自分では満足出来ない旦那様へ

りこりー

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最終章

そうなると思ってたの

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 実は、マイクがダニエルだと私は知っている。

 どこで気づいたかって?ベンジャミンが最初に現れた時、外で大きな声で二人が怒鳴り合っていた時よ。実はベンジャミンもその時にベンジャミンだと気が付いた。聞こえないわけないじゃない。そんなに大きな屋敷でもないのに。一緒に居たララもバレちゃったかと言ってたから自分が知っていることを黙っててと念押ししといた。

 知らんぷりするのは楽しい。どんな顔をしているのが分からないのが少しだけ寂しいけれど、嘘つかれたんだからこのくらい許して欲しいわ。

「マイク、この服脱がしてくれる?」

「…は、はい」

 本当だったらいつもララに頼むのだけれど、なんだか意地悪したくなった。だって、自分の気持ちを言ったのに何もアクションを起こしてこないんだもの。

 服のファスナーを下ろすとプルプルとダニエルの指先が震えているのが伝わってくる。笑いそうな顔を必死に隠すので一生懸命だったと思う。何度も自分の裸なんて見てるだろうに何をそんなに震える必要があるんだろうか。服を渡して、夜着に着替えようとするとそれも手伝ってくれるみたいだ。

 やっぱり優しいのね、貴方は。

「マイクって結婚しないの?」

「私は…執事として生きてゆくつもりなので…」

「じゃあ、女性に触れたことは?」

「…あります」

「そうなのね。恋人がいたの?」

「…はい、いました。別れてもずっとその方だけを想っています」

「その人と結婚しないの?」

「そんな資格…僕にはありません」

「ふふ、一人称が僕に戻ってるわよ、ダニー。お芝居は辞めたの?」

 その言葉を言うと強く抱きしめられた。今下着姿だからダニエルから伝わってくる涙が直接肌に当たって冷たい。

「ど、どうして…?なんで…?キャシー…」

 ダニエルの頬に手を伸ばすと布が巻かれていることに気が付いた。これで籠ったようなしゃがれたような声に聞こえていたのねと笑える。ここまでして自分と共に居たかったのだと知るとなんだかくすぐったい。それに愛おしい。

「外で喧嘩するなら遠くでしないと駄目よ」

「そんな前から気が付いていたの…?」

「ふふ、だって、ダニーも嘘ついていたんだからこのくらい可愛いものよね」

「うん、うん…ごめん」

「ただの痴話喧嘩なのにここまで話が大きくなってごめんなさい」

「ちがっ…僕のせいで…目も足も…」

「いいえ、それは自己責任よ」

 優しく抱きしめ返すともっと強い力で抱きしめてくるものだから苦しいし、お腹に何か固いものが当たっている気がする。

「ダニー……」

「ご、ごめん…下着姿だから…その…」

「体が万全なわけではないから優しくしてくれる?」

 もちろんと言われた時に、滲みながらもいつも見てきたダニエルの笑顔が見えた気がした。何年も見てないからダニエルの顔を忘れそうで怖った。今だけでも少しだけでも感じていたい。
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