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鬼
5話
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そんなことを思い描いた。
そして起き上がろうと両手を着いた時だった。
手首で、数珠が音を立てた。
「それは六間の施した数珠だな」
男が言った言葉に、衣音は耳を疑った。
「え…」
思わず、手首を押さえる。隠すつもりは無かった。
衣音は再び、男を見上げた。男は、笑っていた。
冷たく、薄氷を思わせる冷笑。
衣音は、背筋に冷たいものが走るのを感じた。
気付けば、床に這ったままだった。起き上がろうと膝を着く。
男は、くるりと背を向け、離れた。
呆然と座ったままの衣音は、興が逸れたのだと、自分は誂われていたのだと思った。
だから、六間の施した数珠のことも知っていたのだろう。
「あんた…誰だ」
離れつつあった男が、ピタリと歩みを止める。
僅かにこちらを見るのが分かった。
「鬼に名乗る名は無い」
「だから、俺は…!」
鬼じゃない、と続けようとして、息が詰まった。
「…?」
まただ。
息が止まり、身動きが取れない。
男に伸ばした手が宙に留まったまま、動けない。
数珠越しに、男が静かにこちらを見る。
「…っ…」
「鬼が、鬼ではないと言い張るならば、その鬼である証を見せてやろう」
男は再び、冷たい嘲笑を唇に浮かべた。
何か、嫌な予感がする。
そして起き上がろうと両手を着いた時だった。
手首で、数珠が音を立てた。
「それは六間の施した数珠だな」
男が言った言葉に、衣音は耳を疑った。
「え…」
思わず、手首を押さえる。隠すつもりは無かった。
衣音は再び、男を見上げた。男は、笑っていた。
冷たく、薄氷を思わせる冷笑。
衣音は、背筋に冷たいものが走るのを感じた。
気付けば、床に這ったままだった。起き上がろうと膝を着く。
男は、くるりと背を向け、離れた。
呆然と座ったままの衣音は、興が逸れたのだと、自分は誂われていたのだと思った。
だから、六間の施した数珠のことも知っていたのだろう。
「あんた…誰だ」
離れつつあった男が、ピタリと歩みを止める。
僅かにこちらを見るのが分かった。
「鬼に名乗る名は無い」
「だから、俺は…!」
鬼じゃない、と続けようとして、息が詰まった。
「…?」
まただ。
息が止まり、身動きが取れない。
男に伸ばした手が宙に留まったまま、動けない。
数珠越しに、男が静かにこちらを見る。
「…っ…」
「鬼が、鬼ではないと言い張るならば、その鬼である証を見せてやろう」
男は再び、冷たい嘲笑を唇に浮かべた。
何か、嫌な予感がする。
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