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第13話 薔薇に囚われて
しおりを挟む喝采の余韻が薄れていくとともに、
薔薇の間には再び静かな夜の空気が訪れた。
舞台の上、ユウキはまだ胸に刻まれた痛みに震えていた。
薔薇の刻印がじんじんと熱を放ち、
先ほどの決闘が夢ではないことを確かに伝えている。
床に落ちた鎖を前に、マリは膝をついたまま沈黙していた。
その肩は小刻みに震えていたが、涙は流れなかった。
彼女の手の中には──まだユウキから渡された深紅の薔薇があった。
「……奪えなかった」
かすれた声が、沈黙を破る。
「なのに……なぜ私は、まだその手を離せないの……?」
観客席からは冷ややかな笑い声と、どこか哀れむようなため息が混じり合う。
敗者を嗤い、勝者を称える──それもまた、この夜の娯楽のひとつだった。
ユウキは震える足で立ち上がり、マリを見下ろした。
言葉をかけようとしたが、喉が詰まり、声にならなかった。
その背後から、エリオットの声が響いた。
「選ばれたのは繋がりの愛だ」
灰色の瞳が、ユウキに注がれる。
「だが覚えておけ。
繋がりは甘美であると同時に、逃れられぬ鎖でもある」
ユウキの胸に冷たいものが広がる。
その言葉は祝福であると同時に、呪縛だった。
観客たちは立ち上がり、面白げにささやき合いながら退場していく。
仮面の群れは夜の闇に溶け込み、残されたのは舞台と──
ユウキ、マリ、そしてエリオットだけだった。
エリオットはゆっくりと舞台に歩み寄り、ユウキの顎を持ち上げた。
その冷ややかな指先に、身体が小さく震える。
「お前はこの夜を選んだ。
痛みを、羞恥を、そして繋がりを」
彼は微笑み、耳元に囁く。
「──ならば永遠に、この薔薇の間からは逃れられぬ」
その言葉に、ユウキの背筋が凍りついた。
だが同時に、心の奥底で奇妙な安堵が広がる。
それは恐怖でありながら、確かに救済でもあった。
舞台の幕がゆっくりと下ろされる。
喝采の残響とともに、ユウキは悟った。
──私は、もう永遠にここから出られない。
だが、この囚われこそが私の選んだ愛なのだ。
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