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第三章
おまけ
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「本当に良かったわ。何だか分からなかった事件も解決して……」
「お姉ちゃんも今度は失恋せずに済みそうで」
妹の頭にゲンコツを落として姉が怒る。
「人の未来を勝手に決めるな」
「痛いってば! もしかして、別れる気あるの?」
母を見ながら早貴は答えた。
「うーん。タクとは別れないと思う」
「それ、付き合い始めにいつも聞いていた気がする」
「あんたねえ。そういうこと言わないでよ。……今度は本当に、そう思えるの」
姉の周りをゆっくり周回しながら香菜がニヤニヤしている。
「へえ。どうも今度は大丈夫そうだね。何と言っても相手は十年の付き合いがある人だもんね。さすがに大丈夫かな」
「……そっか。十年会いに行っていたのね。タクとも話したけど、二人共何をやっていたんだろうね」
そこへ時子が割り込んだ。
「本当に鈍い二人でこっちはもどかしくて仕様が無かったわよ! 毎日のように通っていたのにそれだけなんだから。やっと……やっと落ち着けるわ」
「お母さん……そんな風に見ていたの? なんだか許嫁みたいね。初めて会った日にお母さんから通いなさいって言われたのが始まりだから」
「もしかして、お母さんが許嫁として話をしていたら良かったとか?」
時子の表情が固まる。
核心を突く香菜のスキルが発動したようだ。
「私が足りなかったの……そ、そうかも知れないわね」
「ちょっと。何年も会っていたからこそなんだけど」
「勿論それも大事なんだけどー、お姉ちゃんは初めに決めてあげた方が上手く行くと思うの」
時子は香菜に感心したようで、目を丸くしている。
「まあ何はともあれ、平和が戻ってきたので、お父さんからのプレゼント開けてみよう!」
「届いたの?」
「久しぶりだよね。大変なのかなあ」
父親の勝男が毎月プレゼントを贈ってくることが恒例になっている綿志賀家。
文明の利器が使えないような奥地へ入り込むと数か月何の連絡も無いことは多々ある。
「また箱に入っているよ?」
「あんまり期待したら駄目よ。糠喜びさせる天才なんだから」
「無事な証拠なんだから許してあげて」
時子もプレゼントが届いたことで一安心していたようだ。
そこに早貴の言葉は少々厳しかったらしい。
「そうだよお姉ちゃん。とにかく開けてみよ?」
早貴の隙を突いて香菜が箱を開けた。
「あ! 開けるのはアタシ!」
「いつもお姉ちゃんなんだから、たまにはいいでしょー」
開かれた箱の中には新聞紙に包まれたものと手紙が入っている。
新聞紙には何語か分からない文字が並んでいた。
「なんか前の時より大きいね」
「香菜が開けていいわよ」
「急にどうしたの? 開ける気だけど」
「何が出てくるか分からないじゃない」
覗き込む二人を後ろから眺めている時子は少し吹き笑いをしていた。
「それじゃあ開けまーす!」
新聞紙が剥がされてゆく。
「これ、重い……」
中から透明で山の字型の結晶が登場した。
「何これ?」
「水晶?」
姉妹が揃って振り返り、母親に聞く。
「見せて。……水晶、ね。でも偽物じゃないかしら」
「手紙読んでみるね」
『どうだ、母さんの様に綺麗だろ』
「……続きを読んでよ」
「……これだけ」
「はあ!?」
さすがに三人とも固まった。
「久しぶりのプレゼントがこれですか。いよいよ騙されていない? あの人」
「お姉ちゃん、お父さんに厳しいね」
「だって、こう、なんかさ、もうちょっとないの?」
綿志賀家に、不安の無い明るい日常が戻ってきた。
水晶を前に占い師の真似事をする香菜に付き合う早貴。
その姿を見てから時子は便せんを取りに夫の書斎へと向かった。
おまけ 完
「お姉ちゃんも今度は失恋せずに済みそうで」
妹の頭にゲンコツを落として姉が怒る。
「人の未来を勝手に決めるな」
「痛いってば! もしかして、別れる気あるの?」
母を見ながら早貴は答えた。
「うーん。タクとは別れないと思う」
「それ、付き合い始めにいつも聞いていた気がする」
「あんたねえ。そういうこと言わないでよ。……今度は本当に、そう思えるの」
姉の周りをゆっくり周回しながら香菜がニヤニヤしている。
「へえ。どうも今度は大丈夫そうだね。何と言っても相手は十年の付き合いがある人だもんね。さすがに大丈夫かな」
「……そっか。十年会いに行っていたのね。タクとも話したけど、二人共何をやっていたんだろうね」
そこへ時子が割り込んだ。
「本当に鈍い二人でこっちはもどかしくて仕様が無かったわよ! 毎日のように通っていたのにそれだけなんだから。やっと……やっと落ち着けるわ」
「お母さん……そんな風に見ていたの? なんだか許嫁みたいね。初めて会った日にお母さんから通いなさいって言われたのが始まりだから」
「もしかして、お母さんが許嫁として話をしていたら良かったとか?」
時子の表情が固まる。
核心を突く香菜のスキルが発動したようだ。
「私が足りなかったの……そ、そうかも知れないわね」
「ちょっと。何年も会っていたからこそなんだけど」
「勿論それも大事なんだけどー、お姉ちゃんは初めに決めてあげた方が上手く行くと思うの」
時子は香菜に感心したようで、目を丸くしている。
「まあ何はともあれ、平和が戻ってきたので、お父さんからのプレゼント開けてみよう!」
「届いたの?」
「久しぶりだよね。大変なのかなあ」
父親の勝男が毎月プレゼントを贈ってくることが恒例になっている綿志賀家。
文明の利器が使えないような奥地へ入り込むと数か月何の連絡も無いことは多々ある。
「また箱に入っているよ?」
「あんまり期待したら駄目よ。糠喜びさせる天才なんだから」
「無事な証拠なんだから許してあげて」
時子もプレゼントが届いたことで一安心していたようだ。
そこに早貴の言葉は少々厳しかったらしい。
「そうだよお姉ちゃん。とにかく開けてみよ?」
早貴の隙を突いて香菜が箱を開けた。
「あ! 開けるのはアタシ!」
「いつもお姉ちゃんなんだから、たまにはいいでしょー」
開かれた箱の中には新聞紙に包まれたものと手紙が入っている。
新聞紙には何語か分からない文字が並んでいた。
「なんか前の時より大きいね」
「香菜が開けていいわよ」
「急にどうしたの? 開ける気だけど」
「何が出てくるか分からないじゃない」
覗き込む二人を後ろから眺めている時子は少し吹き笑いをしていた。
「それじゃあ開けまーす!」
新聞紙が剥がされてゆく。
「これ、重い……」
中から透明で山の字型の結晶が登場した。
「何これ?」
「水晶?」
姉妹が揃って振り返り、母親に聞く。
「見せて。……水晶、ね。でも偽物じゃないかしら」
「手紙読んでみるね」
『どうだ、母さんの様に綺麗だろ』
「……続きを読んでよ」
「……これだけ」
「はあ!?」
さすがに三人とも固まった。
「久しぶりのプレゼントがこれですか。いよいよ騙されていない? あの人」
「お姉ちゃん、お父さんに厳しいね」
「だって、こう、なんかさ、もうちょっとないの?」
綿志賀家に、不安の無い明るい日常が戻ってきた。
水晶を前に占い師の真似事をする香菜に付き合う早貴。
その姿を見てから時子は便せんを取りに夫の書斎へと向かった。
おまけ 完
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