◯◯の山田くん

明日井 真

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第二章

ドキドキの山田くん

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 何ヵ月も前から決めていたクリスマスイブ当日でございます。
え?なぜクリスマスじゃないのか?
だよねー俺も思うよそこは、でもねここには深い訳があるんですよ。
大体人の言う深い訳って結構浅かったりするけど気にしないで。
クリスマスって俺のイメージでは家族と過ごす日、もしくは大切な人と過ごす日って思っているのね。
まだ美咲ちゃんの彼氏さんになれてはいないから、クリスマスの予定を俺に下さいなんて烏滸がましいって思ったからイブにしました。
はいそこ、やっぱり浅かったって言わないで。

 どこかで待ち合わせとかデートっぽくしてみたかったんだけれど、起こすのも朝食も俺が作るんじゃんって思い出した。
ちょっと残念だったけれど、これはこれで夫婦みたいでいいじゃないかと思い直す。

 いつも通りの時間に美咲ちゃんのお家へ自転車をガシャガシャ鳴らせながら急な坂を登りきる。
今日、美咲ちゃんに振られてしまったらこの坂ともサヨナラになってしまう。
少し感傷的になりながら一生懸命にペダルを漕いだ。

今日もいつも通りにご飯を炊く。
いつもよりリッチな朝ごはんにしてみようとか考えてみたけれど、結局いつもと同じような朝ごはんになった。
考えても思い付かなかった訳では無いから。普通が一番ってだけだから。

美咲ちゃんを起こして、一緒にご飯食べて。
でも、いつもと同じなようで今日は違うところもある。
今日は美咲ちゃんのお目覚めが早かった。
いつもは俺がするお洋服選びもすることが無かったし、いつもより数倍可愛かった。

良いことだけど、俺がいなくても大丈夫なんだぞって言われてる見たいで、少しだけ落ち込んだ。

二人でお出掛けとか初めてのことで結構ドキドキでございます。
知識の塊で得た“男性は車道側を歩くべし!!”をきっちり守って美咲ちゃんの手に触れそうで触れない微妙な距離で歩いた。

着いたテーマパークはイブって事もあって人が多かった。
美咲ちゃんに、はぐれないように手を繋ぎませんか?なんて事を言おうか迷って、やっぱり言うことは出来なかった。
だって、ここで手を繋ごうって言って変な空気になったらどうしようって不安があったし、はぐれたとしても多分すぐに俺は美咲ちゃんを見つけられる自信がある。

人が多くてあまりにも並んでいるアトラクションは全て無視する。
美咲ちゃんを寒い中長時間立たせられないから。
美咲ちゃんが乗りたいって言ったのは別だけど、あまりアトラクションに乗ることはなくて、二人でグッズ売り場とかをブラブラしただけ。
それだけなんだけど何かとっても満たされるような時間だった。
キャラクターとだけど二人で一緒に写真も撮れた。
緊張しまくってピースが変な形になってしまったけど、即スマホのロック画面に登録した。
これでスマホを見るたび美咲ちゃんに会えると思うと只のスマホが家宝に思えてくる。



─そして日も暮れて、イルミネーションが点灯しだした。


 ここがお勧めのポイントって書いてあった場所は結構人が多くて、ここで言うのもなって少しだけ戸惑ったけど、周りはカップルばっかりで自分達だけの世界観に浸っているみたいだった。
多いけど、周りは気にしなくていいみたいだし、ネオンは綺麗だし。
よし、それでは。

「美咲ちゃん、ここまでの一連の流れから多分、いや絶対分かってるんだろうけど、ちゃんと改めて言います」

大きく深呼吸をする。
ドキドキして、もう吐きそうなくらい緊張している。
手もガタガタ震えてきた。
寒いだけじゃない、緊張からくるこの震えをどうか美咲ちゃんにバレませんようにとグッと力を込める。
きっと、この思いを言ったら終わりだって分かってる。
山田も解任される。
でも、言おうってちゃんと決めたから。俺の我が儘でここまで延ばしてくれていた期限もきっとこれが限界だってそう思うから。
そして、今まで沢山綺麗で暖かい思い出を貰ったから。
これでサヨナラでもこの思いでがあれば俺は生きていける。
さあ、これで山田も終わりだ。

「ずっと美咲ちゃんの事が好きでした。山田ではなく、俺自身のご飯を食べてほしいって思ってます。俺とお付き合いしてくださいっ」

じっと美咲ちゃんを見つめる。
あぁ、可愛いな。下を見てじっと考えている彼女を最後だからとガン見する。
ここまで真剣に考えてくれているのなら、少し期待もしていいのかな……って良いように思ってしまう。
でも、

「……ごめんなさい」

微かに聞こえた彼女の言葉に、分かっていたとは言え結構なダメージをくらった。
地面がグラグラして、立っているのもきつい。
目から出てほしくもないのに、みっともなく涙が溢れていく。


──楽しそうな、きらびやかなパレードは俺を置いて遠くの方へ行進を続けて行った。
    
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