四人の令嬢と公爵と

オゾン層

文字の大きさ
52 / 101
婚約(正式)

苦慮と助言

しおりを挟む



 __所変わってアミーレア王国。



 自室にて、ロズワートは文字通り頭を抱えていた。


「どうすれば、どうすれば良いんだ……」


 あの日以来、アグナスの命にて王宮に軟禁されていたロズワートは、この半年でだいぶ精神をすり減らしていた。



 それもそのはず。

 現在、アミーレアはロズワートが見てもわかるほどに不況に陥っていたからだ。

 外交の術を失ったアミーレアは、国内のみの経済では国の維持も難しく、国民への税が重くなる一方であった。

 アグナスも国民に無体を働かせる気などなかったのだが、国が回らない以上そうして国を保持するしか術がなかった。
 これでは、いつ内戦が起こってもおかしくはなかったのだ。

 こうなった原因は、明らかに自分にあることを、流石のロズワートも理解していた。
 故に、頭を悩ませていたのだ。



「ロズワート様……」


 その隣で、ロズワートの背中を優しく撫でているのは、あのアレッサであった。



 父親であるボルテアから勘当されたあの日、アレッサはロズワートのいる王宮へ逃げ込んできた。
 そして、今も我が物顔で居座っているのだ。

 ロズワートの婚約者でもあるため、王宮への出入りは許されていたが、険悪なアグナスは極力遭遇しないよう心がけていた。



 そして、今はまだ王太子である唯一の金蔓ロズワートを、元気付けるをしている。


「ロズワート様、あまり気に病んでは体調にも障りますわ」


 そう言ってアレッサが背中を摩ると、ロズワートは少しだけ救われる気がしていたのだ。
 だが、アグナスからの言葉もあり、一度落ちた精神は上を向けなくなっていた。


「アレッサ、すまない……私はもう駄目だろう。あと半年後には私もただの平民だ。君のとこを王妃として迎えたかったが、叶わないかもしれない」


 落胆して話すロズワートを、アレッサは真摯に聞くをして内心笑っていた。


(あの王太子がこんなに落ちぶれちゃって、ガキじゃあるまいし)


 ほくそ笑んで、アレッサは顔でロズワートを見た。


「ロズワート様、ご安心ください。私に考えが御座います」


 そう言ったアレッサに、ロズワートは俯いていた顔を上げる。それは何処かやつれており、目に隈もできていた。恐らく長い間熟睡できていないのだろう。あの日以降彼は悪夢を見ていたのだから。
 だが、そんなことは彼女には関係無かった。


「考え?それは一体……」


 案の定食いついてきたロズワートを、アレッサは心の中で小馬鹿にした。


「……ロズワート様、貴方様はまだ王太子の地位におありですよね?」

「ああ、一応な……」

「それを利用するのです」


 『利用』という言葉に、ロズワートは顔を顰めた。


「利用、とは?」


 純粋な疑問に、アレッサは微笑んで答える。


「簡単なことです。王太子の権力で、ガルシア御令嬢を此方に引き戻すのです。そうすればガルシア領の件については最悪として戻ってくるでしょうし、そうすれば王太子としての地位も失われないのではありませんか?ガルシア領が戻ってくれば国は元に戻りますからね」

「なっ……!」


 アレッサの提案に、ロズワートは度肝を抜かれていた。
 『ガルシア令嬢を引き戻す』という、奇想天外な発想だったからだ。


「そ、そんな!ガルシア令嬢はもうラヴェルト公爵家に嫁いでしまったんだ!無理に決まっている!!それに、婚約が成立しなくてもガルシア領は保護すると伝えられていたではないか!」

「それなんですが、それはあくまで『ガルシア令嬢と此方との繋がりがなくなった場合』の話ですよね?そこで考えたのですが……」


 そう言ってアレッサがロズワートに耳打ちする。誰にも知られてはいけないというような、そんなことを話しているのだろう。
 片耳にその話を聞いたロズワートの顔色は、みるみるうちに良くなっていく。


「そうか!その手があったか!そんなことなら嫁がせなくても良かったな!!」


 アレッサの案に気を良くしたのか、ロズワートはあの頃の自信を取り戻している。その様子を、アレッサは笑うのを堪えて眺めていた。


「ああ、良かった。これならきっと父上も私を廃嫡などなさらないはず……アレッサ、君のおかげだよ」

「そんなことありませんわ。私はロズワート様のためを思ったまで……ただ」


 アレッサは、蕩けるような目をロズワートに向ける。


「私、貴方様の挙式では綺麗な姿でありたいですわ」


 その言葉に、ロズワートは察したようで目を輝かせていた。


「ああ!そうだな。君の美しさを引き立たせるウエディングドレスを今のうちに作っておこう!私が王太子である今のうちに……いや、私はこれからも王太子であるから問題はないのだがな」

「フフ、気が早いですわね。でも、陛下にはどうか御内密にしましょう?きっとこの案を理解してはくださらないでしょうから」

「そうだね。私達は父上の信頼を取り戻さなければ。でも、君の案なら、きっと父上は私達を見直してくれるはず!!」


 すっかり元気になってしまったロズワートを、アレッサはずっとおだてていた。



 彼女がとっくの昔に彼を見捨てているなんて、ついぞ考えられなかったであろう。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

何もしない公爵夫人ですが、なぜか屋敷がうまく回っています

鷹 綾
恋愛
辺境公爵カーネル・クリスの妻となったフィレ・バーナード。 けれど彼女は、屋敷を仕切ることも、改革を行うことも、声高に意見を述べることもしなかった。 指示を出さない。 判断を奪わない。 必要以上に関わらない。 「何もしない夫人」として、ただ静かにそこにいるだけ。 それなのに―― いつの間にか屋敷は落ち着き、 使用人たちは迷わなくなり、 人は出入りし、戻り、また進んでいくようになる。 誰かに依存しない。 誰かを支配しない。 それでも確かに“安心できる場所”は、彼女の周りに残っていた。 必要とされなくてもいい。 役に立たなくてもいい。 それでも、ここにいていい。 これは、 「何もしない」ことで壊れなかった関係と、 「奪わない」ことで続いていった日常を描く、 静かでやさしい結婚生活の物語。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

【完結】愛する人が出来たと婚約破棄したくせに、やっぱり側妃になれ! と求められましたので。

Rohdea
恋愛
王太子でもあるエイダンの婚約者として長年過ごして来た公爵令嬢のフレイヤ。 未来の王となる彼に相応しくあろうと、厳しい教育にも耐え、 身分も教養も魔力も全てが未来の王妃に相応しい…… と誰もが納得するまでに成長した。 だけど─── 「私が愛しているのは、君ではない! ベリンダだ!」 なんと、待っていたのは公衆の面前での婚約破棄宣言。 それなのに…… エイダン様が正妃にしたい愛する彼女は、 身分が低くて魔力も少なく色々頼りない事から反発が凄いので私に側妃になれ……ですと? え? 私のこと舐めてるの? 馬鹿にしてます? キレたフレイヤが選んだ道は─── ※2023.5.28~番外編の更新、開始しています。 ですが(諸事情により)不定期での更新となっています。 番外編③デート編もありますので次の更新をお待ちくださいませ。

私に用はないのでしょう?

たくわん
恋愛
サクッと読める短編集

皇帝陛下!私はただの専属給仕です!

mock
恋愛
食に関してうるさいリーネ国皇帝陛下のカーブス陛下。 戦いには全く興味なく、美味しい食べ物を食べる事が唯一の幸せ。 ただ、気に入らないとすぐ解雇されるシェフ等の世界に投げ込まれた私、マール。 胃袋を掴む中で…陛下と過ごす毎日が楽しく徐々に恋心が…。

【完結】見返りは、当然求めますわ

楽歩
恋愛
王太子クリストファーが突然告げた言葉に、緊張が走る王太子の私室。 この国では、王太子が10歳の時に婚約者が二人選ばれ、そのうちの一人が正妃に、もう一人が側妃に決められるという時代錯誤の古いしきたりがある。その伝統に従い、10歳の頃から正妃候補として選ばれたエルミーヌとシャルロットは、互いに成長を支え合いながらも、その座を争ってきた。しかしーー 「私の正妃は、アンナに決めたんだ。だから、これからは君たちに側妃の座を争ってほしい」 微笑ながら見つめ合う王太子と子爵令嬢。 正妃が正式に決定される半年を前に、二人の努力が無視されるかのようなその言葉に、驚きと戸惑いが広がる。 ※誤字脱字、勉強不足、名前間違い、ご都合主義などなど、どうか温かい目で(o_ _)o))

【完結】【番外編追加】お迎えに来てくれた当日にいなくなったお姉様の代わりに嫁ぎます!

まりぃべる
恋愛
私、アリーシャ。 お姉様は、隣国の大国に輿入れ予定でした。 それは、二年前から決まり、準備を着々としてきた。 和平の象徴として、その意味を理解されていたと思っていたのに。 『私、レナードと生活するわ。あとはお願いね!』 そんな置き手紙だけを残して、姉は消えた。 そんな…! ☆★ 書き終わってますので、随時更新していきます。全35話です。 国の名前など、有名な名前(単語)だったと後から気付いたのですが、素敵な響きですのでそのまま使います。現実世界とは全く関係ありません。いつも思いつきで名前を決めてしまいますので…。 読んでいただけたら嬉しいです。

偽りの婚姻

迷い人
ファンタジー
ルーペンス国とその南国に位置する国々との長きに渡る戦争が終わりをつげ、終戦協定が結ばれた祝いの席。 終戦の祝賀会の場で『パーシヴァル・フォン・ヘルムート伯爵』は、10年前に結婚して以来1度も会話をしていない妻『シヴィル』を、祝賀会の会場で探していた。 夫が多大な功績をたてた場で、祝わぬ妻などいるはずがない。 パーシヴァルは妻を探す。 妻の実家から受けた援助を返済し、離婚を申し立てるために。 だが、妻と思っていた相手との間に、婚姻の事実はなかった。 婚姻の事実がないのなら、借金を返す相手がいないのなら、自由になればいいという者もいるが、パーシヴァルは妻と思っていた女性シヴィルを探しそして思いを伝えようとしたのだが……

処理中です...