オー・マイ・メサイア ~バタフライ~

Mizutani Manager

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6.後悔してるのかな…

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 朝起きると渡辺はいなかった。

 今日は朝から仕事って言ってたもんな…一日一緒にいたかったのに…そう思いながら布団を出ようとして…もっと余韻に浸りたくなり、布団をかぶりなおす。

 はっきり残る渡辺の感触。優しくきつく抱きしめる腕。激しく自分を求める舌。内壁をこする燃えるような熱さ。
 全てをリアルに思い出しながら、樹は体が火照るのを感じて…焦ってシャワーに向かった。このまま余韻に浸っていたら…自分を慰める破目になる。それより今日も抱いてもらった方がいい…

 だけど…渡辺はセフレではない。
 他の男たちと違い、樹にとって特別な存在。そんな渡辺に“抱いて”なんて言えるわけがない。
 第一、どうして抱いてくれたのかもわからない。渡辺が男に興味があるなんて聞いたこともない。

 …じゃあ…自分が落ち込んでいたから同情で?

 胸をえぐられるような痛みを感じ、樹は考えるのをやめて…料理を始めた。


 ***
 ドアが開く音がして玄関に走り出た樹は、渡辺の顔を見た途端…出てきたことを後悔した。
 昨日の今日で顔を合わせるのが、たまらなく恥ずかしかったから。
 自分が首まで真っ赤になっているのを感じながら平静を装う。

「お、おかえり」
「あれ、家にいたのか?」
「今日は買い物に行っただけ」

 珍しく早く帰った渡辺は、その時間に樹が家にいることに驚いた様子。いつもならジムに行っているはずの時間だから。

「体…つらいのか?」
「え?」

 乱暴にしたつもりはないけど、やりすぎたんだろうかと心配になった渡辺が、うつむいた樹の顔を覗き込む。

「ち、違う…料理してだけ…」

 自分と目を合わせようとしない樹の姿に、激しい後悔が渡辺を襲った。

 無言のままシャワーを浴びて食卓につく渡辺に、雰囲気を変えようと明るい声で樹が言った。
「心配しないで、今日のは上手くいってるはずだから。っていうか、僕はうどんを茹でただけ。後は全部冷凍ものだから、心配しなくてもちゃんと食べれるよ」
「そうか…」

 食事の間も反応がない。ただ黙々と食べる渡辺。

 昨日のこと、後悔してるのかな…

 ストレートな渡辺が自分に欲情するはずがない…でも昨日は愛されていると感じた。求められていると思った。それは自分の錯覚だったんだろうか…そもそも渡辺はなぜ自分を抱いたんだろう…と、様々な考えが樹の頭の中をグルグルまわる。

 食事が終わった後も沈黙が続き…渡辺は自分をどう思っているのだろう…やはり何かの間違いだったんだろうか…樹が考え込んでいると、渡辺が口を開いた。

「明日から2週間、南米に行ってくる」
「え?」
「現地のカメラマンが突然辞めたから、日本からわざわざ行くことになった」
「…2週間も…」
「移動だけで3日かかるんだ」
「そう…」

 行くなとは言えない。だけどこの状態で2週間も一人にされたら…自分はどうなってしまうんだろうと、樹は不安でいっぱいになった。

「じゃあ、もう寝よう。樹も明日仕事だろう」
「うん…」
「おやすみ」
「おやすみなさい」
「樹…昨日は…すまなかった」
「え?」

 振り向くと渡辺は部屋に消えた後だった。
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