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第一章
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物心ついた頃、神様はいないのだと私は悟った。私に無関心な親。ネグレストという言葉が世間で話題になった時に私の親はこれだなって何故か納得してしまって別に辛いとか助けて欲しいという気持ちはなかった。
毎回少ないけど、お金だけは置いてくれてたので食事には困ることはなかったし、たまに祖父母が様子を見に来てくれていた。ただ母が私に関心が無いだけなんだなと幼心に感じると成長と共に何もかも諦めたような達観した性格の持ち主になった。
自宅に訪れる男性が多すぎて、父が誰なのかは分からないし、性に奔放だった母親のせいで、同い年の女の子達が憧れる同級生の中での王子様や今流行りのアイドルにも興味が持てず、恋とか愛とかがよく分からない。
中学の時、物凄いイケメンの新任教師が来たと騒いでるクラスメイトの気持ちが分からず、どこがカッコイイの?と真顔で言ってしまってその後の中学生活は若干浮いた存在になってしまった。
それからは正直な自分の気持ちを友人に言うのも億劫になってしまった。
「あの…兼高さん、友達からでもいいので付き合って欲しい」
「……ごめんなさい。貴方の事知らないので」
母に感謝すべきだろうか。恋人をとっかえひっかえしている母似の私はどうやら容姿に優れているらしい。こうやって呼び出されるのも一回や二回ではない。学校から帰るときに連絡先を無理矢理渡されたのなんか数えられないほどだ。愛だの恋だの分からない私は真剣交際などもっての外だ。
試しに一回だけと言うので、デートというものをしてみたが…手を繋いだり、肩を抱かれたり、鞄を持たれたりするその行為がくすぐったいというか、母の過去の恋人達と重なって気持ちが悪かった。
ただ、毎回裏切られたと嘆き悲しむ母親を見て、いつか男性は裏切るものというのが深く印象に残り、頭に刷り込まれていった。
「これから知っていけばいいじゃん!」
「…今から違うバイトなんで、すみません」
昼間のバイト先のこんな必死な男性を見ても、私の頭の中はいい加減面倒だなとしか思えなかった。何故友達にならないといけないのだろうか。何故貴方の事を知らないといけないんだろうか。そんな事しか浮かばない私はどこかおかしいのかな。
「愛音!こんなとこにいた。ここのバイトもう終わったでしょ?ヘアメの予約遅刻するよ~」
「うん、今行く。じゃあ、行くね。気持ちはありがとう」
「え、あの!」
まだ何か言いたそうにしたけど、友人の小野百合の助けもあってなんとか逃げ出せた。あのままなら連絡先だけでもとしつこくされていたかもしれない。こんな時にいつも助けてくれる百合には感謝してもしきれない。
百合はとても可愛い。キリッとし、表情に乏しい私とは正反対の様な人物だ。コロコロと表情を変える彼女が羨ましいと思った事もある。これだけ器用に出来たら、もっと人生楽しめたかも知れない。
「今回はしつこかったねぇ~」
「三十分くらいかかった」
「別にキープしとけばいいのに不器用なんだから。なんだったら客にしちゃえばいいのに」
百合と仲良くなったのも、こうやって不本意な告白を受けている時だった。その時も映画遅れちゃうよと言って私の腕を引っ張って連れ出してくれた。
それから、高校でなんだかんだつるむ様になってフリーターにもなってもまだ仲が良いままだ。
「そろそろ…ちゃんと会社に勤めようかな。キャバクラも今日で辞めようと思う」
「え?まじ?」
「うん…バイト何個も掛け持ちするよりよくない?」
高校を卒業する時に考えなかったわけじゃない。けれど、高卒で何も資格が無い私の入社出来る所なんて給料がたかが知れてて、キャバクラの方が稼げるよという百合の言葉に魅力を感じてしまって、結局夜の世界に入った。
確かに稼げるし、働く時間も短い。でも、私には興味もない男性と長時間話すこと自体苦痛だった。指名客の熱っぽい視線を向けられると逃げたくなる。話題を探すのも辛いし、金を払っているんだからと高圧的な態度で来られると頼んでないと声を大にして言いたくなる。
向いてないなと最近より感じるのだ。だから、体を慣らすために昼間のバイトも始めた。
「んーでもさ、別に男が嫌いってわけじゃないんだよね?」
「まぁ、嫌いではないよ…多分」
「そっかぁ~そうねぇ~」
何か含みがある百合の言葉に不信感を抱きながらも、今日のヘアメイクをしてくれる美容院のドアを開ける。普段からこの美容院を利用しているのだが、担当者が問題なのだ。
「ラブちゃん、おはよ。今日はどうする?」
にこにこと屈託なく笑う彼は、黒野健司。毎回指名もしていないのに私のヘアメイクを担当してくれる美容師だ。世の中では、イケメンと呼ばれる部類の彼は誰にでも愛想よくて、他の常連客にケンちゃんなんて呼ばれている。私にも源氏名のラブという名からラブちゃんと気軽に呼んでくるのだが、そんなに親しくなった覚えもなければ、仲良くなりたいとも思っていない。
どちらかと言えば、誰にでも人当たりの良い彼は苦手な部類の男なのだ。
「あ、ケンちゃん。なんで、いつも愛音の担当なの?たまにはあたしもヘアメしてよ~」
「あはっ、百合ちゃんはいつも店長指名のくせによく言うよ」
ここの美容院、なんでいつも利用しているかと言えば…百合の想い人、店長の上条修二がいるからその付き添いだ。
修二は、店長という肩書に相応しく腕も確かで人気も高い。それに垂れ目で、色気を垂れ流しているんじゃないかってくらいの低音ボイス。これにメロメロになって常連になる女性客も多い。私も一度だけヘアメイクを担当された時に耳元で終わったよって言われた時は、くらっときそうだった。
「黒野さん、いつもと一緒でいいよ」
「そう?ちょっとアレンジとかしてみない?アップにするとか…」
「いい。キャバクラ、今日で辞めるし」
「え?本当?」
「そうなんだって~これからはあたしだけしか来ないよー。ケンちゃん、残念だね」
何が残念なんだろうと思いながら、手持ち無沙汰でスマートフォンを取り出す。今日来る指名客に今日で最後だと言わないといけないし、昨日読み途中だった恋愛小説も気になる。SNSで客に適当に今日で最後という内容を送り、いつも利用している小説サイトを開く。
こうなると他の人の声が聞こえなくなる私に無理に話しかけてこないのは、健司がよくその人を観察しているからだろう。
「はい、終わったよ」
「ありがとう、黒野さん」
綺麗に巻かれた髪に毎回感動してしまう。私ではこんなに綺麗に均等に巻けない。それになんだか、今日は少し清楚な気がするような…。いつもみたいなtheキャバ嬢です!みたいな巻き方じゃない。不思議そうに健司を見上げると分かった?と驚いたように言うのだ。
「ちょっとゆるやかに巻いてみたんだ!お疲れ様ってことで!」
「これからなのに?」
「あ、確かに!」
やっちゃったってミスしたように言うけど、きっと故意なのは分かってる。これはモテるわなと健司なりの配慮に感心してしまう。気負わず行っておいでってことなのかなって伝わるから不思議だ。
「ねぇ、絶対ケンちゃん愛音に気があるって」
「ふーん」
「え…ケンちゃんもダメな感じ?」
「ダメとかじゃないよ、今は弟と自分の事で精一杯ってだけ」
「本当勿体ない。活かさないなら、その顔面偏差値分けて欲しいよ」
健司のヘアメイクのおかげなのか、お店で辞める事に対して少し揉めたり、客にしつこくされたりと嫌なことが続いたけど、なんとか最終日を乗り切れた。緩く巻かれた髪は、最後まできちんと保たれていて、支えてくれたような気持ちになる。
後でお礼しないとなんて家までの帰り道にふと思った。
毎回少ないけど、お金だけは置いてくれてたので食事には困ることはなかったし、たまに祖父母が様子を見に来てくれていた。ただ母が私に関心が無いだけなんだなと幼心に感じると成長と共に何もかも諦めたような達観した性格の持ち主になった。
自宅に訪れる男性が多すぎて、父が誰なのかは分からないし、性に奔放だった母親のせいで、同い年の女の子達が憧れる同級生の中での王子様や今流行りのアイドルにも興味が持てず、恋とか愛とかがよく分からない。
中学の時、物凄いイケメンの新任教師が来たと騒いでるクラスメイトの気持ちが分からず、どこがカッコイイの?と真顔で言ってしまってその後の中学生活は若干浮いた存在になってしまった。
それからは正直な自分の気持ちを友人に言うのも億劫になってしまった。
「あの…兼高さん、友達からでもいいので付き合って欲しい」
「……ごめんなさい。貴方の事知らないので」
母に感謝すべきだろうか。恋人をとっかえひっかえしている母似の私はどうやら容姿に優れているらしい。こうやって呼び出されるのも一回や二回ではない。学校から帰るときに連絡先を無理矢理渡されたのなんか数えられないほどだ。愛だの恋だの分からない私は真剣交際などもっての外だ。
試しに一回だけと言うので、デートというものをしてみたが…手を繋いだり、肩を抱かれたり、鞄を持たれたりするその行為がくすぐったいというか、母の過去の恋人達と重なって気持ちが悪かった。
ただ、毎回裏切られたと嘆き悲しむ母親を見て、いつか男性は裏切るものというのが深く印象に残り、頭に刷り込まれていった。
「これから知っていけばいいじゃん!」
「…今から違うバイトなんで、すみません」
昼間のバイト先のこんな必死な男性を見ても、私の頭の中はいい加減面倒だなとしか思えなかった。何故友達にならないといけないのだろうか。何故貴方の事を知らないといけないんだろうか。そんな事しか浮かばない私はどこかおかしいのかな。
「愛音!こんなとこにいた。ここのバイトもう終わったでしょ?ヘアメの予約遅刻するよ~」
「うん、今行く。じゃあ、行くね。気持ちはありがとう」
「え、あの!」
まだ何か言いたそうにしたけど、友人の小野百合の助けもあってなんとか逃げ出せた。あのままなら連絡先だけでもとしつこくされていたかもしれない。こんな時にいつも助けてくれる百合には感謝してもしきれない。
百合はとても可愛い。キリッとし、表情に乏しい私とは正反対の様な人物だ。コロコロと表情を変える彼女が羨ましいと思った事もある。これだけ器用に出来たら、もっと人生楽しめたかも知れない。
「今回はしつこかったねぇ~」
「三十分くらいかかった」
「別にキープしとけばいいのに不器用なんだから。なんだったら客にしちゃえばいいのに」
百合と仲良くなったのも、こうやって不本意な告白を受けている時だった。その時も映画遅れちゃうよと言って私の腕を引っ張って連れ出してくれた。
それから、高校でなんだかんだつるむ様になってフリーターにもなってもまだ仲が良いままだ。
「そろそろ…ちゃんと会社に勤めようかな。キャバクラも今日で辞めようと思う」
「え?まじ?」
「うん…バイト何個も掛け持ちするよりよくない?」
高校を卒業する時に考えなかったわけじゃない。けれど、高卒で何も資格が無い私の入社出来る所なんて給料がたかが知れてて、キャバクラの方が稼げるよという百合の言葉に魅力を感じてしまって、結局夜の世界に入った。
確かに稼げるし、働く時間も短い。でも、私には興味もない男性と長時間話すこと自体苦痛だった。指名客の熱っぽい視線を向けられると逃げたくなる。話題を探すのも辛いし、金を払っているんだからと高圧的な態度で来られると頼んでないと声を大にして言いたくなる。
向いてないなと最近より感じるのだ。だから、体を慣らすために昼間のバイトも始めた。
「んーでもさ、別に男が嫌いってわけじゃないんだよね?」
「まぁ、嫌いではないよ…多分」
「そっかぁ~そうねぇ~」
何か含みがある百合の言葉に不信感を抱きながらも、今日のヘアメイクをしてくれる美容院のドアを開ける。普段からこの美容院を利用しているのだが、担当者が問題なのだ。
「ラブちゃん、おはよ。今日はどうする?」
にこにこと屈託なく笑う彼は、黒野健司。毎回指名もしていないのに私のヘアメイクを担当してくれる美容師だ。世の中では、イケメンと呼ばれる部類の彼は誰にでも愛想よくて、他の常連客にケンちゃんなんて呼ばれている。私にも源氏名のラブという名からラブちゃんと気軽に呼んでくるのだが、そんなに親しくなった覚えもなければ、仲良くなりたいとも思っていない。
どちらかと言えば、誰にでも人当たりの良い彼は苦手な部類の男なのだ。
「あ、ケンちゃん。なんで、いつも愛音の担当なの?たまにはあたしもヘアメしてよ~」
「あはっ、百合ちゃんはいつも店長指名のくせによく言うよ」
ここの美容院、なんでいつも利用しているかと言えば…百合の想い人、店長の上条修二がいるからその付き添いだ。
修二は、店長という肩書に相応しく腕も確かで人気も高い。それに垂れ目で、色気を垂れ流しているんじゃないかってくらいの低音ボイス。これにメロメロになって常連になる女性客も多い。私も一度だけヘアメイクを担当された時に耳元で終わったよって言われた時は、くらっときそうだった。
「黒野さん、いつもと一緒でいいよ」
「そう?ちょっとアレンジとかしてみない?アップにするとか…」
「いい。キャバクラ、今日で辞めるし」
「え?本当?」
「そうなんだって~これからはあたしだけしか来ないよー。ケンちゃん、残念だね」
何が残念なんだろうと思いながら、手持ち無沙汰でスマートフォンを取り出す。今日来る指名客に今日で最後だと言わないといけないし、昨日読み途中だった恋愛小説も気になる。SNSで客に適当に今日で最後という内容を送り、いつも利用している小説サイトを開く。
こうなると他の人の声が聞こえなくなる私に無理に話しかけてこないのは、健司がよくその人を観察しているからだろう。
「はい、終わったよ」
「ありがとう、黒野さん」
綺麗に巻かれた髪に毎回感動してしまう。私ではこんなに綺麗に均等に巻けない。それになんだか、今日は少し清楚な気がするような…。いつもみたいなtheキャバ嬢です!みたいな巻き方じゃない。不思議そうに健司を見上げると分かった?と驚いたように言うのだ。
「ちょっとゆるやかに巻いてみたんだ!お疲れ様ってことで!」
「これからなのに?」
「あ、確かに!」
やっちゃったってミスしたように言うけど、きっと故意なのは分かってる。これはモテるわなと健司なりの配慮に感心してしまう。気負わず行っておいでってことなのかなって伝わるから不思議だ。
「ねぇ、絶対ケンちゃん愛音に気があるって」
「ふーん」
「え…ケンちゃんもダメな感じ?」
「ダメとかじゃないよ、今は弟と自分の事で精一杯ってだけ」
「本当勿体ない。活かさないなら、その顔面偏差値分けて欲しいよ」
健司のヘアメイクのおかげなのか、お店で辞める事に対して少し揉めたり、客にしつこくされたりと嫌なことが続いたけど、なんとか最終日を乗り切れた。緩く巻かれた髪は、最後まできちんと保たれていて、支えてくれたような気持ちになる。
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