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第一章
後ろの席の山田くん
しおりを挟むそもそもの始まりの話をしよう。
物事は必ず始まりがあって終わりがある。
俺と美咲ちゃんの事も、始まりがあって終わりがあった。これを一区切りと言うのかも知れない。区切って終わって、また別のものが始まった。きっといつかはこの日々も終わってしまう。それはずっと先のことかもしれれないし、今日かもしれない。
何も考えずにいるより、そう考える方が毎日のちょっとしたことに幸せを感じられるような気がするから、俺は毎日を大事に生きている。
一つ目の区切りまで、時系列を今から二年と少し前まで戻ろう。
俺と佐伯さんの出会いは高校二年の春だった。
席が前後で、美少女が自分の前の席にいることに、他のクラスメイト達に優越感を感じていた。
シャンプーの柔らかく優しい匂いが鼻腔を擽る度に、俺の胸はドキドキと鼓動がうるさくなった。
佐伯さんはあまり学校に来ることは無かった。
今になれば、ただ寝起きが悪くて毎日の登校が面倒だっただけだと分かるけど、その当時の何も知らない俺達クラスメイトは儚くか弱い女の子だという認識だった。
だから、彼女のためにと頑張って専用にノートをとった。
少しでも綺麗に書けるようにと、通信のボールペン字講座を始めた。
そもそも、彼女に友達が居なかった。
男共は高嶺の花として崇め、女共はモテる彼女を嫌った。
最初は話しかける奴もいたが、冷たくあしらわれ、撃沈者が続出したため挑戦する者も居なくなったらしい。
らしい、と言うのもこの出来事が一年生のうちにあっていて、俺が同じクラスになった二年生の時点で、「話しかけない」という暗黙のルールができていた。
だから俺と彼女の会話も連絡事項のみ。
渡したノートは一度も返ってきたことは無い。
それでも、佐伯さんに接触できる大義名分が欲しくて色々やっていた。
周りは嫉妬する奴や、馬鹿にする奴もいたけど、この役目だけは誰にも譲らなかった。
一度だけ連絡事項以外の会話をしてみたことがある。他の人より俺は親密なのだと、そう自負していたから。
「あの、佐伯さん。今度の土曜日、一緒に遊びに行きませんか?」
彼女は俺をチラリと一瞥したあと冷たく言い放った。
「面倒だからイヤ」
その言葉の衝撃は俺にもの凄いダメージを与えた。
息をのんでこちらを伺っていた周りの奴らもその言葉には驚いたようだった。
ここまでやってくれる奴にもこの態度なら、自分たちなどもっと酷い扱いをされるのだろうと。
一ヶ月ほど落ち込む日々が続いた俺に、周りが同情して優しくしてくれたのがせめてもの救いだった。
そして、これも今なら分かるのだ。面倒だと言ったのは、俺と一緒に遊びに行く事ではなく、私服を考えるのが面倒だったと。
俺は朝と夜、ご飯を作りに行くが、毎晩次の日の美咲ちゃんの洋服もコーディネートしている。
生活力ゼロ、女子力ゼロの彼女は下手したら毎日同じ服を着てしまうから。
当時、知らないとはいえ、相当なダメージを受けた俺は告白などできるはずもなかった。
「好きだ」と伝えたところで、受け入れてもらえない事など分かりきっていたから。
でも、彼女を好きな気持ちは変えることができなかった。伝えることができなくても、思うことは変えたくなかった。
彼女を遊びに誘って、撃沈してから一年と少し。
また同じクラスになれて、また前後の席で、嬉しいのに進まない距離感に歯がゆさを感じる。
また同じように連絡事項を話して、同じようにノートを渡して、返ってこなくて。
そして……受験シーズン真っ只中がやってきた。
学校も自由登校になり、顔を見ることも、匂いを嗅ぐこともできない日々が続いた。
彼女が志願している大学を先生に何度も何度も、しつこいくらいに聞きまくってやっと教えてもらえたところに俺も受験した。私立大、しかも推薦での受験。この時ばかりは真面目に授業を受けていたことに感謝した。
なのに何故。神は俺に試練を与えやがった。しかも、卒業の前日という心の準備すらやらない暴挙にでた。
「あの、佐伯さん。◯◯大を受験してたよね?俺もたまたま、たまたま同じところに受験したんだ。それで……その……」
「◯◯大なら落ちた」
「えっ?」
「知らなかった。同じ学部受けていたんでしょう?ライバルだったんだね。まあ、おめでとう?よかったね」
「……っ……」
「なーんてね、本当の志望校なんて先生が教えるわけないじゃない」
「っ……佐伯さんはどこに行くの?」
「◯◯学院大の予定よ、まだ結果は知らないけど。二年間の付き合い、って言ってもそこまで親しくもなかったけど。まあ、楽しかったわ。明日でもう会うこともないでしょうけど。ありがとうございました」
そう言って、少し頭を下げた彼女に俺も少しだけ頭を下げて。
よくよく考えれば、受験会場に彼女がいなかったことに気が付けたのに。
欠席が多い彼女が推薦取れるか疑わしいのに。
俺は何一つ気付けなかった。
そして、次の日。
俺は彼女に思いを告げることもなく、また、必要以上の会話もなかった。
友達にすらなることなく、クラスメイトという関係が終わった。
三月一日、俺たちは学び舎を卒業した。
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