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最終章
知らなかったんだ ダニエルside
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何日かに一度、ベンジャミンはベンと名乗ってやってくる。それを追い返すことはしない。キャサリンが楽しそうに話しているのを見てから邪魔するのは可哀想だと何も言わなかった。
けど、またベンジャミンに恋心を抱かないか心配で…いつも様子を伺ってしまう。そんな自分に気づいているようにキャサリンは紅茶のおかわりを頼む。きっと嫉妬しているとは思ってはいないと思う。
話の内容は他愛もないものが多かった。けれど、たまに自分の話も出てくるから思わず耳を傾けてしまう。
「婚約者がいたんだろ?離婚した後…どうして結婚しなかったんだ?」
余計な事を言うなとベンジャミンに目配せしたけれど、自分から全容を聞き出せなかったからキャサリンから聞くつもりなんだと分かった。
「そうなの、婚約者がいたのだけれど…私のせいで破棄になってしまって申し訳ないわ…」
その言葉に紅茶のおかわりを入れていた手が止まる。なんでキャシーのせい?違うよ。自分のせいなのに。
「それに最後に貴方のせいで睡眠薬を飲んだわけじゃないってはっきり言えなくて…」
「え?違うのか?」
「確かに雨に打たれて熱で意識が朦朧としていて、睡眠薬を飲んだわ。けれど、自分が何錠飲んだか分からないくらいだったのよ。決して自殺とか考えていたわけじゃないんだけれど…皆誤解しているのよ。両親ですら何度言っても聞いてくれないんですもの」
初めて聞いた。あの日の事、そうだったんだ。キャサリンは自殺しようとしてなかったのかと少しだけ心が温かくなった。
「でもね…タイミングが悪かったの。丁度、昔に娼館通いしてたって分かった時だったし。それに…」
キャサリンの目が空に向けられていた。きっと空は彼女の目には映らない。それでも、彼女は何かを憂うように空を見上げていた。
「彼、不妊だったのよ…」
「え……」
ベンジャミンの目も大きく開いたが、それ以上に自分も驚きで声が出てしまった。
不妊??え??なんだっけ、それ。
「なかなか両親が許してくれないから子でも作って無理矢理結婚に持ち込んでしまおうって考えてたの」
「そ、そうなのか…」
「でも、いつまで経っても子は出来ないし。病院に行ったの、自分の体を調べて貰うために。でも、私が原因じゃなかった。だから、こっそり彼の体液を病院に持って行ったのよ。はぁ、本当私って臆病よね…彼に聞けばよかったのに」
「いや、仕方ないんじゃないか?それくらい不安だったんだろう?」
そんな話知らない、そんなに思い詰めてたのかと初めて知る。自分はキャシーと一緒に居られれば、それで良かったから子なんていつか出来るだろうくらいにしか思っていなかった。
「不安というより、早く彼と結婚したかったの。元夫は初めて愛というものを教えてくれたけど、彼は愛されるという事を教えてくれた人だったから」
「…………」
ベンジャミンの顔がくしゃりと乱れた。好きな女から自分とは違う人への恋心を聞くのはとても辛いのだろう。自分はいつも聞いていたからよくわかる。
「病院でね、子種の数が少なすぎるし、弱いって…避妊薬とか薬の影響じゃないかって言われて。そんなに私と子を作りたくなかったのかって落胆しちゃって…」
違うよ…僕は君との閨で避妊薬なんて飲んでない…。
「そしたら、娼婦の方からダニエルの相手は疲れるだろうなんて聞かされちゃって…。娼館では避妊薬飲むのか普通だし。そのせいで子が出来ないのかって…気が動転してたのね、雨の中帰って、薬を飲んで寝るつもりだったのに大量に飲んでしまってこの有様…」
普通娼館は毎日来る客は居ない。避妊薬の毒性のせいだ。男性側に飲ませるか、女性側に飲ませるかで揉めるくらいにナイーブな問題なのだ。けれど、自分は何か月もほぼ毎日飲んでいた。子種が少ないのは自分の娼館通いのせいだった。
結局、自分のせいだ。キャサリンが思い悩んだのも、意識が朦朧とするほどに雨に打たれたのも、朦朧として薬を飲んだのも。
けど、またベンジャミンに恋心を抱かないか心配で…いつも様子を伺ってしまう。そんな自分に気づいているようにキャサリンは紅茶のおかわりを頼む。きっと嫉妬しているとは思ってはいないと思う。
話の内容は他愛もないものが多かった。けれど、たまに自分の話も出てくるから思わず耳を傾けてしまう。
「婚約者がいたんだろ?離婚した後…どうして結婚しなかったんだ?」
余計な事を言うなとベンジャミンに目配せしたけれど、自分から全容を聞き出せなかったからキャサリンから聞くつもりなんだと分かった。
「そうなの、婚約者がいたのだけれど…私のせいで破棄になってしまって申し訳ないわ…」
その言葉に紅茶のおかわりを入れていた手が止まる。なんでキャシーのせい?違うよ。自分のせいなのに。
「それに最後に貴方のせいで睡眠薬を飲んだわけじゃないってはっきり言えなくて…」
「え?違うのか?」
「確かに雨に打たれて熱で意識が朦朧としていて、睡眠薬を飲んだわ。けれど、自分が何錠飲んだか分からないくらいだったのよ。決して自殺とか考えていたわけじゃないんだけれど…皆誤解しているのよ。両親ですら何度言っても聞いてくれないんですもの」
初めて聞いた。あの日の事、そうだったんだ。キャサリンは自殺しようとしてなかったのかと少しだけ心が温かくなった。
「でもね…タイミングが悪かったの。丁度、昔に娼館通いしてたって分かった時だったし。それに…」
キャサリンの目が空に向けられていた。きっと空は彼女の目には映らない。それでも、彼女は何かを憂うように空を見上げていた。
「彼、不妊だったのよ…」
「え……」
ベンジャミンの目も大きく開いたが、それ以上に自分も驚きで声が出てしまった。
不妊??え??なんだっけ、それ。
「なかなか両親が許してくれないから子でも作って無理矢理結婚に持ち込んでしまおうって考えてたの」
「そ、そうなのか…」
「でも、いつまで経っても子は出来ないし。病院に行ったの、自分の体を調べて貰うために。でも、私が原因じゃなかった。だから、こっそり彼の体液を病院に持って行ったのよ。はぁ、本当私って臆病よね…彼に聞けばよかったのに」
「いや、仕方ないんじゃないか?それくらい不安だったんだろう?」
そんな話知らない、そんなに思い詰めてたのかと初めて知る。自分はキャシーと一緒に居られれば、それで良かったから子なんていつか出来るだろうくらいにしか思っていなかった。
「不安というより、早く彼と結婚したかったの。元夫は初めて愛というものを教えてくれたけど、彼は愛されるという事を教えてくれた人だったから」
「…………」
ベンジャミンの顔がくしゃりと乱れた。好きな女から自分とは違う人への恋心を聞くのはとても辛いのだろう。自分はいつも聞いていたからよくわかる。
「病院でね、子種の数が少なすぎるし、弱いって…避妊薬とか薬の影響じゃないかって言われて。そんなに私と子を作りたくなかったのかって落胆しちゃって…」
違うよ…僕は君との閨で避妊薬なんて飲んでない…。
「そしたら、娼婦の方からダニエルの相手は疲れるだろうなんて聞かされちゃって…。娼館では避妊薬飲むのか普通だし。そのせいで子が出来ないのかって…気が動転してたのね、雨の中帰って、薬を飲んで寝るつもりだったのに大量に飲んでしまってこの有様…」
普通娼館は毎日来る客は居ない。避妊薬の毒性のせいだ。男性側に飲ませるか、女性側に飲ませるかで揉めるくらいにナイーブな問題なのだ。けれど、自分は何か月もほぼ毎日飲んでいた。子種が少ないのは自分の娼館通いのせいだった。
結局、自分のせいだ。キャサリンが思い悩んだのも、意識が朦朧とするほどに雨に打たれたのも、朦朧として薬を飲んだのも。
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