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本編
6.研究員として
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またここに来るなんて――――
降って湧いたような施設からの誘いを、僕は二つ返事で引き受けた。
守秘義務に関する書類を山ほど書かされたあと、ようやく目にした施設の実態に言葉を失った。
しかし……現実問題として、支配階級の者たちの多くにとって、従順な執事としてSubを買い取ることは昔から続く習慣である。
彼らはなんの疑いもなくそれが当然のことだと考えているし、きっと自分もルカのことがなければ何の疑問も持たなかったに違いない。
それでもいち研究員でしかない今はとにかく、自分にできる仕事をするだけだ。
そう自分に言い聞かせ、施設での立場を築き上げるためさらに研究に没頭した。
地道に成果を上げ続けた僕に、施設内で入れない場所がなくなるまでにはそれほど時間はかからなかった。
――やがて手にしたその文献は、地下書庫の片隅で、まるで禁書のような扱いを受けていた。
かつてSubたちは、自我を持った人間としてともに社会で生きていた。
DomがSubに向けて放つCommandやGlareは、Subを従わせるためのものではなくお互いを満たすもの。
必ずしもCommandが伴わずとも、信頼関係のもとでは言葉と視線の応酬だけでも得られるものは十分にあること。
翻って、現代ではほぼ使われていないCommandには底知れぬ可能性が秘められていること。
DomからSubへ――それらを与えることはSubだけが享受する快感だけでは決してなく、それ以上にDom自身の本能的な欲求を満たすものとして還ってくること。
そして、その欲求を満たし合うパートナーとして、Sub自身が認めたDomだけが受け入れられたこと。
選ばれなかったDomたちは……力づくで無理矢理Subを従わせ、やがて自我を奪うことによりSubの献身を搾取して自らの力に変えていき、一方的に支配する独裁国家の道を辿っていたこと――――
…………ところどころ歯抜けになった文献を拾い合わせて読み解けば、目を逸らしたくなるようなそんな歴史が見えてきた。
僕がこのままひとりのDomとして生きていくだけならば、全く知る必要のないことだろう。
だけど僕にとっては、どうしても他人事ではないのだから。
Subは、人間であるべきだ。
そして僕はそれ以降も地下書庫の文献を漁りつつ、仕事の傍らでひっそりと自らの研究を進めていた。
そんなある日、ひとりのSubが返品されてきた。
***
心身ともにボロボロになって返品されてくるSubは、敷地内の一番遠い、まるで刑務所のようは病棟に収容される。
彼らはやがて為す術もなく衰弱していくか、運良く回復してもまともな買い手はいないだろう。
そんな彼らのことが気にならないわけではないが、その顔を見てしまうと情が湧いて辛くなるのは目に見えている。
そんな僕は狡い人間なのかもしれないが、結局のところ無力な自分にできることは何もないのだと言い聞かせ、普段は見て見ぬ振りをしていたのだけれど。
それでも今日は何故だか胸騒ぎがして……例のSubに近付いた。
焦点が合っていない目は虚ろだった。
目を逸らすことができずに引き寄せられて、合うはずのない目が合ったような気がした瞬間、ヒュッと心臓が止まったような心地がした。
見覚えのあるハニーブロンドと、同じ色のあの瞳…………
「君は…………ルカ………………だね…………?」
降って湧いたような施設からの誘いを、僕は二つ返事で引き受けた。
守秘義務に関する書類を山ほど書かされたあと、ようやく目にした施設の実態に言葉を失った。
しかし……現実問題として、支配階級の者たちの多くにとって、従順な執事としてSubを買い取ることは昔から続く習慣である。
彼らはなんの疑いもなくそれが当然のことだと考えているし、きっと自分もルカのことがなければ何の疑問も持たなかったに違いない。
それでもいち研究員でしかない今はとにかく、自分にできる仕事をするだけだ。
そう自分に言い聞かせ、施設での立場を築き上げるためさらに研究に没頭した。
地道に成果を上げ続けた僕に、施設内で入れない場所がなくなるまでにはそれほど時間はかからなかった。
――やがて手にしたその文献は、地下書庫の片隅で、まるで禁書のような扱いを受けていた。
かつてSubたちは、自我を持った人間としてともに社会で生きていた。
DomがSubに向けて放つCommandやGlareは、Subを従わせるためのものではなくお互いを満たすもの。
必ずしもCommandが伴わずとも、信頼関係のもとでは言葉と視線の応酬だけでも得られるものは十分にあること。
翻って、現代ではほぼ使われていないCommandには底知れぬ可能性が秘められていること。
DomからSubへ――それらを与えることはSubだけが享受する快感だけでは決してなく、それ以上にDom自身の本能的な欲求を満たすものとして還ってくること。
そして、その欲求を満たし合うパートナーとして、Sub自身が認めたDomだけが受け入れられたこと。
選ばれなかったDomたちは……力づくで無理矢理Subを従わせ、やがて自我を奪うことによりSubの献身を搾取して自らの力に変えていき、一方的に支配する独裁国家の道を辿っていたこと――――
…………ところどころ歯抜けになった文献を拾い合わせて読み解けば、目を逸らしたくなるようなそんな歴史が見えてきた。
僕がこのままひとりのDomとして生きていくだけならば、全く知る必要のないことだろう。
だけど僕にとっては、どうしても他人事ではないのだから。
Subは、人間であるべきだ。
そして僕はそれ以降も地下書庫の文献を漁りつつ、仕事の傍らでひっそりと自らの研究を進めていた。
そんなある日、ひとりのSubが返品されてきた。
***
心身ともにボロボロになって返品されてくるSubは、敷地内の一番遠い、まるで刑務所のようは病棟に収容される。
彼らはやがて為す術もなく衰弱していくか、運良く回復してもまともな買い手はいないだろう。
そんな彼らのことが気にならないわけではないが、その顔を見てしまうと情が湧いて辛くなるのは目に見えている。
そんな僕は狡い人間なのかもしれないが、結局のところ無力な自分にできることは何もないのだと言い聞かせ、普段は見て見ぬ振りをしていたのだけれど。
それでも今日は何故だか胸騒ぎがして……例のSubに近付いた。
焦点が合っていない目は虚ろだった。
目を逸らすことができずに引き寄せられて、合うはずのない目が合ったような気がした瞬間、ヒュッと心臓が止まったような心地がした。
見覚えのあるハニーブロンドと、同じ色のあの瞳…………
「君は…………ルカ………………だね…………?」
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