15 / 17
第二章
天使の回想(答え合わせ)
しおりを挟む不二子ちゃんは暗くなる前に帰っていった。
パパは夜ご飯の準備で台所に行ったし、ママは荷物の片付けで忙しそうにしている。
あの後も結構私がどうにか行動しないと始まらないって話で終わってしまった。
それはそうだけど、どんな顔して会いに行けばいいのか分からないんだもん。
一人になってしまった広い居間の襖を開けて、縁側に座る。
ガラス戸をしていても少し冷気が入ってくる。
少し寒いけれど、このくらいが考えるのに丁度いいかもしれない。
少し冷静になって、始まりを思い出してみよう。
*****
中学までは少なからずいた友達も高校ではバラバラになってしまった。
新しい友達はすぐに出来ると思っていた私は、自分が人見知りだったことを初めて知った。
話しかけることもできず、話しかけられても極度の緊張で最低限の返事しか出来ない。
挫折したわ。
そして進級しても結局友達なんか出来ないんだしと諦めていた私に、休んでいた分のノートを渡してきた彼を初めて認識した。
クラスメイトの顔も名前すら覚える必要が無いと思っていた私は、最初誰だか分からなかった。後ろに座る彼にやっと後ろの席の人なんだって理解した。
ノートには名前が書いてあって、高校に入って彼が初めて覚えた名前だった。
さて、私には最大のミッションが与えられたのだ。
彼にノートを返しつつ、ありがとうとお礼を言うこと。
大丈夫、私ならやれる。
頑張れ、ちゃんと出来たら今日は帰りにアイスをご褒美に買おう。
そう意気込んで、教室に入り彼の席へ。
今日も何かしらの文庫本を静かに読んでいる彼の周りには誰もいない。
友達がいないわけではないらしいけど、朝のこの時間は結構一人でいることが多いみたいだった。
だからこの時間しか私にはチャンスがない。
さあ、言え。
言ってから渡せ、さあ早く。
意気込んで大きく吸い込んだ空気は大きな溜め息になって出ていった。
だって彼の一つ前の私の席に来たとき、彼が顔を上げて私を見たんだもん。
ドキドキして、何を言っていいか分からなくなって、あんなに家で練習したありがとうを言えなくて……結局自分の席に着いてしまった。
ノートが返ってこなかったら彼は困ってしまうのに、どうしよう、机にこっそり入れとく?
無理よね、遅刻ギリギリで私は来るのに、誰にも見られないように入れておくなんて事も出来ないんだし。
どうすることも出来ないまま、数日が過ぎて私がまた欠席をした次の日。
えっ、何で?何でよ?
どうして返してもらってないのに次のノートを渡してくるの?
彼は何故か何度も何度も返ってくることの無いノートを渡し続けてくれた。
─渡され続けるノートは私の部屋を占領していった。
もうここまで来たらノートを返す返さないの話ではない気がしてくる。
私が返さない事を分かった彼は私用のノートを自分用と別で書いているらしい事を知ってしまったし……もし今までと違ってノートを返してしまったら彼はこれからどうするんだろうか。
─渡されるノートの文字がいつからかとても綺麗になってきて……先生の言葉も大事だと思ったら書いてくれていることにも気が付いて……
あれ、何だか彼のこと……
─私はいつの間にか彼を好きになってたらしい。
─それからの私ははっきり言って変になってしまったと自覚はある。
まず貰ったノートは中身を見る前に嗅ぐ。
書くんじゃなくて、嗅ぐのだ。
彼の家の匂いが少しでもしてそうで、たまに薄く知らない匂いを嗅げば彼のかもしれないと嬉しくなった。
「あの、佐伯さん。今度の土曜日、一緒に遊びに行きませんか?」
そんな時にこんなこと言われたらパニックになるに決まってる。
彼は何て言った?遊びに?二人?二人よね?だって皆でって言ってなかったし。ってことはでっデートと、言うものですかね!?
落ち着け、落ち着くのよ美咲。ちゃんとお返事をしなければいけないわ。
「面倒だからイヤ」
いやーーーーーー何てことを言ってるの私の口!!
違うでしょう!!あーもう!!何で素直に行くって言えないのよ!!
言ってしまったのならしょうがないわ。次よ、次誘われたらちゃんと行くって言う!!絶対!!
─なんて決意も虚しく、彼は結局誘ってくれることも無かったのだけれど。
彼との距離は縮まることもなく、かと言ってこれ以上開くこともなく受験シーズンに入ってしまった。
希望した大学は先生に出欠の多さを理由に推薦を断られた。
まあそうだよね。欠課にならないギリギリまで休んだ自覚はあるし仕方ない。
卒業式の前に私の行きたかった大学に彼が合格していたのを知った。
もう少しちゃんと学校に行っておけば良かったなんて後悔をした。
せっかく彼が最後に話しかけてくれたのに、何だかモヤモヤして八つ当たりしてしまって、家に帰ってから一人反省会を何時間もした。
卒業式もボーッとしてたら終わってしまったし、最後に彼を見納めでもするかとクラスに戻れば何故か男子に囲まれているし。
しかも何よ、第二ボタンが無いって。どこの誰にやったのよ。いや、欲しいとか思ってないから、全然?思ってないんだから。
そしてまたモヤモヤした気持ちで家に帰った。
ついうっかり両親を忘れてしまって、後から帰宅したママに凄く怒られた。
─数日後
高校の制服とか教科書とかを処分するときに漸く私はあのぬいぐるみに気が付いた。
真っ白な体に分かりやすい真っ赤な糸。
何で私は今まで気が付かなかったんだろうかって程の体型の変わった小モチ。
背中の赤い糸を切って行くと出てきたものはボタンと黒い機械。
機械は置いといて、このボタンはもしかしたら──
それからは両親と不二子ちゃんに恥を忍んでお願いした。
好きな人が盗聴してるかもと。
反対されたし、通報しようとも言われたけど、そのたびにどれだけ彼が好きかを説明した。
今まで貰ったノートも全て見せた。
結局、海外に行ってしまう両親の代わりに不二子ちゃんが監視をしてくれることになった。
年下に監視を頼む事に少し不満があったけど、ママに「美咲よりしっかりしてるから」なんて言われたら何も言い返せなかった。
─山田計画の為に台所を不二子ちゃんと散らかした。
─彼が来ないかもしれないから、不二子ちゃんにお迎えに行ってもらった。
─どんな私でも好きなのか彼を試したくて、洋服のセンスが無いように見せかけた。
そして、彼が山田になって……
何故か山田の前では素直に話せなくて……そして
全く進展しなかった……
0
あなたにおすすめの小説
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
【完結】番である私の旦那様
桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族!
黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。
バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。
オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。
気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。
でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!)
大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです!
神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。
前半は転移する前の私生活から始まります。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あの日、幼稚園児を助けたけど、歳の差があり過ぎてその子が俺の運命の人になるなんて気付くはずがない。
NOV
恋愛
俺の名前は鎌田亮二、18歳の普通の高校3年生だ。
中学1年の夏休みに俺は小さい頃から片思いをしている幼馴染や友人達と遊園地に遊びに来ていた。
しかし俺の目の前で大きなぬいぐるみを持った女の子が泣いていたので俺は迷子だと思いその子に声をかける。そして流れで俺は女の子の手を引きながら案内所まで連れて行く事になった。
助けた女の子の名前は『カナちゃん』といって、とても可愛らしい女の子だ。
無事に両親にカナちゃんを引き合わす事ができた俺は安心して友人達の所へ戻ろうとしたが、別れ間際にカナちゃんが俺の太ももに抱き着いてきた。そしてカナちゃんは大切なぬいぐるみを俺にくれたんだ。
だから俺もお返しに小学生の頃からリュックにつけている小さなペンギンのぬいぐるみを外してカナちゃんに手渡した。
この時、お互いの名前を忘れないようにぬいぐるみの呼び名を『カナちゃん』『りょうくん』と呼ぶ約束をして別れるのだった。
この時の俺はカナちゃんとはたまたま出会い、そしてたまたま助けただけで、もう二度とカナちゃんと会う事は無いだろうと思っていたんだ。だから当然、カナちゃんの事を運命の人だなんて思うはずもない。それにカナちゃんの初恋の相手が俺でずっと想ってくれていたなんて考えたことも無かった……
7歳差の恋、共に大人へと成長していく二人に奇跡は起こるのか?
NOVがおおくりする『タイムリープ&純愛作品第三弾(三部作完結編)』今ここに感動のラブストーリーが始まる。
※この作品だけを読まれても普通に面白いです。
関連小説【初恋の先生と結婚する為に幼稚園児からやり直すことになった俺】
【幼馴染の彼に好きって伝える為、幼稚園児からやり直す私】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる