6 / 54
2.嵐を呼ぶ男
嵐を呼ぶ男①
しおりを挟む「──新入社員、ですか?」
「そう」
川上MGRからの呼び出しは、なんのことはない、新しく人が入るという話だった。
人払いした別室で、我々二人だけがその話を聞かされる。この件がどうしてそれほど〝大事な話〟になるのか。
「めずらしいですね、この時期に。まあ、年中人は足りないですけど」
「ああうん、それがねー、訳ありで」
「訳あり?」
「うん、超訳あり。只者じゃないのよ、その新入社員の彼」
「何者なんですか?」
川上MGRが、持っていたタブレットの画面をこちらに向ける。
そこには、ある大企業のグループ企業名がずらりと並んだ相関図が表示されていた。
「楠木産業、わかるよな?」
「楠木、産業……」
聞いたことはあるが、私はよく知らない。
私の隣で河上さんは、はい、と頷いている。
医薬品や食料品、化学製品などを扱う、創業が昭和一桁の歴史ある複合商社らしい。
「グループ企業をこれだけ抱えている親会社のトップ、代表取締役社長がこの楠木 貴大氏で、そのご子息を我が社でお預かりすることになったという訳ですよ」
「代表取締役社長って、雲の上の人じゃないですか……」
そのご子息とは? ピンと来ない。
なぜそんな大物が、うちに?
普通は自分のところのグループ企業などで働くのでは?
「ほんとそうなんだよ、雲の上の人なわけ。──それでさ、ほらここに、執行役員に名を連ねているのが彼のお兄さんで、長男だからいずれトップに立つ教育を受けているんだろうね、ご自分の会社で。うちで働くのはだから、楠木社長の次男坊、ってこと」
「……長男さんは自分の会社の中枢にいて、次男さんはうちの新入社員、ですか」 不思議。
「いろいろな大人の事情があってうちに任せるって話になったみたいだけど、その事情は我々が知るところではないみたいだから」
「大人の事情……なるほど」
なるほどと言ってみたけれど、あまりよくわかっていない。
いろいろあるのかな? 大企業の一族は。兄弟格差とか、仲が悪いとか?
いずれにしても雲の上の話だ。
「ようはその次男の彼を、叩き直して鍛えて欲しいってことらしいけど、そう言われてもねえ……怒らせるわけにいかないし」
「……」
あれ? めずらしく河上さんが、何も口を挟まず考え込んでいる。どうしたんだろう?
※ 河上透弥 と 川上MGRが おります。
「それで指導担当なんだけど、沢北さんにお願いしようと考えていて」
「え? 私ですか!?」
「そう。適任だと思って」
「ええ……」
そんな大事な人材なら、私じゃなくて河上さんが適任に決まってるじゃない。
意味がわからない。
「なぜ沢北さんが彼の担当に?」
あ、やっと喋った。
「本当ですよ、なぜ私なんですか」
「実はさっきちょっと会ってきたんだけどね、なんとなく沢北さんの方が合いそうだなって。僕の勘」
勘って……いやいや、やめてくれよ。
そんな重要任務、私に務まるわけが……。
「河上さんについてもらった方が百倍勉強になると思います。私では力不足です、無理かと」
「勿論一人で全部担ってもらおうとは思っていないよ。僕も見るし、河上君は沢北さんのサポートに付いてください。いいですよね?」
「……はい、わかりました」
「わかりました!? え、ウソでしょう?」
「あはは、めっちゃ嫌そう」
「だって」
「沢北さんもさ、もしこれで彼に気に入られでもして、万が一恋仲になって結婚することになったら、玉の輿の中の玉の輿だからね! 御曹司だよ? 僕が仲人やろうか」
「冗談言わないでください」
こっちは真剣なんだ!
社員証に使うための彼の胸から上の写真を見せてもらうが、印象としてはそうだな……中性的で儚げ? でもなぜか片方の口角だけが不気味につり上がっており、おそらく写真の作り笑顔が苦手なタイプとみた。その気持ちはわからないでもない。
聞けば、超一流大学の出身で、頭脳は優秀らしい。
ただでさえ人と接することが苦手な私が、こんな優秀な人と何をどう話して指導すればいいのか、河上さんを斜め上に見上げ「無理です」と訴える。会う前からすでに降参。なのに、
「大丈夫じゃない?」
「大丈夫の根拠は?」
「沢北さん、面白いから」
「またそれだ!」
銭湯での遭遇以来、河上さんともおかしなリズムになってしまった。元に、戻さなくては……。
「この件は君たち二人にしか話していないから、彼の出自は広めないでほしい」と念を押され、部屋を出た。
──気が重い。ノーと言えないサラリーマン、辛い。
楠木 鉄平 25歳。
私の二、三歳 年下らしい。
来週、初出勤の予定────。
88
あなたにおすすめの小説
Marry Me?
美凪ましろ
恋愛
――あの日、王子様があたしの目の前に現れた。
仕事が忙しいアパレル店員の彼女と、王子系美青年の恋物語。
不定期更新。たぶん、全年齢でいけるはず。
※ダイレクトな性描写はありませんが、ややそっち系のトークをする場面があります。
※彼の過去だけ、ダークな描写があります。
■画像は、イトノコさまの作品です。
https://www.pixiv.net/artworks/85809405
【完結】東京・金沢 恋慕情 ~サレ妻は御曹司に愛されて~
安里海
恋愛
佐藤沙羅(35歳)は結婚して13年になる専業主婦。
愛する夫の政志(38歳)と、12歳になる可愛い娘の美幸、家族3人で、小さな幸せを積み上げていく暮らしを専業主婦である紗羅は大切にしていた。
その幸せが来訪者に寄って壊される。
夫の政志が不倫をしていたのだ。
不安を持ちながら、自分の道を沙羅は歩み出す。
里帰りの最中、高校時代に付き合って居た高良慶太(35歳)と偶然再会する。再燃する恋心を止められず、沙羅は慶太と結ばれる。
バツイチになった沙羅とTAKARAグループの後継ぎの慶太の恋の行方は?
表紙は、自作です。
恋は、やさしく
美凪ましろ
恋愛
失恋したばかりの彼女はひょんなことから新橋の街中で上司にお姫様抱っこされ……!? ――俺様な美形上司と彼女とのじんわりとした恋物語。
性描写の入る章には*マークをつけています。
地味系秘書と氷の副社長は今日も仲良くバトルしてます!
楓乃めーぷる
恋愛
見た目はどこにでもいそうな地味系女子の小鳥風音(おどりかざね)が、ようやく就職した会社で何故か社長秘書に大抜擢されてしまう。
秘書検定も持っていない自分がどうしてそんなことに……。
呼び出された社長室では、明るいイケメンチャラ男な御曹司の社長と、ニコリともしない銀縁眼鏡の副社長が風音を待ち構えていた――
地味系女子が色々巻き込まれながら、イケメンと美形とぶつかって仲良くなっていく王道ラブコメなお話になっていく予定です。
ちょっとだけ三角関係もあるかも?
・表紙はかんたん表紙メーカーで作成しています。
・毎日11時に投稿予定です。
・勢いで書いてます。誤字脱字等チェックしてますが、不備があるかもしれません。
・公開済のお話も加筆訂正する場合があります。
親愛なる後輩くん
さとう涼
恋愛
「神崎部長は、僕と結城さんがつき合っているのを知りながら彼女に手を出したんですよ」
雨宮一紗(33歳)。離婚して3年。
同じ会社に勤める元夫・神崎敦朗と復縁したくて、ある日食事に誘ったら、神崎から恋人がいると知らされる。相手は20代の部下・結城史奈だという。
さらに神崎のもうひとりの部下である蓮見閑《しずか》から、彼女(結城)を神崎に略奪されたと聞かされてしまい、大きなショックを受ける……。
自信家CEOは花嫁を略奪する
朝陽ゆりね
恋愛
「あなたとは、一夜限りの関係です」
そのはずだったのに、
そう言ったはずなのに――
私には婚約者がいて、あなたと交際することはできない。
それにあなたは特定の女とはつきあわないのでしょ?
だったら、なぜ?
お願いだからもうかまわないで――
松坂和眞は特定の相手とは交際しないと宣言し、言い寄る女と一時を愉しむ男だ。
だが、経営者としての手腕は世間に広く知られている。
璃桜はそんな和眞に憧れて入社したが、親からもらった自由な時間は3年だった。
そしてその期間が来てしまった。
半年後、親が決めた相手と結婚する。
退職する前日、和眞を誘惑する決意をし、成功するが――
【完結】泡になった約束
山田森湖
恋愛
三十九歳、専業主婦。
夫と娘を送り出し、静まり返ったキッチンで食器を洗う朝。
洗剤の泡が立っては消えるその繰り返しに、自分の人生を重ねながら、彼女は「ごく普通」の日常を受け入れている。
愛がないわけではない。けれど、満たされているとも言い切れない。
そんな午前中、何気なく出かけたスーパーで、背後から名前を呼ばれる。
振り返った先にいたのは、かつて確かに愛した男――元恋人・佐々木拓也。
平穏だったはずの毎日に、静かな波紋が広がり始める。
嘘をつく唇に優しいキスを
松本ユミ
恋愛
いつだって私は本音を隠して嘘をつくーーー。
桜井麻里奈は優しい同期の新庄湊に恋をした。
だけど、湊には学生時代から付き合っている彼女がいることを知りショックを受ける。
麻里奈はこの恋心が叶わないなら自分の気持ちに嘘をつくからせめて同期として隣で笑い合うことだけは許してほしいと密かに思っていた。
そんなある日、湊が『結婚する』という話を聞いてしまい……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる