった」
「素晴らしい! 開けたんですか?」
「いや。向こう側が空洞なのはわかったし、細い隙間はあるんだが、破壊せずに開ける方法がわからないんだ。ひとまず表面の調査を終えてからということになった。壊しては元も子もないからな。そう、それから……」
ふたりは話しながらさらに石段を下った。この地下の不思議な点は、真っ暗闇だったはずなのに、下りれば下りるほど、かすかに明るくなってくることである。しかも空気はだんだん軽やかになって、春の花のような香りもどこからか漂ってくる。
「その扉の表面にも、盾とおなじユニコーンが描かれていた」
「かつてはドラゴンとおなじようにあちこちにいたと伝えられる精霊族ですね。ほかにもフェニックスやノーム、ピクシーなどの伝説も伝えられていますが……」
「ああ。彼らは古代帝国の滅亡とともに消えてしまった。扉の向こうにはユニコーンに関係する遺跡があるのかもしれない」
「なぜいなくなったのでしょう」
ルークはかすかに寂しさのにじむ声でいったが、答えを期待していたわけではなかった。この問いは昔から学者のあいだでときおり取り上げられるものの、今を生きる人々にとって重要なことではなかった。つまりまともな答えを知る者はどこにもいなかったのである。
「……さあ。だがこの王国にはドラゴンが残ってくれた。始祖王が契約したおかげ……らしいが、アルドレイク王国以外にドラゴンは棲まない」
それきり、ラッセルとルークはしばし黙って先へと進んだ。いつのまにか左右の壁は木漏れ日のような光でちらちらと輝いていて、ラッセルは不要になったランタンの明かりを消した。遠くで水の流れる音が聞こえたと思うと、ふいに視界が左右にひらけ、ふたりはバルコニーのような岩棚から巨大な洞窟を見下ろしていた。流れる水の音に、パチャパチャとしぶきを跳ね上げる音が聞こえる。
「あ、あそこに!」
ルークは声をあげた。金色に輝く水をたたえた泉の上で二頭のドラゴンが舞っている。リリの空色の翼と、黄金色をした森のドラゴンの翼が水面すれすれを滑空し、ときに重なり、ときには絡み合い、泉の水を跳ね上げている。
「楽しそうだ」
ラッセルは面白がって目を細めたが、ルークはもう小走りになって泉へ向かっていた。リリを追いかけて――というわけではなかった。泉の水がしぶきとなって空中にまきちらされるたび、ルークの内なる衝動が高まって、自分でも止めようがなかったのだ。
「ラッセル!」
「ああ――」
ルークに呼ばれてラッセルもあとを追う。この洞窟が発見されたとき、泉のそばまで下りるには壁に刻まれた狭い階段を下っていくしかなかったが、今は木製の足場と階段が作られていた。
ルークは泉をぐるりと囲む丸石のそばで、はしゃいでいるドラゴンたちをみつめた。森に棲む野生のドラゴンはリリよりひとまわり大きく、胴体としっぽはくすんだ金色だが、翼は純金とも見まごうキラキラした黄金色だ。一方リリの胴体と尻尾は濃い青色で、翼の表側は鮮やかな空色だが、裏側はほとんど白に近く、アクセントのように黄色の筋が入っている――
はずだったが、ルークはふと眉を上げた。
リリの翼の色が濃くなっている?
二頭のドラゴンはじゃれあうように追いかけっこをしている。ついていこうとしてルークの視線はいそがしく動いた。リリの翼の裏側は白というより薄い水色で、おまけにしっぽの先端が濃い紅色に染まっている。その色が目に入ったとたん、ルークの体の奥でぞくっとうごめくものがあった。
「ルーク、リリは……」
すぐうしろで声がして、ルークはハッとして半歩下がった。すると片足がラッセルのブーツを踏みそうになったのであわてて横にずれたが、今度は背中がラッセルの胸に当たりそうになる。温かい手がそっと肘をささえて、ルークの耳朶に吐息がふれた。背筋に甘いふるえが走って、体の中心がまたもぞくりとする。
「どうした?」
「え、ええ……あの」
ルークは内心焦りつつ、リリの方を指さした。
「尾の先の色が変わっているんです」
「え?」
ラッセルはあごをのけぞるようにしてリリを追う。いつのまにか二頭のドラゴンはしっぽと胴をからめあいながら、泉のおもてに降りようとしていた。ちらりと見えたリリのしっぽの先端はやはり紅色で、それが目に入ったとたん、ルークの体全体がぽうっと熱くなる。
「もしや、リリの最近の変化は……」
思わずつぶやいたルークに、ラッセルは怪訝な目を向けた。
「リリに何かあったのか?」
「気がつきませんでしたか? 近頃、ずいぶん聞き分けが悪くてわがままになることが多くて……でもあれはもしかしたら……」
「なんだ?」
ルークは答えなかった。というのも、いつのまにかルークの意識の半分はリリの中に入りこみ、その感情に共鳴していたからだ。ルークのもとにやって来た時は(ドラゴンの基準で)幼い子供だったリリは、いつのまにか大人になっていた。翼の色、それになによりもしっぽの先の紅色は、一緒にいる黄金のドラゴンにリリが激しい恋心を燃やしているから――
「ルーク?」
ラッセルの手が背後からルークの腰を支えた。
「大丈夫か?」
ルークの唇がうっすらとひらく。ラッセルの手がふれた瞬間ルークの意識は自分の肉体に戻ったものの、リリの中で感じた興奮はルークの体の熱となり、腰の奥を甘く疼かせている。
「ええ……ラッセル……」
「ん……?」
ルークはくるりとふりむいて、上目遣いでラッセルをみつめた。泉のふちではパチャパチャと水音があがっていたが、いまのルークの耳に聞こえるのはラッセルの息づかい――それに自分の内部で高鳴る欲望のこだまだけ。
青い月夜の眸の下はほんのり赤く色づいて、唇はかすかにひらき、薄紅色の舌がのぞいている。ただならぬ美貌に変わりはないが、いまそこに浮かんでいるのはあきらかな誘惑――ラッセルの一部がたちどころに硬直するほどの、蜜よりも甘い魅了にほかならなかった。
「ルーク……」
ささやいたラッセルの首にルークの手が回される。しなやかな体の重みにラッセルの自制心はあっという間に消え去った。それにいまここにいるのは(ドラゴンのほかは)自分たちだけだ。
唇を重ねた瞬間こそラッセルの動作はおとなしかったが、ルークの舌を求めて口づけを深くするうちに激しくなった。口の中を蹂躙されるうちにルークの頭はぼうっとかすんだが、欲望は逆に煽り立てられ、体の中心はラッセルと同じように解放を願っている。
ラッセルは唇を離すとルークの腰に腕を回してぐるっと方向を変えさせた。耳朶をそっと噛みながら洞窟の隅へいざなっていくと、ルークの背を岩壁にもたれさせ、太ももをおしつけながらまた口づけをはじめる。
ルークの耳の奥で艶めかしい水音が響いた。布に覆われた下肢もいつのまにかぐっしょり濡れそぼって、自分でも気づかないうちに腰を小さく揺らしている。
ラッセルの手が我慢できないように動いて、ルークの前をはだけさせる。淡い桜色をした胸のとがりにラッセルが指を這わせると、ルークの背中は跳ねるように動いた。
「あっ……」
「なんてきれいなんだ、おまえは……」
ラッセルはルークを焦らしながら欲望の中心へ愛撫を近づけていく。ルークは舌で耳をなぶられながら、布の下を這う手のなすがままに熱い吐息をもらした。ベッドの上のいつもの行為よりラッセルの手や唇の動きは激しいのに、ルークがほんとうに欲しいところはなかなか触ってくれない。
「あっ、ああ、だめ……」
ついに我慢できなくなったルークはラッセルの服をつかんだ。ラッセルは微笑みながら前をくつろげると、猛々しい欲望をルークにおしつけ、腰をゆすりはじめる。律動がもたらす快感にルークは荒い息をついたが、胸の奥ではまだ、もっと、と叫びたくなるほどの欲望が疼いていた。
「ラッセル……ああ……」
ラッセルの手がさらに動いた。ルークの腰をなでながらうしろに回り、双丘をなぞっていく。ルークがこぼした雫で濡れた指が奥の蕾をそっと押し開き、中をさぐった。
「んっ……あっ……ラッセル、はやく……」
「ほしいのか?」
「お願い、お願いです……」
すとんと足もとに布がおちたと思うと、ルークは壁に両手をついて、ラッセルの方へ腰を突き出していた。ほんの一瞬、こんなところで立ったまま――という意識が頭をかすめたが、望んでいた剛直が押し入ってきたとたん、そんな考えはどこかへ消し飛んでしまった。
「んふっ、ああ……」
「きつくないか?」
「いえ、あっ、あん、ああっ……」
先端がやわらかな襞をかきわけ、敏感な場所、快楽の中心を突いたと思うと、さらに激しく揺さぶってくる。足先から頭のてっぺんまで甘い快楽が何度も走り抜け、ルークはたまらず声をあげたが、その叫びもラッセルと自分の体がぶつかる音も、ほとんど耳に入らなかった。ラッセルの動きが激しくなり、奥にほとばしるものを感じた瞬間、ルーク自身も絶頂に達していた。
ラッセルの腕に抱き寄せられ、荒い息をつく。両足のあいだをしずくが垂れるのを感じたとたん、消え失せていた羞恥が戻ってきた。こんなことをしたのは初めてだ。私はいったい……。
そのときだった。ラッセルがハッと息をのみ、ルークを守ろうとするように自分の影に押しやった。
「何者だ!」
鋭い声にルークの心臓はどくんと脈打つ。ラッセルは暗がりをみつめて怒鳴った。
「姿をあらわせ!」
あっというまに暗がりに白い靄が集まってきた。靄は尖った頭のある動物のような――あるいは小さな人間のような――奇妙な形に固まって、細い腕を伸ばした――ように見えた。
その腕はルークに向かって、おいでおいでをしていた。
部外者が入りこまないようロープが渡されていたものの、翼をもつドラゴンたちは軽やかにその上をすり抜けていった。ラッセルは肩をすくめてロープをはずし、自分用のランタンの明かりを灯す。暗がりを見通せるルークは明かりを待つ必要がないため、先に足を踏み入れている。
「地上に近い通路や階段は、古代遺跡とおなじ方法、おなじ石材で作られている」
ラッセルはランタンの光にぼうっと浮かび上がった壁を眺めながらいった。
「つまりこのあたりは精霊族ではなく人間が作ったわけだ。以前の調査では鉱石の試掘痕らしきものも出てきた。アルドレイク王国の始祖王がドラゴンと出くわしたきっかけは、間違って穴に落ちたということかもしれないな」
「それは……」
ラッセルの前でルークはふと立ち止まり、首をかしげる。
「そんなふうに表現するとかなり間が抜けて聞こえるのですが」
「そうか? そんなものじゃないか?」
天井から落ちてきた古代の盾でたんこぶを作ったラッセルは、もしも始祖王がうっかり落ちた穴の底でドラゴンに出会ったのだとしても、そんなに奇妙だとも間抜けだとも思わなかった。
ふたりはどんどん下へ降りて行った。はじめてここに足を踏み入れた者なら、いったいどこまで降りるのかと不安になったかもしれないが、ここを何度も訪れているラッセルにはもう慣れた道のりであり(第七王子は調査団の名目上のトップなのである)、そしてルークにとっては、この先に待っているのは長いあいだ留守にしていた実家のようなものだった。
「新しくみつかった扉はどこに? 泉のある大洞窟ですか?」
ルークがたずねると、ラッセルは足元に注意をはらいつつも、小さく首を振った。
「いや。盗賊団が作業場に改造していた洞窟があっただろう? その奥に崩落で埋まった穴があった。最初の調査では盗賊団が作業場を広げるために爆破したと思われていたんだが、宝物庫の盾にはその付近を示すしるしが刻まれていた。それで崩れた石をとりのぞいたら、岩壁に見事な彫刻がみつかったんだ。それだけでも発見だったが、調べているあいだに扉がはめこまれているのがわかった」
「素晴らしい! 開けたんですか?」
「いや。向こう側が空洞なのはわかったし、細い隙間はあるんだが、破壊せずに開ける方法がわからないんだ。ひとまず表面の調査を終えてからということになった。壊しては元も子もないからな。そう、それから……」
ふたりは話しながらさらに石段を下った。この地下の不思議な点は、真っ暗闇だったはずなのに、下りれば下りるほど、かすかに明るくなってくることである。しかも空気はだんだん軽やかになって、春の花のような香りもどこからか漂ってくる。
「その扉の表面にも、盾とおなじユニコーンが描かれていた」
「かつてはドラゴンとおなじようにあちこちにいたと伝えられる精霊族ですね。ほかにもフェニックスやノーム、ピクシーなどの伝説も伝えられていますが……」
「ああ。彼らは古代帝国の滅亡とともに消えてしまった。扉の向こうにはユニコーンに関係する遺跡があるのかもしれない」
「なぜいなくなったのでしょう」
ルークはかすかに寂しさのにじむ声でいったが、答えを期待していたわけではなかった。この問いは昔から学者のあいだでときおり取り上げられるものの、今を生きる人々にとって重要なことではなかった。つまりまともな答えを知る者はどこにもいなかったのである。
「……さあ。だがこの王国にはドラゴンが残ってくれた。始祖王が契約したおかげ……らしいが、アルドレイク王国以外にドラゴンは棲まない」
それきり、ラッセルとルークはしばし黙って先へと進んだ。いつのまにか左右の壁は木漏れ日のような光でちらちらと輝いていて、ラッセルは不要になったランタンの明かりを消した。遠くで水の流れる音が聞こえたと思うと、ふいに視界が左右にひらけ、ふたりはバルコニーのような岩棚から巨大な洞窟を見下ろしていた。流れる水の音に、パチャパチャとしぶきを跳ね上げる音が聞こえる。
「あ、あそこに!」
ルークは声をあげた。金色に輝く水をたたえた泉の上で二頭のドラゴンが舞っている。リリの空色の翼と、黄金色をした森のドラゴンの翼が水面すれすれを滑空し、ときに重なり、ときには絡み合い、泉の水を跳ね上げている。
「楽しそうだ」
ラッセルは面白がって目を細めたが、ルークはもう小走りになって泉へ向かっていた。リリを追いかけて――というわけではなかった。泉の水がしぶきとなって空中にまきちらされるたび、ルークの内なる衝動が高まって、自分でも止めようがなかったのだ。
「ラッセル!」
「ああ――」
ルークに呼ばれてラッセルもあとを追う。この洞窟が発見されたとき、泉のそばまで下りるには壁に刻まれた狭い階段を下っていくしかなかったが、今は木製の足場と階段が作られていた。
ルークは泉をぐるりと囲む丸石のそばで、はしゃいでいるドラゴンたちをみつめた。森に棲む野生のドラゴンはリリよりひとまわり大きく、胴体としっぽはくすんだ金色だが、翼は純金とも見まごうキラキラした黄金色だ。一方リリの胴体と尻尾は濃い青色で、翼の表側は鮮やかな空色だが、裏側はほとんど白に近く、アクセントのように黄色の筋が入っている――
はずだったが、ルークはふと眉を上げた。
リリの翼の色が濃くなっている?
二頭のドラゴンはじゃれあうように追いかけっこをしている。ついていこうとしてルークの視線はいそがしく動いた。リリの翼の裏側は白というより薄い水色で、おまけにしっぽの先端が濃い紅色に染まっている。その色が目に入ったとたん、ルークの体の奥でぞくっとうごめくものがあった。
「ルーク、リリは……」
すぐうしろで声がして、ルークはハッとして半歩下がった。すると片足がラッセルのブーツを踏みそうになったのであわてて横にずれたが、今度は背中がラッセルの胸に当たりそうになる。温かい手がそっと肘をささえて、ルークの耳朶に吐息がふれた。背筋に甘いふるえが走って、体の中心がまたもぞくりとする。
「どうした?」
「え、ええ……あの」
ルークは内心焦りつつ、リリの方を指さした。
「尾の先の色が変わっているんです」
「え?」
ラッセルはあごをのけぞるようにしてリリを追う。いつのまにか二頭のドラゴンはしっぽと胴をからめあいながら、泉のおもてに降りようとしていた。ちらりと見えたリリのしっぽの先端はやはり紅色で、それが目に入ったとたん、ルークの体全体がぽうっと熱くなる。
「もしや、リリの最近の変化は……」
思わずつぶやいたルークに、ラッセルは怪訝な目を向けた。
「リリに何かあったのか?」
「気がつきませんでしたか? 近頃、ずいぶん聞き分けが悪くてわがままになることが多くて……でもあれはもしかしたら……」
「なんだ?」
ルークは答えなかった。というのも、いつのまにかルークの意識の半分はリリの中に入りこみ、その感情に共鳴していたからだ。ルークのもとにやって来た時は(ドラゴンの基準で)幼い子供だったリリは、いつのまにか大人になっていた。翼の色、それになによりもしっぽの先の紅色は、一緒にいる黄金のドラゴンにリリが激しい恋心を燃やしているから――
「ルーク?」
ラッセルの手が背後からルークの腰を支えた。
「大丈夫か?」
ルークの唇がうっすらとひらく。ラッセルの手がふれた瞬間ルークの意識は自分の肉体に戻ったものの、リリの中で感じた興奮はルークの体の熱となり、腰の奥を甘く疼かせている。
「ええ……ラッセル……」
「ん……?」
ルークはくるりとふりむいて、上目遣いでラッセルをみつめた。泉のふちではパチャパチャと水音があがっていたが、いまのルークの耳に聞こえるのはラッセルの息づかい――それに自分の内部で高鳴る欲望のこだまだけ。
青い月夜の眸の下はほんのり赤く色づいて、唇はかすかにひらき、薄紅色の舌がのぞいている。ただならぬ美貌に変わりはないが、いまそこに浮かんでいるのはあきらかな誘惑――ラッセルの一部がたちどころに硬直するほどの、蜜よりも甘い魅了にほかならなかった。
「ルーク……」
ささやいたラッセルの首にルークの手が回される。しなやかな体の重みにラッセルの自制心はあっという間に消え去った。それにいまここにいるのは(ドラゴンのほかは)自分たちだけだ。
唇を重ねた瞬間こそラッセルの動作はおとなしかったが、ルークの舌を求めて口づけを深くするうちに激しくなった。口の中を蹂躙されるうちにルークの頭はぼうっとかすんだが、欲望は逆に煽り立てられ、体の中心はラッセルと同じように解放を願っている。
ラッセルは唇を離すとルークの腰に腕を回してぐるっと方向を変えさせた。耳朶をそっと噛みながら洞窟の隅へいざなっていくと、ルークの背を岩壁にもたれさせ、太ももをおしつけながらまた口づけをはじめる。
ルークの耳の奥で艶めかしい水音が響いた。布に覆われた下肢もいつのまにかぐっしょり濡れそぼって、自分でも気づかないうちに腰を小さく揺らしている。
ラッセルの手が我慢できないように動いて、ルークの前をはだけさせる。淡い桜色をした胸のとがりにラッセルが指を這わせると、ルークの背中は跳ねるように動いた。
「あっ……」
「なんてきれいなんだ、おまえは……」
ラッセルはルークを焦らしながら欲望の中心へ愛撫を近づけていく。ルークは舌で耳をなぶられながら、布の下を這う手のなすがままに熱い吐息をもらした。ベッドの上のいつもの行為よりラッセルの手や唇の動きは激しいのに、ルークがほんとうに欲しいところはなかなか触ってくれない。
「あっ、ああ、だめ……」
ついに我慢できなくなったルークはラッセルの服をつかんだ。ラッセルは微笑みながら前をくつろげると、猛々しい欲望をルークにおしつけ、腰をゆすりはじめる。律動がもたらす快感にルークは荒い息をついたが、胸の奥ではまだ、もっと、と叫びたくなるほどの欲望が疼いていた。
「ラッセル……ああ……」
ラッセルの手がさらに動いた。ルークの腰をなでながらうしろに回り、双丘をなぞっていく。ルークがこぼした雫で濡れた指が奥の蕾をそっと押し開き、中をさぐった。
「んっ……あっ……ラッセル、はやく……」
「ほしいのか?」
「お願い、お願いです……」
すとんと足もとに布がおちたと思うと、ルークは壁に両手をついて、ラッセルの方へ腰を突き出していた。ほんの一瞬、こんなところで立ったまま――という意識が頭をかすめたが、望んでいた剛直が押し入ってきたとたん、そんな考えはどこかへ消し飛んでしまった。
「んふっ、ああ……」
「きつくないか?」
「いえ、あっ、あん、ああっ……」
先端がやわらかな襞をかきわけ、敏感な場所、快楽の中心を突いたと思うと、さらに激しく揺さぶってくる。足先から頭のてっぺんまで甘い快楽が何度も走り抜け、ルークはたまらず声をあげたが、その叫びもラッセルと自分の体がぶつかる音も、ほとんど耳に入らなかった。ラッセルの動きが激しくなり、奥にほとばしるものを感じた瞬間、ルーク自身も絶頂に達していた。
ラッセルの腕に抱き寄せられ、荒い息をつく。両足のあいだをしずくが垂れるのを感じたとたん、消え失せていた羞恥が戻ってきた。こんなことをしたのは初めてだ。私はいったい……。
そのときだった。ラッセルがハッと息をのみ、ルークを守ろうとするように自分の影に押しやった。
「何者だ!」
鋭い声にルークの心臓はどくんと脈打つ。ラッセルは暗がりをみつめて怒鳴った。
「姿をあらわせ!」
あっというまに暗がりに白い靄が集まってきた。靄は尖った頭のある動物のような――あるいは小さな人間のような――奇妙な形に固まって、細い腕を伸ばした――ように見えた。
その腕はルークに向かって、おいでおいでをしていた。
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