四人の令嬢と公爵と

オゾン層

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婚約

昨日と今朝

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__________


 ベルフェナールの朝は早い。

 街の住人は黎明れいめいから動き始める。
 公爵家の住処である城も使用人や兵士達は既に活発化していた。



 その城の一角。

 窓から差し込む光が鮮やかな壁紙を照らし、窓辺に留まった鳥が鳴いて朝を知らせる。

 柔らかな羽毛とリネンに包まれたベッドの中で、オリビアは目を覚ました。


「……此処は」


 見覚えのない風景に目を擦らせ、眠る前の記憶を辿る。寝ぼけた頭で昨日の出来事に頭を巡らせているうちに、此処が安全であることを思い出し安堵すると同時に落胆した。


「……そうだわ。婚約者は変わったのでしたっけ」


 ベルフェナールのことだけ思い出せればよかったのだが、その前の件も思い出してオリビアは朝から気分が優れなかった。
 しかし、思いふけることに時間を割くわけにもいかず、自分の体全てを包み込んでいたベッドから足を下ろした。


「こんな上質なお部屋、私には勿体ありませんわ」





 昨夜、城の案内だけで時間が潰れ、その後は公爵達と夕食を共にした。食事を済ませた後はラゼイヤが姉妹達のために用意したという一人部屋にそれぞれ連れて行ってもらったのだが、一人部屋というにはあまりに広く、豪華過ぎる様式にオリビアは恐縮しか感じられなかった。
 自分達が住んでいた実家の何十倍も美化されている室内に、オリビアは初めこそ遠慮していたのだが、

「だけどね、この部屋以外だと残るは地下牢しか無いんだ。そんな場所に令嬢様を寝かせるわけにはいかないだろう?」

と、若干脅迫まがいな勧められ方をされ断れなくなってしまった。

 そもそも、城といえど何故公爵家の住まいに地下牢があるのだとオリビアは思ったが、口に出しても良いことはないと考え何も聞かなかった。
 とりあえず部屋を用意してくれただけでも畏れ多いのだが……これだけでは終わらなかった。

「オリビア様。この度オリビア様の専属のメイドとしてお務めさせて頂きます。ルクレと申します。何卒宜しくお願いします」

「同じく、ライラと申します。宜しくお願いします」

 まさかの使用人メイド……しかも専属が二人である。

 部屋で一人きりになった途端急に現れた二人にオリビアは驚きを隠せなかったが、これも魔法なのだろうと納得してどうにか自分を落ち着かせた。
 二人も人間の種族ではないようで片方は色白で尖った耳をしており、もう片方は緑の肌をしていたが、それ以外姿形は人間に近く視覚的には安心していた。
 ただその後二人かがりで湯浴みをさせられ寝間着も自分では着させてもらえず手取り足取り色々とされてようやくベッドに寝かされたことは忘れていない。

「わ、私一人でも洗えますので」

「なりません。オリビア様はラゼイヤ様の大事な婚約者様ですから」

「隅々まで綺麗にいたしますとも」

「ですが、ルクレ様、ライラ様」

「様などつけないでください。私のことはルクレとお呼びくださいませ」

「私のこともライラで構いません」

「「どうぞ、おくつろぎください」」

「…………」

 ……いや、別に相手は同性なのだから触られても不快に感じることなど無かったのだが、まさか湯浴みで全身隈無く洗われるとは思っておらずただただ恥ずかしくてくつろげない。

 此方の国ではこれが当たり前なのか?と、考えたこともあったが絶対違うとも思った。というか絶対違うに決まってる。





「「オリビア様」」


 あまりの羞恥に項垂れていると、昨夜聞いた声が自分の名を呼んだ。
 顔を上げれば目の前にはあのメイドが二人。


「おはようございます。朝食のご用意ができております」

「あ、ありがとうございます」

「ですがその前に、お着替えのお手伝いをいたします」


 そう言ってにっこり微笑むメイド二人に、オリビアはもう何も言えなかった。

 朝から早々、抵抗も虚しく、オリビアは二人にドレッサーの前へと連れて行かれた。
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