三つの背徳の果実 【2時間ドラマ小説】中編小説集

翔田美琴

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氷の微笑と奇跡の紳士

2話 ルーファスの警告

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 朝の10時。バートン財団の定例会議の一番乗りを果たしたのは顧問弁護士のルーファス・ウォルターだった。

「ノイズ君。おはよう」
「ルーファス! 一番乗りなんて珍しいわね」
「今日から半年に一度の重役会議だからね」
「ええ。今年は週をまたがっての会議よね。本日が金曜日で。土日祝日は休みだから、月曜日から火曜日までするんでしょう?」
「ジョンとかアルベルト、ブライトは来てるか?」
「ジョンならもうすぐ来るみたい。ラインで連絡をくれたわ。アルベルトも電話でもうすぐ来れますって。ブライトは遅れるかも知れないけど、今から向かっているみたいよ」
「南米のブラジル支店の案件は気の毒だったな。レンブラントは"彼の不始末"とバッサリ言ったようだけど。しかし、あの案件は不始末では片付けられないよ」
「やっぱりルーファスもそう思う?」
「ブライトはそれを片付けてここに来るんだろう?   せめてよくやったと褒めてやりたいよ」
「レンブラントの方は乗り気ではないみたいね。最近のレンブラントはどうも張り詰め過ぎているように感じるわ。あの人の妻としてね」
「一度、彼にその話はしたほうが良いな」
「お願いできる? ルーファス」
「わかったよ」

 そうして、バートン財団顧問弁護士のルーファスは、本社ビルの中へと消えていった。
 今、ノイズはバートン財団本社ビルの玄関口に自ら立ち、支社の社長達に挨拶をしている。やはり半年に一度の重役会議だ。社長秘書たる者、玄関口に立ち出迎えをしなければならない。
 他の秘書達も同様に出迎えをしている。
 朝から『おはようございます』と元気に挨拶して支社の社長をもてなす。バートン財団の支社はアメリカ支社、アジア支社、南米支社、ヨーロッパ支社があり、本拠地はイギリスのロンドン。ヨーロッパの各支店の社長も来るし、アメリカも主な支店、ニューヨーク支店やカリフォルニア支店の社長は来る。アジア支社は日本支店でもあり、その他ではオーストラリア支店などが来る。
 それぞれの支店長の主な年齢層は40代から50代の男性が主たる面々。彼らは自らの専属秘書を着いて越させている事も珍しい事ではない。
 続いてアメリカ支社の社長が姿を現した。独特の張りのある声で誰かすぐにわかる。

「ノイズ君! おはよう!」
「ジョン。お久しぶりね」
「支社の社長では一番乗りかな?」
「そうね。アルベルトはまだ来てないわ。ブライトは少し遅れるかもという連絡が来たわよ」
「ブライトはブラジルの案件を片付けていたからな。でも間に合わせるところは流石だね」
「ジョンはストレートに誉めるから人気なのよね」

 アメリカ支社及びニューヨーク支店社長のジョンが来た。初秋に入ったとはいえ少し残暑も残るイギリス。ジョンも整った灰色をスーツだったが、ワイシャツの襟は少し開けている。ネクタイは青い。

「それじゃあ、レンブラントに挨拶してくるよ」
「いってらっしゃい」

 ノイズは続々と集まる支店社長に挨拶をする。支店社長の面持ちは様々だった。緊張している顔。堂々たる顔。笑顔の人。本社ビルを見て懐かしむ者、本社ビルで顔なじみだった者同士、ライバル関係だった者など、あらゆるタイプの人達が一堂に会するのだ。
 その頃。本社ビルの中では南米支社統括の社長ブライトのパートナー、秘書ミライが彼とラインで連絡を取っている。どうやらブライトは無事にブラジル支店で起きた案件の処理を完了して、本社ビルがあるロンドンへと向かっているらしい。重役会議の約一日前に処理が終わり本人は先に秘書ミライを本社ビルへと向かわせた。
 秘書ミライは先にバートン財団本社ビルに来たのは今回が初めてだった。いつも2人一組で行動を共にしていたので何となく調子は出ない彼女。
 彼女は重役会議が行われる会議室で書類の確認をしている。重役会議の準備は滞りなく進んでいる。本社ビルの中の秘書達は半年に一度しか会えない端正な社長を見るのが楽しみという者もいる。
 すると、そこにレンブラント・バートンが珍しく彼女に声を掛けた。

「ミライ君じゃないか? 珍しいね。ブライトと一緒には来なかったんだね」
「レンブラント社長。おはようございます」
「ああ、おはよう。ブライトと連絡を取っているのか?」
「はい。ブライトは丁度タクシーを捕まえてこちらへ向かっている様子です」
「重役会議は今から1時間後だからね。書類は抜かりないかな?」
「はい。全部揃っております」
「ブライトの方はかなり焦っているな。タクシーを捕まえてくるなんて南米支社社長として遅れる訳にはいかないと考えているのだろうな」
「ブライトは遅れるような真似はしません。きちんと重役会議には間に合います」
「そうならいいけど」

 レンブラント社長は最後は切り上げるようにして会話を終わらせた。
 どこか冷徹ささえ感じるこの代表取締役はかなり恐ろしい人物として皆からは畏怖されている。
 銀髪の悪魔。それがレンブラント社長の渾名だった。
 その頃。ブライトはタクシーに乗りバートン財団の本社ビルに向かっている。想像以上に厄介な案件だったがこの調子なら何とか時間すれすれに到着出来るかな。
 と思い、バートン財団本社ビルの景観が見えてきた頃に、怪しい動きをする何が見えた。気にする事はないか。
 
 しばらくするとアジア支社の統括、アルベルトも本社ビルに到着した。
 アルベルトは紺藍に近い青の上下スーツで姿を現す。ネクタイは彼としては珍しい赤いネクタイを締めてきた。鮮やかな金髪がよく映える青年だ。

「おはようございます! ノイズさん」
「アルベルト。おはよう」
「意外と遅く到着しちゃったかな?」
「でも重役会議が始まる1時間前だから、それにブライトはまだ来てないわよ」
「そうなんだ。ブライトがね。珍しい事もあるなあ。それじゃあ、レンブラント社長に挨拶してくるね」
「ええ。後で会いましょう」

 重役会議が始まる1時間前、ルーファスとジョン、アルベルトがレンブラント社長の下に集まる。社長室のソファに彼らは座って久しぶりの再会をしている。
 にこやかにお互いの再会を喜ぶルーファス達を横目にレンブラントは社長の椅子で外の様子を見ている。
 何となく機嫌が悪そうなレンブラントにルーファスは声を掛けた。

「何を仏頂面している? レンブラント?」
「いや。何でも。ただ半年に1回の重役会議はいつも何かが起こるから心配でね」
「世界中から支社の社長や支店長が集まるから狙われるのも無理は無いよな」
「でも開かないとならない会議だし。ブライトは支社社長の中では最後に到着か」
「ブライトさん。目立ちたくないって言う割に結構目立つんですよね」
「面白い奴だよな」
「落ち着かない様子だな。レンブラント」

 ルーファスは机を指先でトントン叩く彼を観てまずは落ち着くように助言する。

「時間に厳しいのはわかるがブライトの気持ちも汲んでやれよ? あれだけの案件を処理して向こうはしかも飛ぶように来てくれるんだ。少しは気持ちをわかってやれ」
「……君の正論をいつも聴いていると、俺はイライラしてくるよ。ルーファス」

 苛立ちを抑えられないレンブラントは軽く怒気を込めてルーファスに言った。
 いつもより苛立ちが激しいレンブラントにルーファスは訊いた。

「何を苛立っている? 本当にこの会議が始まるといつもお前は苛立つ。怯えているのか?」
「誰が!」
「図星だな。今の怒声は」

 ルーファスは珍しくため息をつくとレンブラントに警告して社長室から去った。

「お前。少し、頭を冷やせ。そんな苛立っている状態のお前に会いにくる社長達はいつでもお前の座を奪えると思っている事をな」

 しばらく社長室の空間は重い空気に包まれた。
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