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第一章
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「え…どういう事?」
今日振り込まれるはずだったキャバクラでの給料が振り込まれない。もう十五時を回っているから今日の振り込みはないという事を示し、一気に緊張が走る。震える手で働いていた店に連絡を入れると店長が電話に出てくれた。
「すみません、ラブですけど…」
「あー何?店戻りたいの?」
いつも愛想が良かったはずの店長の面倒そうな声に一瞬怯むが、弟の大学の費用がかかっている。こんなことで怯んでいられない。
「給料が振り込まれていなくて…」
「え?あるわけないでしょ」
当然の如くいう店長に最初なんて答えたらいいのか分からず、沈黙してしまった。
「一体どういう…」
「勝手に当日に辞めたいって言われてさ、迷惑料だよ。迷惑料!」
「そ、そんなっ…!」
駄々っ子のような言い分通るはずないと何度も対話を持ちかけたが、店に戻ってくるなら払うとしか返されなかった。こんな事させて店に戻るなんて絶対に嫌だ。やっと抜け出せると思ったのに。
警察に行こうかと思ったが、店長に雇用契約は結んでいないから警察に行っても無駄だと言われたことが頭に浮かぶ。雇用契約を結んでいないのに働かせている事自体問題だけれど、そんな事を訴えている間に雄哉が高校を卒業してしまう。
今月入るはずだったお金がないと大学の初期費用や大学で必要なものも買ってあげられない。貯蓄もほとんど高校の費用で消えてしまうだろうし、ここが街中であるという事も忘れて絶望で座りこんでしまった。
「愛音…?」
「百合……」
「ちょっと!どうしたの!?こんな所で…とりあえず、あそこに入ろ?」
修二と一緒だった百合は、修二に謝って私と二人で居たいと言ったようだった。デートだったなら申し訳ない。でも、そんなことを考えられないほど私は憔悴していた。
「はぁ!?金払わない!?どういう事!?」
「勝手に辞めたから迷惑料だって…」
ガンっとテーブルを叩いた百合は、今にも血管が切れそうなほど顔面を真っ赤にして怒っていた。百合が般若の如く怒るから代わりに私は冷静になった気がする。百合が頼んでくれたコーヒーを口に入れると爽やかな香りが鼻を通り、心を少しだけ潤わせてくれる。
「もういいよ…他で仕事探すよ。それにまだ半年くらいあるから、それまでになんとか稼ぐし」
「なんとかって…三か月分でしょ?だから、日払いにしてもらえってってこんな事言ってもあれか…」
どうしてもお金を使いたくなかった私は、本当に馬鹿だったと思うけど三か月に一度貰う様にしてた。せめて一か月分だったのならって今は思う。けれど、今まで一度だって遅れたことはなかったし、店長も一緒に働いてる仲間も皆優しかったから安心してしまった。
「本当ごめん…この店紹介したのあたしだし…」
「百合が悪いわけじゃないでしょ?お店の問題だし」
「でも!愛音の三か月分の給料っていったら三百万はいってるはずじゃん!」
「もういいって…なんとかするしかないって私も分かってるし」
本当に分かっているんだろうか。今の私は途方のない現実に押しつぶされそうだった。
キャバクラが楽な仕事なんて思っていない。相手の気持ちを読み取り、さりげなく客を気持ちよくし、応援してもらう。これがいかに大変なことなのかは働いていた私もよく分かっている。見た目の良さだけで稼げないのは、辞めていった子達を見て痛いほど思い知らされた。ランキングが上位の子ほど血反吐を吐くような努力をしている。
私も稼ぐ為にニュースを毎朝見たり、インドアなのにゴルフを覚えたり、苦手な人が多かった為好きだった煙草を辞めた。そんな努力、もう出来ない。またやると考えたら全身が拒否するのだ。相当な無理をしてたんだなとつくづく思う。
「百合…煙草持ってる?」
「え…持ってるけど」
何もかも嫌になって、辞めて一年も経つのに今吸いたくなった。ただの趣向品にお金を使うのがもったいなかったのもあるが、その煙を吸って何もかも忘れてしまいたかった。
黒い箱から一本だけ取り出すと私に手渡してくる。メンソールの香りが漂い懐かしさを感じた。毎日、何箱吸ってるのかと弟に怒られていたっけ。カチッと音が聞こえ、ライターの火を近づけられる。煙草の先端が赤く光り、口の中にメンソールの爽快感が広がった後に肺がニコチンで満たされてゆく。吐き出した煙を見ながらもどうしたらいいのかと思考は燻ぶるばかりだった。
今日振り込まれるはずだったキャバクラでの給料が振り込まれない。もう十五時を回っているから今日の振り込みはないという事を示し、一気に緊張が走る。震える手で働いていた店に連絡を入れると店長が電話に出てくれた。
「すみません、ラブですけど…」
「あー何?店戻りたいの?」
いつも愛想が良かったはずの店長の面倒そうな声に一瞬怯むが、弟の大学の費用がかかっている。こんなことで怯んでいられない。
「給料が振り込まれていなくて…」
「え?あるわけないでしょ」
当然の如くいう店長に最初なんて答えたらいいのか分からず、沈黙してしまった。
「一体どういう…」
「勝手に当日に辞めたいって言われてさ、迷惑料だよ。迷惑料!」
「そ、そんなっ…!」
駄々っ子のような言い分通るはずないと何度も対話を持ちかけたが、店に戻ってくるなら払うとしか返されなかった。こんな事させて店に戻るなんて絶対に嫌だ。やっと抜け出せると思ったのに。
警察に行こうかと思ったが、店長に雇用契約は結んでいないから警察に行っても無駄だと言われたことが頭に浮かぶ。雇用契約を結んでいないのに働かせている事自体問題だけれど、そんな事を訴えている間に雄哉が高校を卒業してしまう。
今月入るはずだったお金がないと大学の初期費用や大学で必要なものも買ってあげられない。貯蓄もほとんど高校の費用で消えてしまうだろうし、ここが街中であるという事も忘れて絶望で座りこんでしまった。
「愛音…?」
「百合……」
「ちょっと!どうしたの!?こんな所で…とりあえず、あそこに入ろ?」
修二と一緒だった百合は、修二に謝って私と二人で居たいと言ったようだった。デートだったなら申し訳ない。でも、そんなことを考えられないほど私は憔悴していた。
「はぁ!?金払わない!?どういう事!?」
「勝手に辞めたから迷惑料だって…」
ガンっとテーブルを叩いた百合は、今にも血管が切れそうなほど顔面を真っ赤にして怒っていた。百合が般若の如く怒るから代わりに私は冷静になった気がする。百合が頼んでくれたコーヒーを口に入れると爽やかな香りが鼻を通り、心を少しだけ潤わせてくれる。
「もういいよ…他で仕事探すよ。それにまだ半年くらいあるから、それまでになんとか稼ぐし」
「なんとかって…三か月分でしょ?だから、日払いにしてもらえってってこんな事言ってもあれか…」
どうしてもお金を使いたくなかった私は、本当に馬鹿だったと思うけど三か月に一度貰う様にしてた。せめて一か月分だったのならって今は思う。けれど、今まで一度だって遅れたことはなかったし、店長も一緒に働いてる仲間も皆優しかったから安心してしまった。
「本当ごめん…この店紹介したのあたしだし…」
「百合が悪いわけじゃないでしょ?お店の問題だし」
「でも!愛音の三か月分の給料っていったら三百万はいってるはずじゃん!」
「もういいって…なんとかするしかないって私も分かってるし」
本当に分かっているんだろうか。今の私は途方のない現実に押しつぶされそうだった。
キャバクラが楽な仕事なんて思っていない。相手の気持ちを読み取り、さりげなく客を気持ちよくし、応援してもらう。これがいかに大変なことなのかは働いていた私もよく分かっている。見た目の良さだけで稼げないのは、辞めていった子達を見て痛いほど思い知らされた。ランキングが上位の子ほど血反吐を吐くような努力をしている。
私も稼ぐ為にニュースを毎朝見たり、インドアなのにゴルフを覚えたり、苦手な人が多かった為好きだった煙草を辞めた。そんな努力、もう出来ない。またやると考えたら全身が拒否するのだ。相当な無理をしてたんだなとつくづく思う。
「百合…煙草持ってる?」
「え…持ってるけど」
何もかも嫌になって、辞めて一年も経つのに今吸いたくなった。ただの趣向品にお金を使うのがもったいなかったのもあるが、その煙を吸って何もかも忘れてしまいたかった。
黒い箱から一本だけ取り出すと私に手渡してくる。メンソールの香りが漂い懐かしさを感じた。毎日、何箱吸ってるのかと弟に怒られていたっけ。カチッと音が聞こえ、ライターの火を近づけられる。煙草の先端が赤く光り、口の中にメンソールの爽快感が広がった後に肺がニコチンで満たされてゆく。吐き出した煙を見ながらもどうしたらいいのかと思考は燻ぶるばかりだった。
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