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「結衣の変化」
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秋の午後。
若葉メンタルセンターのグループルーム。
椅子が円になって並んでいる。
患者ミーティングの日だった。
結衣は少し遅れて部屋に入る。
手には長い袖のパーカー。
いつものように手首を隠している。
だが今日は少し表情が違った。
少年の悠斗が言う。
「来た」
結衣が少し笑う。
「うん」
このミーティングが始まって三週間。
最初の沈黙はもうない。
優斗は壁際に座り、静かに見守っている。
この時間は医者が主役ではない。
患者同士の時間。
悠斗が言う。
「昨日さ」
「学校行った」
部屋が少しざわめく。
別の少女が驚く。
「本当に?」
悠斗が照れながら言う。
「保健室だけど」
小さな拍手が起きる。
結衣はその様子を見ていた。
少し羨ましそうだった。
その時。
少女の彩が言う。
「私、昨日切りそうになった」
部屋が静かになる。
彩もリストカットの患者だった。
彩が続ける。
「でも」
少し間。
「ミーティング思い出した」
悠斗が聞く。
「それで?」
彩が笑う。
「やめた」
結衣の目が少し動く。
その言葉は強かった。
結衣が小さく言う。
「私も」
みんなが見る。
結衣は少し恥ずかしそうに言う。
「昨日」
「切りそうだった」
沈黙。
結衣が続ける。
「でも」
「やめた」
悠斗が笑う。
「すごいじゃん」
結衣が言う。
「ミーティング思い出した」
その言葉に。
優斗は静かにうなずいた。
結衣が続ける。
「ここで」
「みんな傷あるって」
「知ったから」
結衣は手首を少し見つめる。
「私だけじゃないって思った」
彩が言う。
「分かる」
悠斗も言う。
「孤独じゃない」
結衣は少し考えて言う。
「切る代わりに」
みんなが見る。
「絵描いた」
ノートを取り出す。
そこには小さな絵。
黒い線。
でも。
真ん中に小さな光が描かれていた。
彩が言う。
「いいじゃん」
悠斗が笑う。
「それ痛くないし」
部屋に少し笑いが広がる。
優斗は何も言わない。
ただ見守る。
医者が言う言葉より。
同じ痛みを知る人の言葉。
それが今。
結衣を支えていた。
ミーティングの最後。
優斗が一つだけ聞く。
「今の気持ちは?」
結衣が少し考える。
そして言う。
「まだ怖い」
少し沈黙。
「でも」
「少しだけ大丈夫」
それは。
小さな言葉だった。
だが。
精神医療では。
とても大きな一歩だった。
ミーティングが終わる。
結衣は帰り際に言う。
「先生」
優斗が振り向く。
「この場所」
「好きです」
優斗は少し笑う。
「それはよかった」
若葉メンタルセンター。
この場所は。
傷を消す場所ではない。
傷を一人で抱えない場所。
若葉メンタルセンターのグループルーム。
椅子が円になって並んでいる。
患者ミーティングの日だった。
結衣は少し遅れて部屋に入る。
手には長い袖のパーカー。
いつものように手首を隠している。
だが今日は少し表情が違った。
少年の悠斗が言う。
「来た」
結衣が少し笑う。
「うん」
このミーティングが始まって三週間。
最初の沈黙はもうない。
優斗は壁際に座り、静かに見守っている。
この時間は医者が主役ではない。
患者同士の時間。
悠斗が言う。
「昨日さ」
「学校行った」
部屋が少しざわめく。
別の少女が驚く。
「本当に?」
悠斗が照れながら言う。
「保健室だけど」
小さな拍手が起きる。
結衣はその様子を見ていた。
少し羨ましそうだった。
その時。
少女の彩が言う。
「私、昨日切りそうになった」
部屋が静かになる。
彩もリストカットの患者だった。
彩が続ける。
「でも」
少し間。
「ミーティング思い出した」
悠斗が聞く。
「それで?」
彩が笑う。
「やめた」
結衣の目が少し動く。
その言葉は強かった。
結衣が小さく言う。
「私も」
みんなが見る。
結衣は少し恥ずかしそうに言う。
「昨日」
「切りそうだった」
沈黙。
結衣が続ける。
「でも」
「やめた」
悠斗が笑う。
「すごいじゃん」
結衣が言う。
「ミーティング思い出した」
その言葉に。
優斗は静かにうなずいた。
結衣が続ける。
「ここで」
「みんな傷あるって」
「知ったから」
結衣は手首を少し見つめる。
「私だけじゃないって思った」
彩が言う。
「分かる」
悠斗も言う。
「孤独じゃない」
結衣は少し考えて言う。
「切る代わりに」
みんなが見る。
「絵描いた」
ノートを取り出す。
そこには小さな絵。
黒い線。
でも。
真ん中に小さな光が描かれていた。
彩が言う。
「いいじゃん」
悠斗が笑う。
「それ痛くないし」
部屋に少し笑いが広がる。
優斗は何も言わない。
ただ見守る。
医者が言う言葉より。
同じ痛みを知る人の言葉。
それが今。
結衣を支えていた。
ミーティングの最後。
優斗が一つだけ聞く。
「今の気持ちは?」
結衣が少し考える。
そして言う。
「まだ怖い」
少し沈黙。
「でも」
「少しだけ大丈夫」
それは。
小さな言葉だった。
だが。
精神医療では。
とても大きな一歩だった。
ミーティングが終わる。
結衣は帰り際に言う。
「先生」
優斗が振り向く。
「この場所」
「好きです」
優斗は少し笑う。
「それはよかった」
若葉メンタルセンター。
この場所は。
傷を消す場所ではない。
傷を一人で抱えない場所。
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