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第二章
天使の会話とお休みの山田
しおりを挟む寒いけれど、日差しだけは強い大晦日のお昼過ぎ。
あれから何日しても山田からの連絡もなく、本当にこれで終わりになってしまうのでは?と不安になった私は、大晦日という人にとっては迷惑でしかない日にちであるにも関わらず、不二子ちゃんを呼び出したのでした。
「で?」
「だから、よく分かんないけど……気がついたら断ってました……」
座敷に私は正座をして、不二子ちゃんはあぐらに腕組みという女の子らしからぬ座りをしている。しかも眉間にシワ付き……そして、大きく溜め息をついた。
「お姉ちゃん、こう言ったらなんだけどさ……バカなの?」
「分かってるわよ。だから、どうしようって相談をしてるんじゃない」
「うーん。正直無理じゃない?」
「そんなっ!!お慈悲を!!」
「だって……鍵も返して行ったんでしょう?もう来ないつもりだからでしょう、どう考えても。なんで断るかなー?」
「私もよく分かんないの。こう、宜しくお願いしますって言えばいいのかな?私も好きですって言えばいいのかなって思って考えてたら纏まんなくなっちゃって……」
「で、ごめんなさいになったと……」
「はい……」
「うーん、あれじゃない?自分から告白し直すしかないんじゃない?」
「えっ、無理」
「真顔にならないで。この状況こそ無理だわ、どうにもならないわ」
「だってぇー」
「だってじゃないの。もう、そうやって我が儘でここまで引き伸ばしてあげたのに。会話らしい会話もしてなかったじゃん。ご飯美味しいよ。なんて一言も言ってなかったでしょう?普通なら途中で止めるわ。一日も休まずよく頑張ったわ。山田めっちゃ頑張ったじゃん。なのに何これ?バカなの?印象最悪なのに好きだって言ってくれてるのにどう返事すればいいか迷ってたなんて……今まで何してたの?シミュレーションとかしてなかったの?」
もう、ここまで言われちゃったらぐうの音も出ないよ……今まで優しかったのに。不二子ちゃんのバカ。
妄想なんて数えられないくらいやってるよ!!だけどね?実際その場になったら無理だから。もう、パニックだから。
めっちゃカッコいい顔をぐちゃぐちゃにして泣いてる顔も素敵すぎて見とれてたし。
目から溢れる聖水欲しいなって思ってたし。
あっ、どうしよう私の方が変態だと思われる。
ちっ違うの、何かね……そう、恋の病ってやつよそいつのせいでこうなっちゃってるの。
「もう一度だけ、手を貸して頂けないでしょうか不二子様」
「様付けしても意味ないから。そもそもあいつが不思議に思ってないから良かったけどさ、この計画すら危なかったからね?」
「それはっ、その……」
「何で気が付かなかったかなー。怪しいところはいっぱいあったのに。山田って呼んだのもお名前呼ぶのが恥ずかしかっただけなのにねー」
によによしながらからかってくる。
止めてよー恥ずかしいのは仕方ないじゃない。
「ううー。泣いちゃうぞ、私が泣いたら山田がやって来るんだぞ!!山田が来たら私が完全に悪くても私の味方してくれるんだから」
「まあ、その山田ももう二度と顔を見せには来ないけどね」
うっ、その現実からは目を反らしたいんだけど。
「顔がよくて背も高くて、料理まで出来て、しかも尽くしちゃう系で一途って……すぐ彼女出来ちゃうんじゃない?」
「私の山田だもん……」
「もう山田じゃないからね」
「っ……もうっ!!なんか今日の不二子ちゃんは意地悪が過ぎない?」
「私ね、甘やかして育てるのは間違いだって気がついたの」
「不二子ちゃんに育ててもらった覚えはないもんっ!!」
「どの口が言うのよ、最初っから私がお手伝いしてあげたよね?盗聴相手を探したのも、台所を散らかしたのも、夏休みだってお泊まりしてあげたんだよねぇ?結局全部、人の行動を待ってばっかり。待った挙げ句に告白っていうめっちゃ頑張った行動に対しての答えがこれって……」
不二子ちゃんの言葉が物凄く刺さる。
人の口から自分の行動を言われるとめっちゃ嫌な女じゃんって思えてくる。
そうだよね……クズじゃん。
「まあまあ、不二子ちゃんその辺で許してあげて?」
唐突に聞こえた声に二人で振り向く。
えっ?なんでここにいるの?ママ。
「まったく、美咲?今日帰ってくるよって言ってあったでしょう?」
「そうだったっけ?」
「メールしてあるから証拠だってあるのよ」
ふんっとした顔をしながらスマホの画面を向けてくる。確かに書いてはあるけど、覚えてないなー。
「まあ、山田くんの事で頭がいっぱいでそんなことも考えられなかったんでしょうけどね」
「なんで知ってるの?山田のことはまだ言ってないよね?」
「山田くんご本人から連絡が来たの。山田を解任されました。お世話になりましたって」
「えっ、ちょっと待って。山田と連絡先交換してたの?」
「したわよ?だって大切な娘がお世話になってるんだもの、向こうからは毎日何を食べましたってご丁寧に毎食の献立と写真まで送ってきてたし。連絡先聞くのって普通じゃない?」
「花愛さん、多分美咲お姉ちゃんは連絡先も交換とかしてないと思うんですけど……」
「あら、そうなの?不二子ちゃん、何でこの子はこう奥手なのかしらね?」
「ええ、もう少しガッツが欲しいところでもありますよね。奥手なくせに相手から何かしらのアクションがあったらそれにも乗らずに逃げやがりますからね」
「え?不二子ちゃん、そこのところをもう少し詳しく」
慌てて不二子ちゃんのお口を閉じさせようとしたけれど、それよりも強い力で逆に押さえつけられた。
えっ、何で?
最近の若い子って皆こうなの?恐ろしいっ。
「頑張ってバイトで貯めたお金でイブにデートに誘ってもらって、夢の国に連れていってもらった挙げ句、食事代も諸々の諸経費も一切払わずに、告白にはきっちりお断りしたのにも関わらずちゃっかりお家まで送らせたんですよ」
「あらー恐ろしい子」
「ちょっと、不二子ちゃん言い方が酷すぎない?」
「事実をそのまま言っただけよ?酷く聞こえるのは当然じゃないかな?」
キョトンとした顔をして惚ける。
その顔は可愛いけど、結構辛辣よね。
「って言うか不二子ちゃん、山田ってバイトしてたの?」
「「知らなかったの?」」
二人同時に言わないでくれる?
何で私の山田なのに私よりも何でも知ってるの?
山田も山田よ、私に何も教えてくれないなんて。
「はあー、もうここまで来ると山田が可哀想になってくるわ。最初は最低だったけど」
「そうよね、我が娘ながら最低としか言いようがないわー。何でここまでされてても好きでいてくれたのかしら?山田くん」
「花愛さん、それは当然のことなんだよ?元々彼はストーカーだからね。皆忘れていないかい?犯罪者なんだよ?彼は。フラれても当然の結果だよね。うちの可愛い可愛い美咲に失礼なことしたんだから」
何時から居たのか、ママの隣に座って人数分のお茶を入れてくれているパパ。
美味しいけどさ、何時からいたのよ本当に。
「あら、洋平さんいつの間に?」
「花愛さんと離れる時間が惜しくて、急いて買い物を済ませて来たんだよ」
「あらー本当に鬱陶し……いえ、嬉しいわ」
うふふふと笑顔で誤魔化すママ。
パパは騙させてるみたいだけど、ハッキリ聞こえちゃってるからね。
「鬱陶しい位が愛なんだよ、花愛さん」
あっ、聞こえてたんだ。そしてそれでいいんだね?パパ。
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