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第四章 ボクたちの町
第四十話 目撃
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Szene-01 レアルプドルフ、ウンゲホイアー川西岸
ヘルムート海賊の一味は、ウンゲホイアー川に掛かる東西街道の橋上が騒々しくなったのを見て困惑していた。
「あいつら、何であんなに慌てているんだ?」
「ありゃあ襲われてるな。剣士らしき奴が飛んでいたから、レアルプドルフは弓から剣に持ち替えただけで後退したわけじゃあなさそうだ」
「弓相手でも剣士の方が対抗できるって、おもしれえ町だな。あの集団に突っ込んで来るぐらいなら、始めから剣でいいじゃねえか」
「レアルプドルフが使っていた矢なんだが、結構な上物だった。あの町はもしかすると強力な後ろ盾がいるのかもしれねえ」
「お、おい。何だよあれ」
橋上の様子を眺めながら話し込んでいた一味の耳に背後から悲鳴やうめき声が届き、全員で振り返った。
「ま、魔獣に襲われているのか!?」
魔獣に驚いたのも束の間、橋上からのうめき声が増していき、一味は目線を元に戻す。
隊列が崩れ、動きも鈍くなった兵士が目に入ると、再び背後からヴォルフの走り回る足音と共に悲鳴が響く。
一味は全員揃って音のする方へ首を振っていたため、小船がゆらゆらと揺れ始めた。
「やばいやばい! さっさと逃げようぜ」
「そう……だな、こりゃあ逃げるしかねえ。船長からも無傷でやり過ごすように言われているし……も、戻ろう」
満場一致で撤退が決まると、ヘルムート海賊は慌てて小船を水の流れに乗せて川を下った。
Szene-02 レアルプドルフ東部、東西街道上応援部隊
ダンの指示によりエールタインたちの応援として、ブーズの町壁から出撃したレアルプドルフの剣士部隊は、東西街道の橋に近づいた。
「あれはティベルダ――な、何を!?」
剣士部隊を率いる上級剣士は、橋上で微動だにしないスクリアニア兵と対面しているティベルダを視認した。
敵兵の中に一人の少女がいるという状況は、レアルプドルフの剣士がよく目にする光景である。
多くの少女は苦戦している姿を見せているものだが、剣士は不利な状況ではないことに違和感を覚える。しかしそれは少女の正体がティベルダであることを知るきっかけとなった。
ティベルダは多くの兵士を前にしているにも関わらず平気な顔――むしろ楽しんでいると取れる余裕を見せながら兵士の間を縫うように歩いている。
「あの子、一人一人に何をして回っているんだ?」
「な、何か話しかけているようだが――」
フリーズ状態の兵士と、ヒールではない能力を発動させているティベルダを初めて見る剣士たちは、走って来た勢いで加勢するつもりだったが思わず足を止めて様子を伺った。
Szene-03 レアルプドルフ東部、東西街道橋上
ティベルダはエールタインをちらりと見ると、目を赤色へと変えた。
「全員が悪い人ではないのかもしれないけど、エール様が剣を向ける人たちなら私にとっても敵でしかないの。もし戦いたくないなら、ザラさんを助けてくれた人みたいにすればいいもの。でもあなた達は町を傷つけに来て、素敵な人たちの気分を悪くするから許さない。いけない、お話している暇なんて無いのについ話しちゃった。エール様が待っているからすぐに済ませなきゃ。じゃあね」
ティベルダは動きをフリーズで封じられた兵士たち一人一人への声かけを終えると、ヴォルフの元へ戻った。
ヴォルフは軽く瞼を閉じて優しい表情を作ると、傍に来たティベルダに頬ずりをした。
ティベルダはヴォルフの頭を撫でて一息つき、小隊をじっと見つめる。
目の赤みが増して閃光のように激しく光ると、小隊は一瞬で消滅した。
「ふう。終わったからエール様のところへ行こっ」
ティベルダはヴォルフに手招きをしてエールタインの元へ向かおうとするが、ヴォルフは川の方を見て動こうとしない。
「川を見つめてどうしたの?」
ティベルダがヴォルフの見つめる先を見てみると、川を下るヘルムート海賊の一団が目に入った。
「あんな人たちいたっけ。敵なのかなあ」
ティベルダはヴォルフの顔を覗き込んで尋ねると、ヴォルフは小さく喉を鳴らして答えた。
「クルル」
「敵の仲間だけど無視していいの? そっかあ、気にしなくていいならエール様のお手伝いに行こうよ、報告はするから」
ヴォルフは尻尾を軽く振って承知したことを伝え、エールタインへと体を向けた。
「エール様、終わりましたあ。なんかあ、川に変な人たちが――」
ティベルダとヴォルフは、報告をしながらスクリアニア兵と交戦している主人の元へ向かった。
Szene-04 レアルプドルフ東部、東西街道上応援部隊
一部始終を見たレアルプドルフの剣士があんぐりと口を開けている中、部隊を率いる上級剣士がおもむろに言った。
「ティベルダ……見た目とやることが裏腹過ぎるだろ。エールタインはあの子を手懐けているんだな」
「エールタイン様の周りで起きた不思議な出来事はこれだったのか」
ティベルダの能力であるバースト・レイジを直に見て、噂でしか伝えられていなかった事実を知り、剣士たちは納得した。
「今は驚いている場合ではないな。さあ、町も彼女たちも守るぞ!」
呆気にとられていた応援部隊も意識を元に戻し、エールタインとルイーサの加勢に向かった。
ヘルムート海賊の一味は、ウンゲホイアー川に掛かる東西街道の橋上が騒々しくなったのを見て困惑していた。
「あいつら、何であんなに慌てているんだ?」
「ありゃあ襲われてるな。剣士らしき奴が飛んでいたから、レアルプドルフは弓から剣に持ち替えただけで後退したわけじゃあなさそうだ」
「弓相手でも剣士の方が対抗できるって、おもしれえ町だな。あの集団に突っ込んで来るぐらいなら、始めから剣でいいじゃねえか」
「レアルプドルフが使っていた矢なんだが、結構な上物だった。あの町はもしかすると強力な後ろ盾がいるのかもしれねえ」
「お、おい。何だよあれ」
橋上の様子を眺めながら話し込んでいた一味の耳に背後から悲鳴やうめき声が届き、全員で振り返った。
「ま、魔獣に襲われているのか!?」
魔獣に驚いたのも束の間、橋上からのうめき声が増していき、一味は目線を元に戻す。
隊列が崩れ、動きも鈍くなった兵士が目に入ると、再び背後からヴォルフの走り回る足音と共に悲鳴が響く。
一味は全員揃って音のする方へ首を振っていたため、小船がゆらゆらと揺れ始めた。
「やばいやばい! さっさと逃げようぜ」
「そう……だな、こりゃあ逃げるしかねえ。船長からも無傷でやり過ごすように言われているし……も、戻ろう」
満場一致で撤退が決まると、ヘルムート海賊は慌てて小船を水の流れに乗せて川を下った。
Szene-02 レアルプドルフ東部、東西街道上応援部隊
ダンの指示によりエールタインたちの応援として、ブーズの町壁から出撃したレアルプドルフの剣士部隊は、東西街道の橋に近づいた。
「あれはティベルダ――な、何を!?」
剣士部隊を率いる上級剣士は、橋上で微動だにしないスクリアニア兵と対面しているティベルダを視認した。
敵兵の中に一人の少女がいるという状況は、レアルプドルフの剣士がよく目にする光景である。
多くの少女は苦戦している姿を見せているものだが、剣士は不利な状況ではないことに違和感を覚える。しかしそれは少女の正体がティベルダであることを知るきっかけとなった。
ティベルダは多くの兵士を前にしているにも関わらず平気な顔――むしろ楽しんでいると取れる余裕を見せながら兵士の間を縫うように歩いている。
「あの子、一人一人に何をして回っているんだ?」
「な、何か話しかけているようだが――」
フリーズ状態の兵士と、ヒールではない能力を発動させているティベルダを初めて見る剣士たちは、走って来た勢いで加勢するつもりだったが思わず足を止めて様子を伺った。
Szene-03 レアルプドルフ東部、東西街道橋上
ティベルダはエールタインをちらりと見ると、目を赤色へと変えた。
「全員が悪い人ではないのかもしれないけど、エール様が剣を向ける人たちなら私にとっても敵でしかないの。もし戦いたくないなら、ザラさんを助けてくれた人みたいにすればいいもの。でもあなた達は町を傷つけに来て、素敵な人たちの気分を悪くするから許さない。いけない、お話している暇なんて無いのについ話しちゃった。エール様が待っているからすぐに済ませなきゃ。じゃあね」
ティベルダは動きをフリーズで封じられた兵士たち一人一人への声かけを終えると、ヴォルフの元へ戻った。
ヴォルフは軽く瞼を閉じて優しい表情を作ると、傍に来たティベルダに頬ずりをした。
ティベルダはヴォルフの頭を撫でて一息つき、小隊をじっと見つめる。
目の赤みが増して閃光のように激しく光ると、小隊は一瞬で消滅した。
「ふう。終わったからエール様のところへ行こっ」
ティベルダはヴォルフに手招きをしてエールタインの元へ向かおうとするが、ヴォルフは川の方を見て動こうとしない。
「川を見つめてどうしたの?」
ティベルダがヴォルフの見つめる先を見てみると、川を下るヘルムート海賊の一団が目に入った。
「あんな人たちいたっけ。敵なのかなあ」
ティベルダはヴォルフの顔を覗き込んで尋ねると、ヴォルフは小さく喉を鳴らして答えた。
「クルル」
「敵の仲間だけど無視していいの? そっかあ、気にしなくていいならエール様のお手伝いに行こうよ、報告はするから」
ヴォルフは尻尾を軽く振って承知したことを伝え、エールタインへと体を向けた。
「エール様、終わりましたあ。なんかあ、川に変な人たちが――」
ティベルダとヴォルフは、報告をしながらスクリアニア兵と交戦している主人の元へ向かった。
Szene-04 レアルプドルフ東部、東西街道上応援部隊
一部始終を見たレアルプドルフの剣士があんぐりと口を開けている中、部隊を率いる上級剣士がおもむろに言った。
「ティベルダ……見た目とやることが裏腹過ぎるだろ。エールタインはあの子を手懐けているんだな」
「エールタイン様の周りで起きた不思議な出来事はこれだったのか」
ティベルダの能力であるバースト・レイジを直に見て、噂でしか伝えられていなかった事実を知り、剣士たちは納得した。
「今は驚いている場合ではないな。さあ、町も彼女たちも守るぞ!」
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