おすすめのマッサージ屋を紹介したら後輩の様子がおかしい件

ひきこ

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意味ないんで

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「……って、久々に爆睡しちまうほどよくてさあ。結局回数券も買っちまって」

 あれからおれは、あまりの解放感からか数分も経たずにまるで麻酔にでもかかったように寝落ちしちまって、制限時間のタイマーに起こされるまで気がつかないほど爆睡してたらしい。

 せっかく気持ちよかった気がするはずなのに記憶はほとんどないのが勿体ねえと思わんでもないが、確かに憑き物が落ちたみてえに身体がすっげえ軽くなってたんだよな。そのすがすがしさが癖になったっつうか、時間が空くとそわそわ落ち着かなくて結局数日も待てず店に足が向いちまう。
 ある意味禁断症状みたいなもんだってのも薄々わかっているつもりだが、一度集中して完全に身体をいい状態にしちまえば、あとは維持するだけで済むところまで持っていけたら一番理想なんだがな。

「へえ、どうりで最近顔色もマシになってきてんじゃないですか」
「だろ?」

 ま、実際はカタカタとキーボードを叩きつつ作業モニターをガン見してるんだから、お互いの顔なんて見ちゃいねえがな。
 そういうわけで、とにかくこの人生で初めてレベルの感動を話したくて仕方なくて、こうして肩を並べて残業しながら珈琲一杯の賄賂で後輩に犠牲話し相手になってもらってるっつうわけだ。それに――

「よかったら、紹介するぜ。冴島、お前だって」
「僕は、間に合ってますから」

 俺と似たり寄ったりなぐらいには疲れも溜まってんだろうってのは、毎日顔合わせてりゃさすがに俺だってわかってる。
 だが相変わらずこっちも見ずに、絵に描いたみてえに眼鏡をくいっとしながら食い気味にそう言ってくるのも予定調和で思わず笑っちまう。

「だよな、まあ無理すんなよ」

 本来なら上司として、先輩として根本的に解決すべきなんだが力及ばず申し訳ないとは思ってはいる、思っては。
 おれたち二人ともまだまだ下っ端の頃には、こいつももっと可愛げがあった気がするしたまには飲みにも行けてたんだがなあ。
 思い出として美化されてんのを差し引いたとしても、つまり今より時間も体力もあったはずってことなんだが世知辛えよな。

「……そういう店は、意味ないんで」
「はは、おれもそうだったから今回びっくりよ。ま、もし気になったらいつでも言ってこいよ」

 そうなんだよな、おれだってこれまで散々試してきたんだ。外野にあれこれ言われたくねえ気持ちもよくわかる。
 これ以上は野暮ってもんだし、パワハラって言われても困るしな。

「先輩は……」
「おう?」

 なんだなんだ、なんでも聞けよ?

「ああ、いえ、なんでも」

 っと、ようやく先輩を頼る気になったか? なんてちょっと楽しくて前のめりになりすぎちまったか、
 なんとなく歯切れが悪いような気もすんだけど、これも強要はよくねえんだろうな。

「そうか? 今更遠慮すんなよ」
「……してません。そんなことよりこれ、確認お願いします。山口課長代理」

 ま、そりゃそうだ。
 真横に座ってるっつうのに律義に立ち上がったこいつから、いつのまにか完成させたらしい書類が両手ですっと差し出される。

 ああ、いいと思うぜ、こういうきっちり切り替えできるとこ。そうそう俺が育てたからな、なんつって。

「あいよ。んじゃ、これは見といてやるから。たまには早く帰んな」

 仕事上の成果物は形式的には俺を通すことになってはいるが、こいつのことだ、実力的には全く必要ねえんだなこれが。
 せっかくの週末にわざわざ承認を待つこともねえし、さっさと帰って休ませてやるのがイマドキの上司に違いねえし、
 実際今の俺が上司としてしてやれることなんてこのぐらいしかねえからな。

「ありがとうございます。あと、珈琲も」
「気にすんな、おつかれ」

 無表情だけど、やっとこっちの目え見たな。
 別にこいつに嫌われてるとは思っちゃいねえが、部下が目え合わせてくれるっつうのはやっぱ安心するわ。

「はい、おつかれさまです」
「おー」

 そんじゃ、おれもさっさとこれ見て帰るとするか。
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