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第三章 平和のための戦い
第六話 主人からの助っ人依頼
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Szene-01 トゥサイ村、東西街道上
「ええい! ここにきて何故忙しいんだ! 普段からこれぐらい人が来てりゃ、余計なこと考えなくても良かったじゃないか」
トゥサイ村の村長は、村の各店が繁盛していることに腹を立てていた。
裏の仕事に手を出していたのは、村が繁盛しないからだった。
それが手のひらを返したように、長年求めていた光景が連日繰り広げられている。
喜ぶべきことのはずだが、村長は憤慨している。
「いまさら……今更なんだよ。もう遅いんだ」
人の往来を恨めしそうに見ていた村長は、大袈裟なため息をついてから自宅へと入ってゆく。
Szene-02 グレンゼ川崖上、ヴォルフ巣穴前
東西街道上にある、レアルプドルフとトゥサイ村に挟まれた森の中。
ルイーサとヒルデガルドは、以前仲間にしたヴォルフの巣穴を訪れていた。
森の中を歩いていると、ヒルデガルドの腰鞄の中からゴソゴソと音がする。
ヒルデガルドは鞄のフタを開けてアムレットを出した。
「あなたも会うの? 私がいれば平気? ふふ、可愛い子」
アムレットを両手で抱いて持ち上げると、顔を近づけて鼻と鼻を合わせた。
ルイーサは、ヒルデガルドに合わせて立ち止まり、アムレットを横から眺めている。
「まだ主人がいないと怖いのね。中型と言ってもヴォルフは大きいわ。私たちが大きいと思うのなら、アムレットたちは大型どころじゃないでしょうね」
「ルイーサ様、わがままを聞いていただいて申し訳ありません」
「何を言っているの、私もヴォルフたちには会いたいわ。あの子たちと仲良く出来るなんて凄いじゃない。それに、ヒルデと同じ気持ちなの。直接会ってお願いしたいし、しないと懐いてくれないように思えてしまって」
ルイーサは、アムレットの頬を指で撫でながら続ける。
「初めにきちんとお願いしたら、主人だと認めてくれそうな――すでに主人なのに、可笑しいわね」
「可笑しくなんて無いです。訳の分からない私の能力で、本当に仲間になってくれたのか……私もこの目で確かめないと信じられなくて」
中型魔獣ヴォルフを手懐けるという、あり得なかった状況を目の当たりにした二人。
魔獣で無くても、想像していないことが起これば人は簡単に信じられない。
二人は語りながら歩いているうちに巣穴に到着したが、周辺にヴォルフの姿は見当たらない。
ヒルデガルドがアムレットの様子を伺いつつ、巣穴を覗いてみる。
「こんにちは。みんないる? 狩りに出てるのかな」
アムレットは胴体の大きさとは逆に、小さな前足で主人の指をギュッと掴んでいた。
ルイーサはその後についていく。
「アムレットはいるって言ってますけど――」
アムレットの言う通り、ヴォルフが一頭ゆっくりとした足取りで姿を現した。
「久しぶり。みんな元気だった? なかなか来れなくてごめんね」
ヒルデガルドに向かって歩いてきたのは、巣穴を守っていたヴォルフだった。
眠っていたのか、鈍い動作でヒルデガルドの肩へ顔を擦りつけてきた。
「起こしちゃったかな。うわあ、立派なお顔だね。ちゃんと覚えててくれたの、嬉しい」
クーンと、体の大きさに似合わないような小さい鳴き声を発しているヴォルフ。
ヒルデガルドの肩より少し高い位置にあるヴォルフの顔が、何度も擦りつけられている。
ルイーサとヒルデガルドが同時に巣穴の奥へ目をやると、いくつかの光る赤い目が見えた。
「みんなも元気なようね。ヒルデ、依頼を先に伝えておきましょ」
「ふふ、依頼……主人が依頼をするってつい笑ってしまいますね。あのね――」
ヒルデガルドは、トゥサイ村侵攻時のブーズ防衛の手伝いを、ヴォルフたちに依頼した。
巣穴にいるヴォルフ全頭が、心なしかキョトンとしているようだ。
「ねえヒルデ。そんなの造作もないと言いたそうに見えるのは私だけかしら」
「ふふふ。どうもそのようです。どこまで動いていいのかと聞いています」
「どこまでって――何も言わないと恐ろしいことになりそうね。その都度指示するからと伝えて」
ヒルデガルドがルイーサの言ったとおりに伝えると、頬ずりをしていたヴォルフが尻尾を振って見せた。
「移動は人の目に付かないように、あなた達のことを知っている方は大丈夫だけど、町の人は驚いてしまうから。注文ばかりでごめんね。終わったら一緒に遊ぼうね」
こうしてルイーサとヒルデガルドは、ヴォルフへの助っ人依頼を終えた。
「ええい! ここにきて何故忙しいんだ! 普段からこれぐらい人が来てりゃ、余計なこと考えなくても良かったじゃないか」
トゥサイ村の村長は、村の各店が繁盛していることに腹を立てていた。
裏の仕事に手を出していたのは、村が繁盛しないからだった。
それが手のひらを返したように、長年求めていた光景が連日繰り広げられている。
喜ぶべきことのはずだが、村長は憤慨している。
「いまさら……今更なんだよ。もう遅いんだ」
人の往来を恨めしそうに見ていた村長は、大袈裟なため息をついてから自宅へと入ってゆく。
Szene-02 グレンゼ川崖上、ヴォルフ巣穴前
東西街道上にある、レアルプドルフとトゥサイ村に挟まれた森の中。
ルイーサとヒルデガルドは、以前仲間にしたヴォルフの巣穴を訪れていた。
森の中を歩いていると、ヒルデガルドの腰鞄の中からゴソゴソと音がする。
ヒルデガルドは鞄のフタを開けてアムレットを出した。
「あなたも会うの? 私がいれば平気? ふふ、可愛い子」
アムレットを両手で抱いて持ち上げると、顔を近づけて鼻と鼻を合わせた。
ルイーサは、ヒルデガルドに合わせて立ち止まり、アムレットを横から眺めている。
「まだ主人がいないと怖いのね。中型と言ってもヴォルフは大きいわ。私たちが大きいと思うのなら、アムレットたちは大型どころじゃないでしょうね」
「ルイーサ様、わがままを聞いていただいて申し訳ありません」
「何を言っているの、私もヴォルフたちには会いたいわ。あの子たちと仲良く出来るなんて凄いじゃない。それに、ヒルデと同じ気持ちなの。直接会ってお願いしたいし、しないと懐いてくれないように思えてしまって」
ルイーサは、アムレットの頬を指で撫でながら続ける。
「初めにきちんとお願いしたら、主人だと認めてくれそうな――すでに主人なのに、可笑しいわね」
「可笑しくなんて無いです。訳の分からない私の能力で、本当に仲間になってくれたのか……私もこの目で確かめないと信じられなくて」
中型魔獣ヴォルフを手懐けるという、あり得なかった状況を目の当たりにした二人。
魔獣で無くても、想像していないことが起これば人は簡単に信じられない。
二人は語りながら歩いているうちに巣穴に到着したが、周辺にヴォルフの姿は見当たらない。
ヒルデガルドがアムレットの様子を伺いつつ、巣穴を覗いてみる。
「こんにちは。みんないる? 狩りに出てるのかな」
アムレットは胴体の大きさとは逆に、小さな前足で主人の指をギュッと掴んでいた。
ルイーサはその後についていく。
「アムレットはいるって言ってますけど――」
アムレットの言う通り、ヴォルフが一頭ゆっくりとした足取りで姿を現した。
「久しぶり。みんな元気だった? なかなか来れなくてごめんね」
ヒルデガルドに向かって歩いてきたのは、巣穴を守っていたヴォルフだった。
眠っていたのか、鈍い動作でヒルデガルドの肩へ顔を擦りつけてきた。
「起こしちゃったかな。うわあ、立派なお顔だね。ちゃんと覚えててくれたの、嬉しい」
クーンと、体の大きさに似合わないような小さい鳴き声を発しているヴォルフ。
ヒルデガルドの肩より少し高い位置にあるヴォルフの顔が、何度も擦りつけられている。
ルイーサとヒルデガルドが同時に巣穴の奥へ目をやると、いくつかの光る赤い目が見えた。
「みんなも元気なようね。ヒルデ、依頼を先に伝えておきましょ」
「ふふ、依頼……主人が依頼をするってつい笑ってしまいますね。あのね――」
ヒルデガルドは、トゥサイ村侵攻時のブーズ防衛の手伝いを、ヴォルフたちに依頼した。
巣穴にいるヴォルフ全頭が、心なしかキョトンとしているようだ。
「ねえヒルデ。そんなの造作もないと言いたそうに見えるのは私だけかしら」
「ふふふ。どうもそのようです。どこまで動いていいのかと聞いています」
「どこまでって――何も言わないと恐ろしいことになりそうね。その都度指示するからと伝えて」
ヒルデガルドがルイーサの言ったとおりに伝えると、頬ずりをしていたヴォルフが尻尾を振って見せた。
「移動は人の目に付かないように、あなた達のことを知っている方は大丈夫だけど、町の人は驚いてしまうから。注文ばかりでごめんね。終わったら一緒に遊ぼうね」
こうしてルイーサとヒルデガルドは、ヴォルフへの助っ人依頼を終えた。
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