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第三章 平和のための戦い
第四十五話 忙しさと安らぎ
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Szene-01 レアルプドルフ、町役場
「帰ってしまいましたねえ」
カシカルド王国からレアルプドルフへ弓を届けに来た輸送隊は、町長のもてなしを受けてゆっくり休んだ。
隊長はローデリカへの報告をしなければならないからと、名残惜しそうな隊員たちと共に帰国の途に就く。
その後ろ姿を弓の指導者として残る一部の兵士が見送った。
「さて――剣士様たちへ弓を配らないといけませんが、ダン様がいらっしゃらないと困りますね」
「配った後のことですか? 指導者がいらっしゃいますから、なんとかなると思われますが」
町長の秘書と化している受付係は、町長とは違って何の不安もないといった表情をする。
「あなたは妙に頼もしいところがありますね。それでは上級剣士様を集めてお話をしましょうか」
「ではそのようにお伝えしますね」
Szene-02 トゥサイ地区西端
武具屋店主の手下たちは、レアルプドルフの各所をくまなく見張っている。
トゥサイ地区の見回りをしている手下の一人が、まとめ役の男に情報を伝えていた。
「どうも町の端を小型の魔獣が走り抜けているようですぜ」
「よくあることじゃねえか」
「それが寄り道をしねえで止まらず、ひたすら走っているらしぃっす」
「となるとヒルデガルド絡みかもしれねえ。何か動きがあったのかもな――それなら俺らも動かねえといけねえ。東の方から来たならブーズかスクリアニアか。スクリアニアの情報ならなおさら調べねえと」
まとめ役は大きく息を吸い込んでから手下に言う。
「このことを東にいる連中に伝えろ。スクリアニアを探っているヤツらには、もう少し突っ込めとな」
指示を受けた男は黙ってうなずき、その場を立ち去った。
「ちったあ忙しくなりそうだな。差し当たりブーズの様子か」
Szene-03 カシカルド王国、カシカルド城ヨハナとヘルマの客間
ヨハナとヘルマは、なかなか寝付けないままゆったりと話を続けていた。
ベッドに座っていたヘルマは、半身を横たえて話を続ける。
「ヨハナと離れるのは寂しいな」
「ちょっと、私は相談をしているだけ。それにレアルプドルフを離れるなんて、考えられないもの」
ヘルマとの話が始まってからずっと椅子に座っているヨハナは、姿勢を崩さないままでいる。
「そうよね。私がもし一人きりだとしても、町から離れる気になれないな」
「色々な町を見て来たけれど、ここに居たいと思う町はなかったかな」
「楽しかったり居心地良い町もあったのにね」
ヘルマは両手を重ねて頬の枕にする。ダンを相手に軽口をたたいたりしているが、気の許せるヨハナと二人きりになると、とろんとした目でゆったりとした動きをする。
「剣士様たちがさ、楽しそうに話していたでしょ? そうなると入る余地なんてないから、ウルリカと私たちで話が盛り上がって」
「懐かしいよね。ローデリカ様はウルリカのことを忘れられずにいたから、気持ちはよくわかるの」
「うん――」
ヘルマの瞼が徐々に下がってゆく。ヨハナの語りが心地よいようだ。
「でも私だけでなく、エール様たちまでここに来るのはちょっとね。隙を見てダン様に相談しなきゃ」
「帰ってからでもいいのだろうけど、早い方がローデリカ様のお気持ちへの負担も軽くできるし」
ヘルマが小さくあくびをする。それを見てヨハナも椅子からベッドへと移動した。
「そろそろ寝ましょうか」
「うん――ふわあ、おやすみ」
ヘルマはヨハナが横に来ると脚をベッドに乗せて、仰向けになった。
それを見たヨハナにも眠気が訪れたようで、小さくあくびをすると目尻に少しだけ涙が乗った。
「おやすみ――」
二人とも姿勢よく仰向けになり、ほぼ同時に小さな寝息をたてて夢の中へと入った。
「帰ってしまいましたねえ」
カシカルド王国からレアルプドルフへ弓を届けに来た輸送隊は、町長のもてなしを受けてゆっくり休んだ。
隊長はローデリカへの報告をしなければならないからと、名残惜しそうな隊員たちと共に帰国の途に就く。
その後ろ姿を弓の指導者として残る一部の兵士が見送った。
「さて――剣士様たちへ弓を配らないといけませんが、ダン様がいらっしゃらないと困りますね」
「配った後のことですか? 指導者がいらっしゃいますから、なんとかなると思われますが」
町長の秘書と化している受付係は、町長とは違って何の不安もないといった表情をする。
「あなたは妙に頼もしいところがありますね。それでは上級剣士様を集めてお話をしましょうか」
「ではそのようにお伝えしますね」
Szene-02 トゥサイ地区西端
武具屋店主の手下たちは、レアルプドルフの各所をくまなく見張っている。
トゥサイ地区の見回りをしている手下の一人が、まとめ役の男に情報を伝えていた。
「どうも町の端を小型の魔獣が走り抜けているようですぜ」
「よくあることじゃねえか」
「それが寄り道をしねえで止まらず、ひたすら走っているらしぃっす」
「となるとヒルデガルド絡みかもしれねえ。何か動きがあったのかもな――それなら俺らも動かねえといけねえ。東の方から来たならブーズかスクリアニアか。スクリアニアの情報ならなおさら調べねえと」
まとめ役は大きく息を吸い込んでから手下に言う。
「このことを東にいる連中に伝えろ。スクリアニアを探っているヤツらには、もう少し突っ込めとな」
指示を受けた男は黙ってうなずき、その場を立ち去った。
「ちったあ忙しくなりそうだな。差し当たりブーズの様子か」
Szene-03 カシカルド王国、カシカルド城ヨハナとヘルマの客間
ヨハナとヘルマは、なかなか寝付けないままゆったりと話を続けていた。
ベッドに座っていたヘルマは、半身を横たえて話を続ける。
「ヨハナと離れるのは寂しいな」
「ちょっと、私は相談をしているだけ。それにレアルプドルフを離れるなんて、考えられないもの」
ヘルマとの話が始まってからずっと椅子に座っているヨハナは、姿勢を崩さないままでいる。
「そうよね。私がもし一人きりだとしても、町から離れる気になれないな」
「色々な町を見て来たけれど、ここに居たいと思う町はなかったかな」
「楽しかったり居心地良い町もあったのにね」
ヘルマは両手を重ねて頬の枕にする。ダンを相手に軽口をたたいたりしているが、気の許せるヨハナと二人きりになると、とろんとした目でゆったりとした動きをする。
「剣士様たちがさ、楽しそうに話していたでしょ? そうなると入る余地なんてないから、ウルリカと私たちで話が盛り上がって」
「懐かしいよね。ローデリカ様はウルリカのことを忘れられずにいたから、気持ちはよくわかるの」
「うん――」
ヘルマの瞼が徐々に下がってゆく。ヨハナの語りが心地よいようだ。
「でも私だけでなく、エール様たちまでここに来るのはちょっとね。隙を見てダン様に相談しなきゃ」
「帰ってからでもいいのだろうけど、早い方がローデリカ様のお気持ちへの負担も軽くできるし」
ヘルマが小さくあくびをする。それを見てヨハナも椅子からベッドへと移動した。
「そろそろ寝ましょうか」
「うん――ふわあ、おやすみ」
ヘルマはヨハナが横に来ると脚をベッドに乗せて、仰向けになった。
それを見たヨハナにも眠気が訪れたようで、小さくあくびをすると目尻に少しだけ涙が乗った。
「おやすみ――」
二人とも姿勢よく仰向けになり、ほぼ同時に小さな寝息をたてて夢の中へと入った。
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