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一時間千円とかでどう?
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「――というわけで、今週もよろしく頼む」
「「はい」」
新卒で入社して以来、可もなく不可もなくそれなりにうまくやってきた。
こう見えておれは他人からの評価がわりと気になる性質(たち)で、平たく言ってしまえばついだれにでもいい恰好をしたくなってしまうこともあり、会社でもそう振舞っているうちおれを気に入ってくれる人も増えてくれば結果も自然についてきた。
なのに半年ほど前に新卒の頃から世話になった先輩が独立してしまい、なんやかんやと組織が再編されて気がつけば中間管理職になっていた。
なにが課長代理だ、ただただ責任が増えただけっつうのが勘弁してほしい。
おれは褒められて伸びるタイプだっつうのに、毎日のように上から詰められたって正直知らんがなとしか言いようもない。
「あれ先輩、寝不足ですか」
デスクに戻ろうとするところに声をかけてきたのは、後輩の冴島だ。おれが昇進したことで、形式上は一応部下ということになっている。
「いや、そんなでもないんだが」
「課長代理のあなたがしっかりしてくれないと僕たちの評価もかかってますからね、飲み会もほどほどにして下さいよ」
「そりゃあ、そうだよな」
別に飲みに行っていたわけではないが、ここで否定するのもダサいしもういうことでいい。
「つうかお前も大概だろ」
「まあ……そうですね、いちいち絡んでくる先輩がいると集中できなくて」
「はん、悪かったな」
「まあ冗談ですけど」
「ははっ、そりゃどうも」
***
「お兄さん、疲れてるでしょ。よかったらウチ、来てみない?」
そんな軽い誘い文句で声を掛けてきたのはちょっとチャラそうな白衣を着た男。
「はあ……間に合ってますけど」
ぐいと手元にチラシを押しつけてきたので仕方なく受け取りはしたものの、どうせ行く予定もないからこの紙も勿体無い。
とはいえ余計な応酬をするほうがお互い時間の無駄だと経験則で、雑にポケットに突っ込みながら目を伏せ通り過ぎていく。
慢性的に身体が怠いのは、もう自分はこういう体質だからだとすっかり諦めたのはもう十何年も前の話だ。だからそれが違和感だとすらも思わなくなっていて、これがおれの通常運転だ。
当然おれだって、藁をもすがる気持ちで口コミ情報を頼りに何軒ものマッサージ店を渡り歩いたこともある。
だが身体が軽くなったような気がするのはその瞬間だけで、そのまままっすぐ帰って自宅にたどり着く頃にはとっくに何事もなかったかのように、なんなら揺り戻しすら来るからもうだめだった。
言っちゃあ悪いが、おれにとっては少なくとも金ドブでしかなくてもうやめた。
「ねえ、ちょっとだけ。話聞いてよ」
「っあ?」
俺としてはとっくに振り切っていたはずの男の声に、思わずビクリと肩が跳ねる。
「どこでなにやってもダメだった? ならちょっとだけ試してみてよ。安くするからさ……うん、一時間千円とかでどう? ね、おいでよ」
「…………」
上手いな。もしもタダだと言われればタダより高いものはないと断る理由になるものの、たまには試してやるかと思わせられる絶妙な金額設定だ……って、いや待て、普通に断わりゃいいじゃねえか。なんでおれはこんなやつに流されそうになってんだ。
「いや、このあと用事が……っ、あ」
「ああほら、そんなにふらついて」
さっさとここを離れようと一歩を踏み出そうとした途端に血の気が引いたように目の前が暗くなり、不本意ながらこの目の前の男に抱きとめられる。ああやべえ、これはだめなやつだ。
「へえ、これは久々にすごいのきたな。うん、今すぐ休んだほうがいい……ほら、おいで」
「……ああ、悪い」
「いい子、大丈夫だからね」
「「はい」」
新卒で入社して以来、可もなく不可もなくそれなりにうまくやってきた。
こう見えておれは他人からの評価がわりと気になる性質(たち)で、平たく言ってしまえばついだれにでもいい恰好をしたくなってしまうこともあり、会社でもそう振舞っているうちおれを気に入ってくれる人も増えてくれば結果も自然についてきた。
なのに半年ほど前に新卒の頃から世話になった先輩が独立してしまい、なんやかんやと組織が再編されて気がつけば中間管理職になっていた。
なにが課長代理だ、ただただ責任が増えただけっつうのが勘弁してほしい。
おれは褒められて伸びるタイプだっつうのに、毎日のように上から詰められたって正直知らんがなとしか言いようもない。
「あれ先輩、寝不足ですか」
デスクに戻ろうとするところに声をかけてきたのは、後輩の冴島だ。おれが昇進したことで、形式上は一応部下ということになっている。
「いや、そんなでもないんだが」
「課長代理のあなたがしっかりしてくれないと僕たちの評価もかかってますからね、飲み会もほどほどにして下さいよ」
「そりゃあ、そうだよな」
別に飲みに行っていたわけではないが、ここで否定するのもダサいしもういうことでいい。
「つうかお前も大概だろ」
「まあ……そうですね、いちいち絡んでくる先輩がいると集中できなくて」
「はん、悪かったな」
「まあ冗談ですけど」
「ははっ、そりゃどうも」
***
「お兄さん、疲れてるでしょ。よかったらウチ、来てみない?」
そんな軽い誘い文句で声を掛けてきたのはちょっとチャラそうな白衣を着た男。
「はあ……間に合ってますけど」
ぐいと手元にチラシを押しつけてきたので仕方なく受け取りはしたものの、どうせ行く予定もないからこの紙も勿体無い。
とはいえ余計な応酬をするほうがお互い時間の無駄だと経験則で、雑にポケットに突っ込みながら目を伏せ通り過ぎていく。
慢性的に身体が怠いのは、もう自分はこういう体質だからだとすっかり諦めたのはもう十何年も前の話だ。だからそれが違和感だとすらも思わなくなっていて、これがおれの通常運転だ。
当然おれだって、藁をもすがる気持ちで口コミ情報を頼りに何軒ものマッサージ店を渡り歩いたこともある。
だが身体が軽くなったような気がするのはその瞬間だけで、そのまままっすぐ帰って自宅にたどり着く頃にはとっくに何事もなかったかのように、なんなら揺り戻しすら来るからもうだめだった。
言っちゃあ悪いが、おれにとっては少なくとも金ドブでしかなくてもうやめた。
「ねえ、ちょっとだけ。話聞いてよ」
「っあ?」
俺としてはとっくに振り切っていたはずの男の声に、思わずビクリと肩が跳ねる。
「どこでなにやってもダメだった? ならちょっとだけ試してみてよ。安くするからさ……うん、一時間千円とかでどう? ね、おいでよ」
「…………」
上手いな。もしもタダだと言われればタダより高いものはないと断る理由になるものの、たまには試してやるかと思わせられる絶妙な金額設定だ……って、いや待て、普通に断わりゃいいじゃねえか。なんでおれはこんなやつに流されそうになってんだ。
「いや、このあと用事が……っ、あ」
「ああほら、そんなにふらついて」
さっさとここを離れようと一歩を踏み出そうとした途端に血の気が引いたように目の前が暗くなり、不本意ながらこの目の前の男に抱きとめられる。ああやべえ、これはだめなやつだ。
「へえ、これは久々にすごいのきたな。うん、今すぐ休んだほうがいい……ほら、おいで」
「……ああ、悪い」
「いい子、大丈夫だからね」
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