月の声が聴きたくて ~恋心下暗し~

沢鴨ゆうま

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第三章

第十九話 軽くも重くもなるもの

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「いやあ流石だね」

「ただ報告しただけですよ」

「その報告が出来るほどの開発をしてしまう所が流石なんだよ」

「俺はスポンサーにお返しをしているだけです」

「はは。スポンサー……確かに。多駆郎君にとってはそうなるね」

「仕方なくだから。研究所には大勢の技術者がいるのにね」

「……参ったな、おっしゃる通りで。ほんと頭が上がらないよ。こちらも小さいものばかりだけど開発はしているからね。発表出来るほどじゃないだけで」

「何もしていないとは言っていないよ」

 自宅作業環境が整った途端、多駆郎のスイッチが入った。
 一気に新技術の構築と、説明するための試作品製作まで進んだのだ。
 その結果を研究員に報告していたというわけである。

「多駆郎君、おめでとう。そしてありがとう。これでプレスリリースに持ち込めるよ」

「使える代物で何より。これでゆっくりできる」

 多駆郎は大きく伸びをする。
 伸びをしていると分かる声は電話の相手にも届いた。

「ああ。当分依頼もしないはずだから、ゆっくりしてください。お疲れ様」

「はずってのが気になるけど、電話の電源は切っておくよ」

「あはは。一週間ぐらいは構わないよ。でも用事があれば浜砂がそちらに行くけどね」

 大仕事をこなした。
 とりあえず自由になったので、趣味に集中できるわけだ。

「さてと。すっかり手付かずになっていたアイツの手入れをしようかな」

 ろくに構ってやることが出来なかったもの。
 それは天文台だ。
 セッティングも済んで完成となってからは一度も触っていない。
 中に入ることすらしていなかった。
 数か月ぶりとなる天文台の様子を見に向かう。
 開発は区切りがついたが、不審な事件は未解決。
 頭に過りつつ天文台を開けた時だった。

「なんだよ、これから俺は自由なはずだろ?」

 ズボンのポケットから呼び出し音が聞こえる。
 がっかりした表情をしながら天文台の入り口前でポケットから携帯を取り出す。

「誰だよ。……もしもし?」

「多駆郎君かい!?」

「耳が痛いよ。何? もう次の依頼?」

 音量調節されているはずの電話の声は音が割れる程に大きいものだった。

「大変なんだ。ゼフストリー社にやられた!」

「やられたって、そんな戦争じゃあるまいし」

「そう言ってもいいぐらいだ。プレスリリースがやばい!」

 時々耳を携帯から離しながら聞く多駆郎。

「落ち着いてくれる? こちらは何が起こっているか分からないから付いていけない」

「落ち着いてなんていられないよ。君が提出してくれた技術と全く同じものが発表されている!」

「……は?」

 ゼフストリー株式会社。
 多駆郎の父親が所属する会社の同業他社である。
 それは、多駆郎のライバルとも言えるわけだが。

「どういうこと?」

「何も分からない。ただ、新技術を発表出来ると社内が賑わっていた矢先過ぎてね。本社も研究所も大騒ぎに変わっているよ」

「何が何だか分からないな。どうしてそんなことに。あんな技術が被るなんて、それも同時期に――――」

 天文台の前で立ったままの多駆郎。
 自由な時間を手に入れたことなど吹っ飛んでいた。
 顎に手をやり、何かを考えている様子。
 何の情報も無いはずなのだが。
 しかしその情報は自身の頭脳から見つかったようで、研究員に尋ね始める。

「……あの今、浜砂さんってどうされてます?」

「え、浜砂さんかい? 一つ開発に区切りが付いたから、少しお休みをもらっていいかと聞かれたんで、彼女もお休みになっているよ。それが何か?」

 顎から手を下ろす。
 それからゆっくりと空を見上げる。

「彼女のリークかも知れない」

「いや、そんなこと……何か心当たりでも?」

「あの技術を目の前で見ていたのは彼女だ。あまりにも早すぎる発表ということを考えると、一番しっくりくるのはリークでしょ」

 研究員からの応答が止まる。

「彼女について詳しく調べてみる。何か分かるかも」

「は? なんで詳しく知らないんだよ! 詳しく調べるってなんだ!? 分かっているから採用したんだろ?」

「僕は人事担当ではないから分からないけれども、気持ちはよく分かる。僕も分からないから調べるんだ」

「……そうだね、すみません。ついカッとなってしまって。まだどうだか分からないのに決めつけるのも良くないし、いったん落ち着くようにするよ」

「多駆郎君は連絡待ち状態で申し訳ないけど、君が何かをすることはないから。とりあえずは休んでいてくれるかい」

「携帯を傍に置いて休むようにするよ」

 通話を切り、携帯をポケットに戻す。
 天文台に入るのをやめて家に向かい始めた。

「まさか……そんなことないよね?」

 軽くなったばかりの足。
 自宅に向かう足取りはとても重いものに変わっていた。
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