月の声が聴きたくて ~恋心下暗し~

沢鴨ゆうま

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第二章

第十二話 仲良い二人、怪しい二人

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 楽しかった週末も終了。
 少々憂鬱なハードルが待ち構えている平日になった。
 憂鬱なハードルとは……。
 そう。
 千代との件だ。
 喧嘩をしてからは一切話をしていない。
 休日期間だけだが、話していない期間が随分と長く感じられていた早貴。
 頭を掻きむしりながら洗面所へ向かって行く。

「おねぇちゃん、今日は一段と酷い寝起きだね」

「うるさいなぁ。まずはおはようを言うべきでしょ?」

「ああごめん。おはよう、おねぇちゃん……」

「おはよ」

 素っ気なく洗面所へ向かって行く早貴を見ながら香菜は呟いた。

「うっわぁ。ちょっと早めに出発しよっと」

 できるだけ早貴と会話をしないように、そそくさと登校準備を始めた。


 母親の時子にも心配されつつ家を出た早貴。
 いつものように駐車している車の窓ガラスで身なりの最終チェックをする。

「はぁ。今日の髪の毛は反抗期か」

 どうにも直らないアホ毛たちを弄りながらしかめ面でバス停へと歩いてゆく。
 バス停前には例の如く、千代が壁に足を掛けて立っていた。
 当然の光景なのだが、少々空を仰いでから千代の傍で立ち止まった。
 千代も曲がり角から早貴に気付いていたが、敢えてスマホから目線を動かさなかった。
 そのことに早貴も気づいていたのであろう。
 一人分の隙間を空けて立っている。
 気まずい雰囲気。
 お互いに予想していた空気。
 この空気感をどうするか迷ったまま今に至る二人である。
 それでも、姿を見るだけで安心できる相手だ。
 いざ現場に来てみれば、自然に話しかけたい気持ちが湧いてくる。
 早貴が動く。
 少しずつ間を縮め初めて千代の肩に触れるまで動いた。

「おはよ」

 挨拶をされた千代が軽く微笑んで壁に掛けていた足を下ろす。
 そして早貴へ振り返り背伸びをした。

「おはよ! 良かったぁ、来てくれた」

「ちょっと! こんな所でいきなりキスはないでしょ?」

「だって、嬉しかったからさ」

「べ、別に千代から言ってくれればいいのにさ。スマホばっかり見ているから」

「目を合わせづらかったんだもん。ほんとはあたしから挨拶しようって思ったんだけど」

「思ったんだけど?」

「早貴が来たのが分かったら頭の中がぐちゃぐちゃになっちゃって……」

「何よそれ。困らせるような相手なんだ、アタシ」

 早貴の脇腹に軽く拳を当てて千代は言葉を返す。

「意地悪。好きな人の前だと訳分からなくなるんだよ!」
 
 そう言いながら早貴に抱き着くと、それに早貴も答えて千代の背中に手を回した。

「ごめんね千代。心配してくれたのに」

「あたしも心配し過ぎだったね。早貴の自由を奪うようなことを言っちゃって」

 二人の女子高生が抱き合っている所へスクールバスが到着する。
 バスの窓から生徒達がガラスを割りそうな勢いで二人を見下ろしていた。

「バス来たから乗ろ!」

 いつもの座席に二人が座るのを見届けながら、他の生徒達も自分の座席に座り直す。
 しかしざわつきは止まなかった。

「なんだかいつにも増してみんな騒がしいわね」

「沈んだ空気よりいいじゃない」

「早貴はポジティブだなぁ」

「そう? ただ楽しい方が好きなだけだよ」

「そこが好きなんだけどさ」

 吹っ切った千代は、早貴に思いっきり甘えるようになっていた。
 それを早貴も久しぶりに楽しめることを喜んでいる。
 そんな二人の仲の良いムードが周りに伝わらないわけがない。
 いつも仲良くしている二人を見るのを楽しみにしている同乗生徒達。
 抱き合っているシーンから今醸し出されているムードへ。
 この幸せたっぷりな空間を全員が堪能していた。


 そんな世界を引き連れながら校舎へと入っていく。
 そして教室へ。
 二人は喧嘩など無かったかのような振る舞い。
 あちこちから飛んでくる目線など気にならない、いや気づかない。
 これもまた恒例の光景。
 ただ、目線を送っている生徒たちは喧嘩の事を当然噂として知っているわけで。
 その結果がどうなったのかを知りたくて二人を見ていたのだ。
 しかし何も変化が無いどころか、いつにも増して仲が良さそうだ。
 噂は何だったのかとひそひそと話す声が教室のあちこち、それに廊下から聞こえていた。

「奏、おはよ~」

「おはようございます。何か良い事あったんですか?」

 奏を挟むようにイスを持ってきて二人は座った。
 デレ顔のままで千代が問いに答える。

「うん! あったの。内緒だけどね」

「ええ!? 内緒なんですか? 良い事なら教えてくれてもいいじゃないですか」

「えへへ。内緒にしている方があたしは嬉しいのだ」

 机に両肘をついて顔を支えながらニヤニヤとする千代から目線を変える奏。
 早貴を見れば教えてくれるかもと期待をしたのか、目で問う。

「たいしたことではないのだけど、そうね、千代のために勘弁してあげて」

 その言葉に即反応した千代がにやけ顔を真顔に変えて早貴を睨んだ。

「たいしたことだよ! 早貴は違うの!?」

「たいしたことっていうと悪い事みたいじゃない。そうじゃないから」

 奏は千代の変化について行けずに目を丸くしている。

「ああ、うん、良い事……」

 またにやけ顔に戻る千代。
 まだ驚いている奏と目を合わせて早貴は勘弁してあげて、と伝わるように微笑んだ。

「知りたくてしょうがないですけど、お聞きしない方が良いお話ならそっとしておきます」

 つまらなそうにしている奏の頭を早貴はゆっくりと撫でてあげた。
 そしてそっと耳打ちをする。

(後で教えてあげるから。ただし内緒だよ)

(わかりました。楽しみです)

「はわあ。今日は楽しいねえ」

 千代はまるで好物のスウィーツでも食べたかのような満面の笑みを続けていた。





 昼休みの校舎屋上。
 一人の男子生徒が電話で話していた。

『そちらはどうなんです?』

「まだ序盤だからな、どうということはないが順調、じゃねぇかな」

『そうですか』

「なんだよ、そっちは上手くいっていないのか?」

『上手くも下手でも無いと言いますか……』

「は? 回りくどいな」

『中々に取り付く島が無い、と言った感じでして』

「お前にしては珍しいな、てこずっているのか?」

『少々。隙を見せないんですよね』

「へえ。感付かれている、とか?」

『突然付き人を寄越されたのですから、警戒されても仕方は無いのですけれど』

「それぐらいなら大丈夫だろ。バレていなけりゃいいのさ」

『はい。そこは十分に気を付けて動いています』

「最重要な面を任されている奴の付き人だから、簡単に忍び込めただけでも驚いたからな」

『本当ですよね。正直ここまで緩くていいのか、罠じゃないのかと思ってしまうほどで』

「ははは。これまでのお前がいかにハードな任務をさせられていたのかがわかるな」

 校舎のチャイムが聞こえてくる。
 昼休みが終わったようだ。

「おっと。そろそろ切るわ」

『はい。それではまた』

 携帯電話の電源ボタンで通信を遮断する。
 この二人の定期連絡が終了した。

「ちょっと、何あの怪しい電話。ああいうのを中二病って言うのかな。変なの」

 屋上に設置されている冷温水発生器の裏には昼寝をしていた女子生徒が一人。
 奏を愛して止まない佐戸倉綾の姿があった。
 彼女は女子生徒に人気があるため、いつもこの場所に逃げて来ている。
 早貴たちと一緒に食事をするのも良いのだが、一緒にいると常に目線を感じて休まらない。
 そのため、奏は他二人に任せて自分は一人の時間を作ることが多かった。

「あいつって、えっと、木ノ崎だったっけ? 普通科じゃ人気があるんじゃなかったかな」

 綾は顎に手を持って行き、木ノ崎についての情報を頭の中から探し出すポーズをとる。

「中二病とは聞いてなかったなあ。でも聞いてた口調と違ってたみたいだし、これは怪しいかも」

 なんだかわからないが、面白いものを目撃したという漠然とした空気が楽しくなってきた綾。
 と同時に、既にチャイムが鳴ったことを思い出し、慌てて立ち上がる。

「やばい! 次って移動じゃなかったっけ!?」

 水泳で鍛えている脚力を生かして即座に屋上を後にした。
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