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レオンハルトと共に小道を歩いていると、ふいに視界の端に淡い紅色が揺れる。
洋風の庭園の一番奥、小さな池のほとりに一本のしだれ桜が植えられていた。
この庭に不釣り合いな花なのに、何故か一番しくっりくるのはどうしてだろう。
柔らかな薄紅がそよ風に揺れ、池には数枚の花弁が浮かんでいる。
思わず足が止めたカナデに、レオンハルトが声をかけた。
「気になるのか?」
「わっ……」
返事をするより早く、レオンハルトの腕がカナデの身体を軽々と抱き上げた。驚きに声も出ないまま、しだれ桜のすぐ近くまで連れていかれる。
「じ、自分で歩けます」
「私がこうしたいだけだ。気にするな」
息が触れそうな距離でそう言われて、胸の奥が僅かに痛む。嫌なわけではなく、戸惑いが先に立つのが自分でも不思議だった。
近くで見る桜は、池面に影を落として静かに揺れている。その揺らぎを見つめているうちに、胸の奥で何かがざわついた。
(……この景色、知ってる。前にも……?)
前世の記憶だと気づいて、息が詰まる。確かに自分は、これと似た景色を見た。
誰かの手に引かれ、桜の下へ行く。そして抱き上げられ……そこから先は思い出せない。ただ曖昧な感覚だけが脳裏を掠めて消えた。
「綺麗なお庭ですね。この、しだれ桜も立派で……」
気持ちを誤魔化すように、カナデは庭を賛美する言葉を口に乗せる。
するとレオンハルトが静かに答えた。
「カナデが気に入ってくれたのなら、私は嬉しい」
ふと顔を上げると、レオンハルトの碧い瞳がすぐ目の前にあった。春の光をそのまま閉じ込めたみたいに澄んだ色が、まっすぐにカナデを見ている。
ふわりと微笑むその表情は、これまで見たどんな景色よりも綺麗で言葉を失ってしまう。
「閣下……」
つい呼んでしまうと、彼の瞳がかすかに陰る。
「どうか名で呼んでほしい」
懇願にも似た声音だった。
自分より上位の彼がこんなにも弱い声を出すことに、胸が締めつけられる。
しかしたとえ番であっても、人間と竜人とでは立場が番いすぎる。
「できません」と言いかけてたカナデは、レオンハルトが苦しげに自分を見つめていると気づく。
その表情を見た瞬間、カナデの口から自然と言葉がこぼれ落ちた。
「――レオンハルト」
名を呼ぶと、レオンハルトの瞳が揺れる。喜びと慈しみ。そして僅かの悲しみが、彼の瞳に宿っている。
「カナデ」
その声音があまりにも優しくて、息を呑む。
次の瞬間、顎に彼の手が触れた。拒む暇すらなく、唇が重ねられる。
その口づけは驚くほど優しかった。啄むように唇を吸われ、角度を変えて再び重なる。
舌先がカナデの唇をなぞるけれど、慣れないカナデを気遣ってか、それ以上は踏み込んでこない。
けれど胸の奥まで、温かいものが染み渡っていく。
少しだけ怖い、と思う。きっとそれは、優しすぎれ触れ合いが怖いのだ。現に彼の腕から逃げたいとは思わない。
洋風の庭園の一番奥、小さな池のほとりに一本のしだれ桜が植えられていた。
この庭に不釣り合いな花なのに、何故か一番しくっりくるのはどうしてだろう。
柔らかな薄紅がそよ風に揺れ、池には数枚の花弁が浮かんでいる。
思わず足が止めたカナデに、レオンハルトが声をかけた。
「気になるのか?」
「わっ……」
返事をするより早く、レオンハルトの腕がカナデの身体を軽々と抱き上げた。驚きに声も出ないまま、しだれ桜のすぐ近くまで連れていかれる。
「じ、自分で歩けます」
「私がこうしたいだけだ。気にするな」
息が触れそうな距離でそう言われて、胸の奥が僅かに痛む。嫌なわけではなく、戸惑いが先に立つのが自分でも不思議だった。
近くで見る桜は、池面に影を落として静かに揺れている。その揺らぎを見つめているうちに、胸の奥で何かがざわついた。
(……この景色、知ってる。前にも……?)
前世の記憶だと気づいて、息が詰まる。確かに自分は、これと似た景色を見た。
誰かの手に引かれ、桜の下へ行く。そして抱き上げられ……そこから先は思い出せない。ただ曖昧な感覚だけが脳裏を掠めて消えた。
「綺麗なお庭ですね。この、しだれ桜も立派で……」
気持ちを誤魔化すように、カナデは庭を賛美する言葉を口に乗せる。
するとレオンハルトが静かに答えた。
「カナデが気に入ってくれたのなら、私は嬉しい」
ふと顔を上げると、レオンハルトの碧い瞳がすぐ目の前にあった。春の光をそのまま閉じ込めたみたいに澄んだ色が、まっすぐにカナデを見ている。
ふわりと微笑むその表情は、これまで見たどんな景色よりも綺麗で言葉を失ってしまう。
「閣下……」
つい呼んでしまうと、彼の瞳がかすかに陰る。
「どうか名で呼んでほしい」
懇願にも似た声音だった。
自分より上位の彼がこんなにも弱い声を出すことに、胸が締めつけられる。
しかしたとえ番であっても、人間と竜人とでは立場が番いすぎる。
「できません」と言いかけてたカナデは、レオンハルトが苦しげに自分を見つめていると気づく。
その表情を見た瞬間、カナデの口から自然と言葉がこぼれ落ちた。
「――レオンハルト」
名を呼ぶと、レオンハルトの瞳が揺れる。喜びと慈しみ。そして僅かの悲しみが、彼の瞳に宿っている。
「カナデ」
その声音があまりにも優しくて、息を呑む。
次の瞬間、顎に彼の手が触れた。拒む暇すらなく、唇が重ねられる。
その口づけは驚くほど優しかった。啄むように唇を吸われ、角度を変えて再び重なる。
舌先がカナデの唇をなぞるけれど、慣れないカナデを気遣ってか、それ以上は踏み込んでこない。
けれど胸の奥まで、温かいものが染み渡っていく。
少しだけ怖い、と思う。きっとそれは、優しすぎれ触れ合いが怖いのだ。現に彼の腕から逃げたいとは思わない。
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