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婚約(正式)
苦慮と助言
しおりを挟む__所変わってアミーレア王国。
自室にて、ロズワートは文字通り頭を抱えていた。
「どうすれば、どうすれば良いんだ……」
あの日以来、アグナスの命にて王宮に軟禁されていたロズワートは、この半年でだいぶ精神をすり減らしていた。
それもそのはず。
現在、アミーレアはロズワートが見てもわかるほどに不況に陥っていたからだ。
外交の術を失ったアミーレアは、国内のみの経済では国の維持も難しく、国民への税が重くなる一方であった。
アグナスも国民に無体を働かせる気などなかったのだが、国が回らない以上そうして国を保持するしか術がなかった。
これでは、いつ内戦が起こってもおかしくはなかったのだ。
こうなった原因は、明らかに自分にあることを、流石のロズワートも理解していた。
故に、頭を悩ませていたのだ。
「ロズワート様……」
その隣で、ロズワートの背中を優しく撫でているのは、あのアレッサであった。
父親であるボルテアから勘当されたあの日、アレッサはロズワートのいる王宮へ逃げ込んできた。
そして、今も我が物顔で居座っているのだ。
一応ロズワートの婚約者でもあるため、王宮への出入りは許されていたが、険悪なアグナスは極力遭遇しないよう心がけていた。
そして、今はまだ王太子である唯一の金蔓を、元気付けるフリをしている。
「ロズワート様、あまり気に病んでは体調にも障りますわ」
そう言ってアレッサが背中を摩ると、ロズワートは少しだけ救われる気がしていたのだ。
だが、アグナスからの言葉もあり、一度落ちた精神は上を向けなくなっていた。
「アレッサ、すまない……私はもう駄目だろう。あと半年後には私もただの平民だ。君のとこを王妃として迎えたかったが、叶わないかもしれない」
落胆して話すロズワートを、アレッサは真摯に聞くフリをして内心笑っていた。
(あの王太子がこんなに落ちぶれちゃって、ガキじゃあるまいし)
ほくそ笑んで、アレッサはさも残念そうな顔でロズワートを見た。
「ロズワート様、ご安心ください。私に考えが御座います」
そう言ったアレッサに、ロズワートは俯いていた顔を上げる。それは何処かやつれており、目に隈もできていた。恐らく長い間熟睡できていないのだろう。あの日以降彼は悪夢を見ていたのだから。
だが、そんなことは彼女には関係無かった。
「考え?それは一体……」
案の定食いついてきたロズワートを、アレッサは心の中で小馬鹿にした。
「……ロズワート様、貴方様はまだ王太子の地位におありですよね?」
「ああ、一応な……」
「それを利用するのです」
『利用』という言葉に、ロズワートは顔を顰めた。
「利用、とは?」
純粋な疑問に、アレッサは微笑んで答える。
「簡単なことです。王太子の権力で、ガルシア御令嬢を此方に引き戻すのです。そうすればガルシア領の件については最悪共有地として戻ってくるでしょうし、そうすれば王太子としての地位も失われないのではありませんか?ガルシア領が戻ってくれば国は元に戻りますからね」
「なっ……!」
アレッサの提案に、ロズワートは度肝を抜かれていた。
『ガルシア令嬢を引き戻す』という、奇想天外な発想だったからだ。
「そ、そんな!ガルシア令嬢はもうラヴェルト公爵家に嫁いでしまったんだ!無理に決まっている!!それに、婚約が成立しなくてもガルシア領は保護すると伝えられていたではないか!」
「それなんですが、それはあくまで『ガルシア令嬢と此方との繋がりがなくなった場合』の話ですよね?そこで考えたのですが……」
そう言ってアレッサがロズワートに耳打ちする。誰にも知られてはいけないというような、そんなことを話しているのだろう。
片耳にその話を聞いたロズワートの顔色は、みるみるうちに良くなっていく。
「そうか!その手があったか!そんなことなら嫁がせなくても良かったな!!」
アレッサの案に気を良くしたのか、ロズワートはあの頃の自信を取り戻している。その様子を、アレッサは笑うのを堪えて眺めていた。
「ああ、良かった。これならきっと父上も私を廃嫡などなさらないはず……アレッサ、君のおかげだよ」
「そんなことありませんわ。私はロズワート様のためを思ったまで……ただ」
アレッサは、蕩けるような目をロズワートに向ける。
「私、貴方様の挙式では綺麗な姿でありたいですわ」
その言葉に、ロズワートは察したようで目を輝かせていた。
「ああ!そうだな。君の美しさを引き立たせるウエディングドレスを今のうちに作っておこう!私が王太子である今のうちに……いや、私はこれからも王太子であるから問題はないのだがな」
「フフ、気が早いですわね。でも、陛下にはどうか御内密にしましょう?きっとこの案を理解してはくださらないでしょうから」
「そうだね。私達は父上の信頼を取り戻さなければ。でも、君の案なら、きっと父上は私達を見直してくれるはず!!」
すっかり元気になってしまったロズワートを、アレッサはずっとおだてていた。
彼女がとっくの昔に彼を見捨てているなんて、ついぞ考えられなかったであろう。
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