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王立図書館の副館長はみなしごの一角獣に執着される
第15話 ルーク・セクストンは閉ざされた扉の奥へ誘われる
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おいでおいでをする白い腕――それは白い手のひらをルークに向かって開いたり閉じたりしていた。
それが目に入ったとたん、ルークはラッセルを押しのけて前に飛び出していた。
「ルーク⁉」
ラッセルが叫んだ。しかしルークはその声がまるで耳に入らなかったように暗がりへ走っていく。
ルークの視線の先で白い腕(と手のひら)がひらりと動く。ラッセルの頭には一瞬、警備隊員が目撃したという「亡霊」の話がよぎった。だが走るルークの体から、いましがたの行為ではだけていた――というよりも脱ぎかけていた服がひらひらと地面に落ちていくのを見ると、そんなことを気にしているどころではなくなった。
しかし肝心のルークは服のことなどまるで気にしている様子がない。つまり申し訳程度の布をまとわりつかせただけの姿でラッセルの前を走っていくのだ。その姿は芸術家が大理石で刻んだ彫像のように美し――かったが、ラッセルにはそんな感慨にふける余裕はなかった。とにかく点々と落ちていく服を拾いながらルークを追いかけた。
ところがルークの足は鹿を思わせる素早さで動き、ラッセルは距離を縮めることができないのである。
それはとても奇妙なことだった。なにしろラッセルは騎士団に加わってもなんの問題もないほどの脚力の持ち主なのだ。
ラッセルがハッと気づいたときには、白い腕は(ちなみに最初に目撃したときは体らしき形があったのに、いまは腕一本だけになっていた)びゅんと空中を飛んで、洞窟の一角へルークを導いていた。それはこのほど調査隊が発見した、扉とおぼしき遺構である。
そしてルークがそこへたどりついたとたん、腕は白い手のひらを扉にぴたりとあて、調査隊には手も足もでなかったそれをぐっと押し開いたのだ。
月光を思わせる青白い光が扉の向こうから差しこみ、暗がりを満月の夜の色で照らした。亡霊の腕がその中へ飛びこむと、ルークもそのあとに続く。
「ルーク! 待ってくれ!」
大声で叫んだラッセルの背後で翼のはためく音がした。いつのまにかリリと黄金色をした森のドラゴンが駆けつけていたのだ。しかしルークはまるで気づかない。いまや腰にわずかな布をまとっているだけで、月夜の光に照らされているその姿はまるで古代の伝説から抜け出したようである。
ラッセルは畏れすらおぼえ、その場につと立ちつくした。しかしそれは悪手だった。というのも、ルークを追って扉の向こうへいこうとしたとたん、扉がバタンと閉じてしまったからだ。
「くそ! 開け! ルーク!」
またもラッセルはあわて、扉を押し開けようとした。亡霊の腕がやっていたように手のひらを扉に押し当て、全力で押してみるものの、うんともすんともいわない。
しかしその直後、応援がやってきた。
ピピピピーーー!!! ドン、ドン!
リリのさえずりと共に二頭のドラゴンが扉に突進し、そのまま体当たりしたのだ。
「おまえたち……」
小さなドラゴンが扉にぶつかるのを見て、ラッセルは思わずやめろと口にしそうになった。ところが、ラッセルがいくら押してもびくともしなかった扉は、二頭のドラゴンがぶつかるとぐらりと揺れ、すうっと奥へ開いたのである。
ひょっとするとこの扉を開けるには、腕力以外のものが必要だということだろうか? あるいは精霊族でなければ開かないとか?
ラッセルはふとそう思ったが、考えるのは後回しにして扉の中へ足を踏み入れた。暗く青白い光に体が包まれると同時に空気自体が重く濃くなり、これまでと同じように呼吸はできるのに、水の中を歩いているような抵抗を感じた。
なんだこれは?
呼吸はできるのにうまく声が出ない。パタリ、パタリ、という音が聞こえて後ろをむくと、リリと黄金のドラゴンがラッセルにつづいて扉の中に入っている。しかし彼らの翼もこの青い光のもとでは、ひどくゆっくりとしか動かないようだ。
それでも空中に留まることはできるとみて、ラッセルはそのまま進むことにした。両手を広げて水をかくように動かしながら進むと多少ましで、周囲を見回す余裕もできた。
そこは金色の泉が湧き出す大洞窟とは似ても似つかない場所で、最初の一瞥では夜の森のように見えた。ただし地上の森とは似ても似つかない。というのも、青白い光のもとに立っている木々はガラスのように透きとおっていて、枝についている葉の一枚一枚も、濃い緑色をしたガラスのような質感だった。思わず手を伸ばして一枚ちぎると、ラッセルの手のひらの上で葉脈がぽうっと白い光を放ち、あたりを照らした。
ルークはどこだ。
ラッセルはもう何枚か葉をちぎると、それで前方を照らしつつ森の奥に目をこらした。すると透明な木の幹をすかして黒髪がたなびくのが見えた。。
いた!
ラッセルは両手で空気をかきながら、できるだけ大急ぎでその方向へ歩いた。やがてルークが膝を抱えてうずくまっているのが見え、その瞬間は心の底からほっとしたものの、呼びかけたいのに自分の声が出ないことに気づいてまたイライラした。
ルークは黒髪を前に垂らし、うつむいたままぴくりとも動かない。ラッセルは水中を歩くようにゆらりゆらりとルークに近づいた。するとその背後にいきなり白く長い顔がぬっと突き出して、思わず声をあげそうになった。
もっともラッセルの喉からはあいかわらずどんな声も出なかったし、ゆっくりまばたきして見返すと、それが石像だということがわかった。しかも人間の像ではなく、白馬――いや、ユニコーンの像だ。突き出した長い角の先端が青白くきらめき、細いたてがみの一本一本まで、生きているかのように精緻に形作られている。
調査隊と共にもう一度ここにきて、くわしく調べよう。そうラッセルは誓ったものの、いまはルークを連れ帰らなければならない。すっかり気を失っているが、首筋にあてた指にはしっかり脈拍が伝わってきた。ラッセルはルークを抱き上げ、もときた道をのろのろと歩き出した。リリたちがのろのろと飛んできて、ラッセルにこっちだと道案内をする。というのも、ラッセルが通ってきた扉はまた閉じてしまっていたからだ。
二頭のドラゴンのおかげでラッセルはもとの扉へなんとかたどりついた。さっきとちがいこちら側には把手があったが、今度は森のドラゴンが鉤爪をひっかけて回すと無事開いた。ドラゴンに扉をおさえてもらっているすきに、ラッセルはルークを抱きかかえたまま急いで扉の外へ出た。
「おまえたちも早く……」
そういいかけた時である。
遠くから――扉の向こう側から、リズミカルな蹄の音が響いてきた。たちまち大きくなったその音と共にラッセルの目に飛びこんできたのは、白馬――いやユニコーンだ。ラッセルはひやりとした。
まさか――あの石像か?
ピピプピピピピ!!!!
リリが叫んだ。ユニコーンが大きく跳躍したと思うと、扉に突っこんできたからだ。同時にラッセルの腕の中でルークがみじろぎ、目を開けた。
「ルーク、気がついた――」
しかしほっとしてつぶやいたその言葉を、ラッセルは最後まで続けられなかった。ルークがいきなり両足をばたつかせ、さらに平手でラッセルの頬をバチンと叩いたからだ。
「あっ、え? え、え、え?」
ルークはわけがわからず硬直したラッセルを乱暴にふりほどくと、いつもの優雅なしぐさとは似ても似つかない様子で両手足をぎこちなく振りながら走り出した。
「ルーク、どうしたんだ。待ってくれ!」
ラッセルはようやく我に返り、またルークを追って走り出した。しかしルークはその声を聞いて、さらにパニックに陥ったように両腕をぐるぐる回し、大洞窟へ駆けこんでいく。
バチャーン!
ラッセルの目の前で大きな水しぶきがあがった。勢い余ったのか足がすべったのかはわからなかったが、ルークが金色に輝く精霊族の泉に飛びこんだのである。
ピピピ!
すかさずリリのさえずりが響いた。まるで弾丸のようなすばやさで、空色のドラゴンと金色のドラゴンが泉の方へ急行する。ルークは泉の真ん中でバチャバチャと雫を跳ね飛ばしていた。泉は大人が簡単に溺れるほど深くはないのだが、立ち上がるのに苦労しているようだった。リリと黄金のドラゴンが手助けするようにその上を飛ぶが、なぜかルークは両手をふりまわし、目をむいて彼らを追い払おうとしている。
「ルーク、落ち着け!」
ラッセルは泉の外からルークをなだめようと声をかけた。しかしそのとき。扉のむこうからやってきたユニコーンが泉の面にその姿を(正確にいえばその角を)映したのである。
ルークはバッと水を跳ね飛ばして立ち上がった。いつのまにか完全な全裸になっている。そのまま水をかきわけて泉のふちまで歩いてくると、角をつきだしてお辞儀をするような姿勢のユニコーンに両手をかけて、頬ずりをしはじめた。
それは伝説からそのまま抜け出してきたかのように、あまりにも……あまりにも美しい光景だった。ラッセルは言葉をなくし、息をのんでその様子をみつめた。
濡れた髪を垂らしながら純白のユニコーンにすがりつくルーク。その体から滴りおち、泉のふちの石に跳ね返った雫はきらめく宝石に変わって(これは人の姿をしたドラゴンであるルークに備わっている異能のひとつである)、大洞窟を満たす金色の輝きを増している。
「ルーク……」
しばしたってやっと我に返ると、ラッセルはルークに手を伸ばした。ただ泉から出るのを手伝いたかっただけなのだが、ルークの肩に手を触れると、泉の水に濡れた体はびくりと硬直した。
「大丈夫か? どうした――」
またもバシャッと大きな水音があがった。ルークが水を蹴立てながら泉から飛び出したのだ。濡れた髪をぶんぶん振りながらユニコーンのたてがみをつかんでいるのは、どうやらその背によじ登ろうとしているらしい。
「え?え?え?」
ラッセルはまたも大慌てで止めにかかった。つまりルークの背後から両腕を回して、抱きかかえようとしたのだ。するといきなりルークが怒鳴った。
「さわるな人間! ドラゴンどもも、オレにつきまとうな!」
その声はたしかにルークのものだったが、その口調は――そしてその表情は、みなの知るルーク・セクストンとは似ても似つかないものだった。
それが目に入ったとたん、ルークはラッセルを押しのけて前に飛び出していた。
「ルーク⁉」
ラッセルが叫んだ。しかしルークはその声がまるで耳に入らなかったように暗がりへ走っていく。
ルークの視線の先で白い腕(と手のひら)がひらりと動く。ラッセルの頭には一瞬、警備隊員が目撃したという「亡霊」の話がよぎった。だが走るルークの体から、いましがたの行為ではだけていた――というよりも脱ぎかけていた服がひらひらと地面に落ちていくのを見ると、そんなことを気にしているどころではなくなった。
しかし肝心のルークは服のことなどまるで気にしている様子がない。つまり申し訳程度の布をまとわりつかせただけの姿でラッセルの前を走っていくのだ。その姿は芸術家が大理石で刻んだ彫像のように美し――かったが、ラッセルにはそんな感慨にふける余裕はなかった。とにかく点々と落ちていく服を拾いながらルークを追いかけた。
ところがルークの足は鹿を思わせる素早さで動き、ラッセルは距離を縮めることができないのである。
それはとても奇妙なことだった。なにしろラッセルは騎士団に加わってもなんの問題もないほどの脚力の持ち主なのだ。
ラッセルがハッと気づいたときには、白い腕は(ちなみに最初に目撃したときは体らしき形があったのに、いまは腕一本だけになっていた)びゅんと空中を飛んで、洞窟の一角へルークを導いていた。それはこのほど調査隊が発見した、扉とおぼしき遺構である。
そしてルークがそこへたどりついたとたん、腕は白い手のひらを扉にぴたりとあて、調査隊には手も足もでなかったそれをぐっと押し開いたのだ。
月光を思わせる青白い光が扉の向こうから差しこみ、暗がりを満月の夜の色で照らした。亡霊の腕がその中へ飛びこむと、ルークもそのあとに続く。
「ルーク! 待ってくれ!」
大声で叫んだラッセルの背後で翼のはためく音がした。いつのまにかリリと黄金色をした森のドラゴンが駆けつけていたのだ。しかしルークはまるで気づかない。いまや腰にわずかな布をまとっているだけで、月夜の光に照らされているその姿はまるで古代の伝説から抜け出したようである。
ラッセルは畏れすらおぼえ、その場につと立ちつくした。しかしそれは悪手だった。というのも、ルークを追って扉の向こうへいこうとしたとたん、扉がバタンと閉じてしまったからだ。
「くそ! 開け! ルーク!」
またもラッセルはあわて、扉を押し開けようとした。亡霊の腕がやっていたように手のひらを扉に押し当て、全力で押してみるものの、うんともすんともいわない。
しかしその直後、応援がやってきた。
ピピピピーーー!!! ドン、ドン!
リリのさえずりと共に二頭のドラゴンが扉に突進し、そのまま体当たりしたのだ。
「おまえたち……」
小さなドラゴンが扉にぶつかるのを見て、ラッセルは思わずやめろと口にしそうになった。ところが、ラッセルがいくら押してもびくともしなかった扉は、二頭のドラゴンがぶつかるとぐらりと揺れ、すうっと奥へ開いたのである。
ひょっとするとこの扉を開けるには、腕力以外のものが必要だということだろうか? あるいは精霊族でなければ開かないとか?
ラッセルはふとそう思ったが、考えるのは後回しにして扉の中へ足を踏み入れた。暗く青白い光に体が包まれると同時に空気自体が重く濃くなり、これまでと同じように呼吸はできるのに、水の中を歩いているような抵抗を感じた。
なんだこれは?
呼吸はできるのにうまく声が出ない。パタリ、パタリ、という音が聞こえて後ろをむくと、リリと黄金のドラゴンがラッセルにつづいて扉の中に入っている。しかし彼らの翼もこの青い光のもとでは、ひどくゆっくりとしか動かないようだ。
それでも空中に留まることはできるとみて、ラッセルはそのまま進むことにした。両手を広げて水をかくように動かしながら進むと多少ましで、周囲を見回す余裕もできた。
そこは金色の泉が湧き出す大洞窟とは似ても似つかない場所で、最初の一瞥では夜の森のように見えた。ただし地上の森とは似ても似つかない。というのも、青白い光のもとに立っている木々はガラスのように透きとおっていて、枝についている葉の一枚一枚も、濃い緑色をしたガラスのような質感だった。思わず手を伸ばして一枚ちぎると、ラッセルの手のひらの上で葉脈がぽうっと白い光を放ち、あたりを照らした。
ルークはどこだ。
ラッセルはもう何枚か葉をちぎると、それで前方を照らしつつ森の奥に目をこらした。すると透明な木の幹をすかして黒髪がたなびくのが見えた。。
いた!
ラッセルは両手で空気をかきながら、できるだけ大急ぎでその方向へ歩いた。やがてルークが膝を抱えてうずくまっているのが見え、その瞬間は心の底からほっとしたものの、呼びかけたいのに自分の声が出ないことに気づいてまたイライラした。
ルークは黒髪を前に垂らし、うつむいたままぴくりとも動かない。ラッセルは水中を歩くようにゆらりゆらりとルークに近づいた。するとその背後にいきなり白く長い顔がぬっと突き出して、思わず声をあげそうになった。
もっともラッセルの喉からはあいかわらずどんな声も出なかったし、ゆっくりまばたきして見返すと、それが石像だということがわかった。しかも人間の像ではなく、白馬――いや、ユニコーンの像だ。突き出した長い角の先端が青白くきらめき、細いたてがみの一本一本まで、生きているかのように精緻に形作られている。
調査隊と共にもう一度ここにきて、くわしく調べよう。そうラッセルは誓ったものの、いまはルークを連れ帰らなければならない。すっかり気を失っているが、首筋にあてた指にはしっかり脈拍が伝わってきた。ラッセルはルークを抱き上げ、もときた道をのろのろと歩き出した。リリたちがのろのろと飛んできて、ラッセルにこっちだと道案内をする。というのも、ラッセルが通ってきた扉はまた閉じてしまっていたからだ。
二頭のドラゴンのおかげでラッセルはもとの扉へなんとかたどりついた。さっきとちがいこちら側には把手があったが、今度は森のドラゴンが鉤爪をひっかけて回すと無事開いた。ドラゴンに扉をおさえてもらっているすきに、ラッセルはルークを抱きかかえたまま急いで扉の外へ出た。
「おまえたちも早く……」
そういいかけた時である。
遠くから――扉の向こう側から、リズミカルな蹄の音が響いてきた。たちまち大きくなったその音と共にラッセルの目に飛びこんできたのは、白馬――いやユニコーンだ。ラッセルはひやりとした。
まさか――あの石像か?
ピピプピピピピ!!!!
リリが叫んだ。ユニコーンが大きく跳躍したと思うと、扉に突っこんできたからだ。同時にラッセルの腕の中でルークがみじろぎ、目を開けた。
「ルーク、気がついた――」
しかしほっとしてつぶやいたその言葉を、ラッセルは最後まで続けられなかった。ルークがいきなり両足をばたつかせ、さらに平手でラッセルの頬をバチンと叩いたからだ。
「あっ、え? え、え、え?」
ルークはわけがわからず硬直したラッセルを乱暴にふりほどくと、いつもの優雅なしぐさとは似ても似つかない様子で両手足をぎこちなく振りながら走り出した。
「ルーク、どうしたんだ。待ってくれ!」
ラッセルはようやく我に返り、またルークを追って走り出した。しかしルークはその声を聞いて、さらにパニックに陥ったように両腕をぐるぐる回し、大洞窟へ駆けこんでいく。
バチャーン!
ラッセルの目の前で大きな水しぶきがあがった。勢い余ったのか足がすべったのかはわからなかったが、ルークが金色に輝く精霊族の泉に飛びこんだのである。
ピピピ!
すかさずリリのさえずりが響いた。まるで弾丸のようなすばやさで、空色のドラゴンと金色のドラゴンが泉の方へ急行する。ルークは泉の真ん中でバチャバチャと雫を跳ね飛ばしていた。泉は大人が簡単に溺れるほど深くはないのだが、立ち上がるのに苦労しているようだった。リリと黄金のドラゴンが手助けするようにその上を飛ぶが、なぜかルークは両手をふりまわし、目をむいて彼らを追い払おうとしている。
「ルーク、落ち着け!」
ラッセルは泉の外からルークをなだめようと声をかけた。しかしそのとき。扉のむこうからやってきたユニコーンが泉の面にその姿を(正確にいえばその角を)映したのである。
ルークはバッと水を跳ね飛ばして立ち上がった。いつのまにか完全な全裸になっている。そのまま水をかきわけて泉のふちまで歩いてくると、角をつきだしてお辞儀をするような姿勢のユニコーンに両手をかけて、頬ずりをしはじめた。
それは伝説からそのまま抜け出してきたかのように、あまりにも……あまりにも美しい光景だった。ラッセルは言葉をなくし、息をのんでその様子をみつめた。
濡れた髪を垂らしながら純白のユニコーンにすがりつくルーク。その体から滴りおち、泉のふちの石に跳ね返った雫はきらめく宝石に変わって(これは人の姿をしたドラゴンであるルークに備わっている異能のひとつである)、大洞窟を満たす金色の輝きを増している。
「ルーク……」
しばしたってやっと我に返ると、ラッセルはルークに手を伸ばした。ただ泉から出るのを手伝いたかっただけなのだが、ルークの肩に手を触れると、泉の水に濡れた体はびくりと硬直した。
「大丈夫か? どうした――」
またもバシャッと大きな水音があがった。ルークが水を蹴立てながら泉から飛び出したのだ。濡れた髪をぶんぶん振りながらユニコーンのたてがみをつかんでいるのは、どうやらその背によじ登ろうとしているらしい。
「え?え?え?」
ラッセルはまたも大慌てで止めにかかった。つまりルークの背後から両腕を回して、抱きかかえようとしたのだ。するといきなりルークが怒鳴った。
「さわるな人間! ドラゴンどもも、オレにつきまとうな!」
その声はたしかにルークのものだったが、その口調は――そしてその表情は、みなの知るルーク・セクストンとは似ても似つかないものだった。
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