月の声が聴きたくて ~恋心下暗し~

沢鴨ゆうま

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第三章

第十八話 ステップアップ

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「せめてこの状態が欲しいわよね」

「……これを自宅に設置している事が異常だ」

 多駆郎は休みを承諾してもらっていた。
 しかし、休むと人は色々な事が頭をよぎる。
 楽しかった事、閃き、最近会わなくなった人の事、忘れかけていた気に入らない事……。
 休日の二日目。
 イライラしていた案件を思い出し、研究所に依頼をしていた。
 その依頼により自宅では工事が始まる。
 結局休暇の間、自宅でゆっくりするなどはしなかった。

「私が休みを申請した意味を無くしちゃうしね」

「それは……ごめん」

「あなたがジッとしていられるわけは無いと思っていたから」

 浜砂が多駆郎の頭を撫でることが当たり前になっていた。
 開発者に助手という二人の関係。
 そう捉える事は少々困難だと思われる。
 それ程に馴染んでいた。

「ただジッとするぐらいなら、その時間で何かをしたいんだ」

「分かっているってば」

 開発関連機器のあるスペース。
 このエリアがパーテーションによって独立した。

「やっぱりこれはやり過ぎだよな。研究所へ行くようにすればいいだけだった」

「設置してから言わないでよ。誰もがそう思っていたわ」

「……。」

 多駆郎は絶句。
 自業自得を実感したのかも知れない。
 研究所に行くと、父親の事を思い出す。
 一人で作業をしたくても、助手を強制的に付けられる。
 そんな状況が耐えられなくて自宅作業にした。
 ところが、求められる事と自身のやりたいことは日々変化する。
 結果、現状のようになったのだ。
 自宅作業の継続か、作業は研究所にするのか。
 この分岐点に立ち、選択を誤ったとみえる。

「こうなった以上、やるしかない」

「そうよ。閃いた案もあるんでしょ? 手伝うから、開発頑張りましょう」

「いや、研究所の仕事は頑張らないと決めているんだ。絶対に頑張ってやらない」

「あらら。でもスポンサーなのよね」

「悔しいけど、今の自分は金銭面で白旗を上げるしか手が無い」

 その思いを幼少期から感じている多駆郎。
 敵のように感じているのは父親とお金だ。
 この二つを使わなければ、多駆郎自身が成立しないとまで感じている。
 そんなことを眠っている早貴を前に呟いていた程だ。

「休みをもらったのは正解だったのかな。何も浮かばなかったのに案を思いついたんだから」

「本当に良かったわ。壁が越えられなかったものね。私も力が足りなくてごめんなさい」

「そんなことはないよ。やっていることを理解してくれる人と話が出来るのはありがたい」

「それじゃあ、所の提案は正解だったわけね」

「悔しいけどそういうことになるね」

 自宅での作業を継続。
 改めて浜砂を助手として認めた。

「なんだか再スタートを切るような感じだ」

「いいんじゃない? その感じ」

「これからも手を貸してください」

「何よ、改まって。そのために助手やっているんだから遠慮なく。私は楽しみよ」

 これまでなら意欲を感じる発言をしなかった多駆郎。
 今回の変化は多駆郎自身の成長となったのかも知れない。
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