◯◯の山田くん

明日井 真

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第二章

天使の回想(答え合わせ)

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 不二子ちゃんは暗くなる前に帰っていった。
パパは夜ご飯の準備で台所に行ったし、ママは荷物の片付けで忙しそうにしている。

あの後も結構私がどうにか行動しないと始まらないって話で終わってしまった。
それはそうだけど、どんな顔して会いに行けばいいのか分からないんだもん。

一人になってしまった広い居間の襖を開けて、縁側に座る。
ガラス戸をしていても少し冷気が入ってくる。
少し寒いけれど、このくらいが考えるのに丁度いいかもしれない。


 少し冷静になって、始まりを思い出してみよう。


*****

 中学までは少なからずいた友達も高校ではバラバラになってしまった。
新しい友達はすぐに出来ると思っていた私は、自分が人見知りだったことを初めて知った。
話しかけることもできず、話しかけられても極度の緊張で最低限の返事しか出来ない。
挫折したわ。

 そして進級しても結局友達なんか出来ないんだしと諦めていた私に、休んでいた分のノートを渡してきた彼を初めて認識した。

クラスメイトの顔も名前すら覚える必要が無いと思っていた私は、最初誰だか分からなかった。後ろに座る彼にやっと後ろの席の人なんだって理解した。
ノートには名前が書いてあって、高校に入って彼が初めて覚えた名前だった。


 さて、私には最大のミッションが与えられたのだ。
彼にノートを返しつつ、ありがとうとお礼を言うこと。
大丈夫、私ならやれる。
頑張れ、ちゃんと出来たら今日は帰りにアイスをご褒美に買おう。
そう意気込んで、教室に入り彼の席へ。
今日も何かしらの文庫本を静かに読んでいる彼の周りには誰もいない。
友達がいないわけではないらしいけど、朝のこの時間は結構一人でいることが多いみたいだった。
だからこの時間しか私にはチャンスがない。


さあ、言え。
言ってから渡せ、さあ早く。


意気込んで大きく吸い込んだ空気は大きな溜め息になって出ていった。


 だって彼の一つ前の私の席に来たとき、彼が顔を上げて私を見たんだもん。
ドキドキして、何を言っていいか分からなくなって、あんなに家で練習したありがとうを言えなくて……結局自分の席に着いてしまった。

ノートが返ってこなかったら彼は困ってしまうのに、どうしよう、机にこっそり入れとく?
無理よね、遅刻ギリギリで私は来るのに、誰にも見られないように入れておくなんて事も出来ないんだし。

どうすることも出来ないまま、数日が過ぎて私がまた欠席をした次の日。


えっ、何で?何でよ?
どうして返してもらってないのに次のノートを渡してくるの?
彼は何故か何度も何度も返ってくることの無いノートを渡し続けてくれた。

─渡され続けるノートは私の部屋を占領していった。

もうここまで来たらノートを返す返さないの話ではない気がしてくる。
私が返さない事を分かった彼は私用のノートを自分用と別で書いているらしい事を知ってしまったし……もし今までと違ってノートを返してしまったら彼はこれからどうするんだろうか。


─渡されるノートの文字がいつからかとても綺麗になってきて……先生の言葉も大事だと思ったら書いてくれていることにも気が付いて……


あれ、何だか彼のこと……



─私はいつの間にか彼を好きになってたらしい。

─それからの私ははっきり言って変になってしまったと自覚はある。


まず貰ったノートは中身を見る前に嗅ぐ。
書くんじゃなくて、嗅ぐのだ。
彼の家の匂いが少しでもしてそうで、たまに薄く知らない匂いを嗅げば彼のかもしれないと嬉しくなった。


「あの、佐伯さん。今度の土曜日、一緒に遊びに行きませんか?」

そんな時にこんなこと言われたらパニックになるに決まってる。
彼は何て言った?遊びに?二人?二人よね?だって皆でって言ってなかったし。ってことはでっデートと、言うものですかね!?
落ち着け、落ち着くのよ美咲。ちゃんとお返事をしなければいけないわ。


「面倒だからイヤ」


いやーーーーーー何てことを言ってるの私の口!!
違うでしょう!!あーもう!!何で素直に行くって言えないのよ!!


言ってしまったのならしょうがないわ。次よ、次誘われたらちゃんと行くって言う!!絶対!!

─なんて決意も虚しく、彼は結局誘ってくれることも無かったのだけれど。



彼との距離は縮まることもなく、かと言ってこれ以上開くこともなく受験シーズンに入ってしまった。

希望した大学は先生に出欠の多さを理由に推薦を断られた。
まあそうだよね。欠課にならないギリギリまで休んだ自覚はあるし仕方ない。

卒業式の前に私の行きたかった大学に彼が合格していたのを知った。
もう少しちゃんと学校に行っておけば良かったなんて後悔をした。

せっかく彼が最後に話しかけてくれたのに、何だかモヤモヤして八つ当たりしてしまって、家に帰ってから一人反省会を何時間もした。

卒業式もボーッとしてたら終わってしまったし、最後に彼を見納めでもするかとクラスに戻れば何故か男子に囲まれているし。
しかも何よ、第二ボタンが無いって。どこの誰にやったのよ。いや、欲しいとか思ってないから、全然?思ってないんだから。

そしてまたモヤモヤした気持ちで家に帰った。
ついうっかり両親を忘れてしまって、後から帰宅したママに凄く怒られた。

─数日後

高校の制服とか教科書とかを処分するときに漸く私はあのぬいぐるみに気が付いた。
真っ白な体に分かりやすい真っ赤な糸。
何で私は今まで気が付かなかったんだろうかって程の体型の変わった小モチ。
背中の赤い糸を切って行くと出てきたものはボタンと黒い機械。

機械は置いといて、このボタンはもしかしたら──


それからは両親と不二子ちゃんに恥を忍んでお願いした。
好きな人が盗聴してるかもと。
反対されたし、通報しようとも言われたけど、そのたびにどれだけ彼が好きかを説明した。
今まで貰ったノートも全て見せた。

結局、海外に行ってしまう両親の代わりに不二子ちゃんが監視をしてくれることになった。
年下に監視を頼む事に少し不満があったけど、ママに「美咲よりしっかりしてるから」なんて言われたら何も言い返せなかった。

─山田計画の為に台所を不二子ちゃんと散らかした。

─彼が来ないかもしれないから、不二子ちゃんにお迎えに行ってもらった。

─どんな私でも好きなのか彼を試したくて、洋服のセンスが無いように見せかけた。


そして、彼が山田になって……

何故か山田の前では素直に話せなくて……そして

全く進展しなかった……

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